第249話 魔術師リアムの中級編三日目の就寝について

 リアムのこれまでの人生、男性に組み敷かれたことなどない。リアムはそもそも男性であり、至って普通に女性を好むことが当たり前だと思い生きてきた。世の中には同性同士で、という話も勿論当然の如く知識としては知っていたが、それが自分に適用されることなどないと大して関心を払わずにいた。それに男性に好かれたこともない。多分。


 だが考えてみれば、少し角度のおかしい愛情を傾けてくる女性以外は、好印象を持ち近付くが逃げられていくを繰り返し、結局は娼館の世話になっていた。そこではよく「つまらない」と言われたが、一体何がつまらないのかリアムには理解が出来なかった。聞いても皆一様に鼻で笑うだけだったので知りようがなかった、というのが正解であろう。


 話を戻そう。つまりリアムの経験はほぼ娼館での経験のみで、組み敷くことはあっても組み敷かれたことはない。


 つまり。


「ゆ、祐介! どけ! どくのだ!」

「うん……」


 何となく返答はあるが、その後暫くするとスーッという気持ちの良さそうな寝息が始まる。そういえば前にリアムの胸の上で涎を垂らしながら寝ていた時も、こいつは朝までほぼ身動き一つせずに寝ていた。それから考えるに、祐介は一旦寝ると起きない人種と思われる。


 サツキの身体は非力であり小さい。だが祐介は高身長であり、それが寝ている状態で上に乗っているので非常に重い。


 すると、祐介の手がするすると腰に伸びてきた。こいつ、起きてはいないか? 疑わしく思い、リアムはリアムの頭のすぐ横に伏せて見えない祐介の頭を必死に持ち上げた。顔が思い切り歪んでいる。うむ、寝ている。かなりしっかり寝ている。これは駄目だ。


 リアムは諦めた。まあここまで寝ていれば、何かがあることはないだろう。


 リアムは一旦祐介の頭を元あった位置にボン! と落とすと、手を伸ばして足元の毛布を取り、どうにかこうにか祐介の上に掛けてやった。思い切り既視感があるが、つい先日同じ様な状況に陥ったので至極当然のことである。


 ふう、とリアムは息をつくと天井を見上げた。この世界の天井には星空は降らないらしい。サツキはあの星空を見ているのだろうか? 


 懐かしかった。


 すると、祐介がふ、と顔を上げた。目は半分閉じている。


「祐介、起きたか。疲れているところを済まぬが、どいてくれないか」

「……どこ行くの」

「え? いや、自分の家の布団で寝ようとだな」

「消えちゃ駄目だ」

「え? いや、別に消えるつもりは」

「行くな」

「いやしかしだな」


 そこまで言うと、祐介はリアムを全身で押さえ込んでしまった。


「消えないで」


 首に触れた唇から囁きが発せられ、リアムの全身がぞくぞくっと反応した。これは拙い、拙いぞリアム!


 すると。


「……すー」


 祐介はそのまままた寝てしまったのだった。

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