第281話 魔術師リアムの中級編四日目の飲み会で社長白状する

 久住社長がビクッと震えたのが分かった。


 それはそうだろう。リアムはサツキ本人に会ったことは勿論ないが、周りのリアムに接する態度を見ていればどういう扱い、しいてはどういう存在として見られていたのかは想像に難くない。言った方がいいであろう意見も相手が恫喝すると言えず、今さっき目の前の久住社長がやっていた様に明らかにただの部下にするのとはおかしい行動を取られても、きっとずっと我慢していたのだ。


 何がサツキをそういった消極的な性格にさせていたのかは分からない。だが、その気の弱さと胸の大きさが原因で、恐らく羽田に目を付けられた。そしてこの久住社長にも、だ。


 馬鹿にされ、蔑まれ、抵抗出来ないと分かっていて上の立場や物理的に強い力を見せびらかして我慢を強いる。よくぞここまで生きていてくれたものだ。リアムはサツキに感謝した。この逆境にすでに負けていたなら、リアムはきっとドラゴンに焼かれ、それまでだったかもしれない。死者蘇生もユラの腕では微妙だろうし。


「早川ユメは、貴方の愛人だな?」


 何一つ誤魔化すことなく、リアムははっきりと言った。


「えっいや、その」

「違うのか? では私がエレベーター前で見たものは別人であったか」


 すると山口がぼそっと言った。


「社長室に入る前は出来てなかったキスマークが、鎖骨付近に付いてるのを見たことがあるよ」

「うっわーきっついねそれ」


 横に座る佐川が気持ち悪そうな顔をした。


「事実か?」


 リアムが問うた。久住社長がゆっくりと社員を見渡す。全員社長をじっと見て返事を待っていた。


 久住は観念した様に溜息をついたかと思うと、言った。


「話す。話すから、……松田はどこかへ連れてって」

「あ、じゃあ僕が」


 山口が名乗りを上げた。山口は早川ユメに惚れているともっぱらの噂である。その早川と久住社長の恋愛話など聞きたくもなかろう。


 唯一、松田だけが理解していなかった。


「さ、松田さんあっちのカウンターで飲みましょうか」

「え? 何で? 社長、なんで僕除け者なんですか? え?」

「ほら松田さん、社長命令ですよ」

「はっ! 社長命令なら仕方ないね! 行こうか山口!」

「……うん、行きましょ」


 山口の心の中の溜息が聞こえた気がした。


 二人が座敷から出てカウンターに座ったのを確認した久住社長が、渋々といったていで話し始めた。


「……早川さんは、愛人です」


 田端が挙手した。


「社長、それは彼女の入社後ですか? それとも愛人枠の入社ですか?」

「はっきり聞くね……」

「だってねえ。入社後なら手を出したってことだし、愛人枠入社なら給料泥棒ですから」


 田端は容赦ない。そしてどちらにしても最低だ。木佐ちゃんは若干身を引いて久住社長を見ていた。出来ればこの場からすぐにでも立ち去りたいのだろう。辛かろうが、もう暫し耐えてくれ、木佐ちゃん殿。


 非常に言いにくそうに、久住社長が言った。


「あ、愛人枠です……」


 社員全員が、冷めた目で自社の社長を見た。

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