第250話 OLサツキの中級編三日目の帰宅

 サツキとユラが帰宅すると、玄関の外で門番のドラちゃんとキャッキャしていたラムがぱあっと笑顔を輝かせて駆け寄ってきた。サツキの腰に飛びついてきたので、サツキはぎゅっとラムを抱きしめる。うん、この安定的な可愛さ。完璧だ。


 ユラは順応性が高いのか、それともただ単にマグノリアの家の構造を知り尽くしているのか、夕飯の支度前にそれはもう楽しそうにお風呂に入って行った。これは多分当分出てこないだろう。というか着替えも持ってきていた辺り、始めから風呂に入る気満々だったことが伺える。


 サツキはユラが上がってくるのを待つ間、壁二面の足元から天井までの本棚をゆっくりと眺めてみた。そう、ユラがマグノリア・カッセのファンだと知ったのはついこの間のことだったので、そもそもこの家がマグノリアの家だということすら知らなかったサツキにとって、これからがマグノリア、更に今はサツキ本体の中にいるリアムの為人ひととなりを知ってく時間なのだ。まだ数える程の本しか読んでいないが、やたらとマグノリアの著書が多いと思ったら、まさか本人の家だったとは。


 ユラがあれこれ家の内部のことを知っているということは、彼の著書のあちこちに今朝読んだ様な小ネタが散りばめられているのだろう。くだらない自伝なんて思ってしまって、反省だ。


 ざっと見たところ、本棚の半分近くはマグノリアの著書の様だ。これらをユラは全て読み、且つ内容も覚えているのだとしたらなかなか凄いことだ。


「でもまずは読みかけからかな」


 サツキは今朝読んでいた『これであなたも変幻自在! 目指せ変化マスター!』の続きを読むことにした。マグノリアがまだ幼いリアムに怒られたところで終わってしまっていた。メタモラの実験をあれこれ繰り返していたマグノリアだったが、禁忌魔法となっているアルテラは唱えたのだろうか。それが気になっていたのだ。


 サツキは続きを読み進める。メタモラで動物に変身したマグノリアは、その後メタモラでモンスターにも変身したが、動物の時程ぼんやりとではなかったが、非常に思考が不安定になったとある。サツキにもその意味がよく分かった。ラムに変身した際、何だかもやがかかった様な感じになり、考えることは出来たものの薄ぼんやりとしか出来なかったからだ。猫に変身した時に至っては、もう大して何も考えられなくなった。


 マグノリアも、メタモラで人間以外のものに変身してはならないと締め括っている。


 まだ続きがあった。そこには、それまでの少し愉快なマグノリアではなく、酷く悩む彼の姿があった。真剣に考えているその内容は。


 アルテラで、かつて別れた恋人の姿に変身し、その心にまだ自分がいたのかを確認したい、というものだった。弟子がいるのでアルテラ・フィンで解除は出来る。だが、彼女が自分から去っていったその理由をこのまま知らずに天寿を全うするか、それとも疑問を解くべきか。物凄い悩んでいる。悩んでいるが、悩むところが違う気がした。


 サツキはページをめくった。

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