第230話 OLサツキの中級編三日目の買い出し

 貸衣装屋を後にしたサツキ達は、今度は朝市が開かれている広場へと移動した。もう食材が何もない。春祭りは今日までの様なので、屋台はいつもよりも沢山出ているだろうが、例えリアムの姿でももう今夜は祭りには参加したくなかった。


 一昨日はシーフに狙われ、昨日はユラとあれこれあり。さすがに今夜は家でゆっくり過ごしたい。それにまだこの後鑑定士に二つ名を付けてもらうという作業も待っている。


 正直二つ名はリアムの業績によるものなのでサツキが貰うのは如何なものかと思うが、ギルド購入品一割引は大きい。ウルスラの銀行残高が相当減ってしまったことも考えると、やはり出費は出来る限り抑えたいというのが本音だ。


「食糧、これだけで足りんのか?」


 サツキが自分で持つと固辞した荷物を半ば無理矢理奪っていったユラが聞いた。ユラは腕に大きな袋を抱えており、これ以上はとても持てそうにない位の量になっているのに。


「そんなに食べないし、ラムちゃんもご飯食べないし」

「俺は結構食うぞ」

「は?」

「何俺を除外してんの?」

「え? は?」

「俺は先生だろ?」

「え、いやまあそうだけど」


 するとユラが偉ぶってのたまり始めた。


「マグノリアの家だぞ? 魔術書が溢れ返ってたじゃないか。魔術の勉強をするには最適な環境だぞ」

「うん、それで?」

「……引っかからないか……」


 ぼそりとユラが呟いた。やっぱりか。


 でも、可笑しくなってしまってつい笑ってしまった。これでサツキの負けだ。ユラがそんなサツキを意外そうな顔をして見ていた。


「素直に言えばいいのに。マグノリアの家に興味があるからいたいって」

「ばれてた?」

「はは、ばればれだよ」


 すると、ユラが観念した様に笑った。そういう表情をすると、途端に子供みたいに見える。そういえば、この人っていくつ位なんだろうか。


「そう、俺マグノリアの家にもっといたいんだよ。あの人が書いていた風呂のレオニアとの喧嘩とか、篭ってみたら開かなくなった天井裏とか、見てみたいんだ」


 レオニア。サツキが勝手に獅子丸と名付けたあの子のことだろう。天井裏は分からない。居住者のサツキよりも家に詳しいユラ。どれだけマグノリアの著書を読み込んだのだろうか。


 そしてある日突然適性がないと言われ、夢を諦めざるを得なかったユラ。


 サツキには夢も目標もなかった。だから夢が叶わないと分かった時の気持ちは、正直分からない。


 でも。


 別の道を選び、それでもまだ好きだと堂々と言えるユラは、強い。それは逃げてばかり、横に置いてばかりのサツキには絶対に出来ないことだった。


「ユラは好きなことがあって、いいね」


 サツキがそう言って笑うと、ユラは途端に悲しそうな表情になったのだった。

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