第226話 OLサツキの中級編三日目、先生交代

 早くリアムの姿に戻りたい。


 サツキは心から願った。かつてここまでリアムの姿になりたいと願ったことがあっただろうか。


 横を機嫌よさそうに歩くユラをチラッと見ると、薄い笑顔が返ってきた。いやいやいや、こいつ自分がたったさっきやったことを何とも思ってないのか。そして何故ラムまで嬉しそうなのか。この二人は何か連動でもしてるんだろうか。


 そして悲しくなる位抵抗出来ない自分が恥ずかしい。ていうか本体リアムだし。おっさんだし。ユラはよくおっさんにキスしようなんて思ったものだ。実験とか言っていたけど、何か進んでやっている気がしてならないのは気の所為だろうか。


「サツキ、店はどれだ?」


 まあもう起きたことは仕方がない。午後にはリアムに戻るから、それまではユラが言う通りなるべく余計なことは思い出さない様にしよう。


 絶対これはアールに対する欲求不満の吐け口にされている気がする。でも思い切り怒れないのが悔しい。


「サツキってば」

「……あれ」

「お、あそこか」


 サツキが指差した店へ、腕を掴まれたままズルズルと引き摺られて行った。というかなんで腕掴まれてんの。結構痛いし。


「ユラ、逃げないから離して」

「さっき逃げようとしただろ」

「それはさっきユラが……」


 すると、ユラが実に性格の悪そうな笑顔を惜しげもなく見せ、言った。眩しい程の輝きだ。腹が立つ。


「俺が、何だって?」

「いや、その」

「ちゃんと言わないと分かんねえし」

「性格悪過ぎない?」

「そんなの始めから分かってんだろ?」

「……確かに」

「そこは否定してくれよ」


 サツキは黙り込んだ。するとユラが呆れ顔になった。


「サツキは怖がりだな」

「何、突然」

「俺のことを嫌いじゃないのは知ってるぞ」

「へ? ま、まあ仲間だし」


 言いたいことが分からない。


「キツイことを言うと怖がるけど、すぐ許してくれる」

「だから仲間だし」

「キスされても怖がってたけど嫌がってはいない」

「え、いや、そんなことないですけど」


 何を根拠にそんなことを言い切っているのか。イケメンだからか? イケメンは性格が悪くても嫌がられないと言いたいのか?


「嫌なら隣にいないだろ」


 ズバッと言われ、サツキは何かを言おうとし、……言い返せなかった。


「つまりは怖いんだ。俺以外の何かが怖いんだな」

「それはまあ……まだこっちのこともよく分からないし……」


 すると、ユラが偉そうに提案してきた。


「なあ、そうしたら、俺がサツキの先生になってやるよ。アールは先生に向いてないし」


 そのひと言で、サツキは納得した。そうか、そういうことか。ユラは早くサツキを独り立ちさせて、アールの先生役を辞めさせたいのだ。でもまだまだサツキが慣れないから、だから自分が名乗り出た。


 アールを取られたくないだけの、可愛らしい嫉妬じゃないか。


「なら、うん。ユラにお願いしようかな」

「任せておけ! 魔術もしっかり仕込んでやるから」

「うん、頼むね」


 サツキは笑ってそう返した。返して、自分が少しがっかりしていたことに、少し、そうほんの少しだけ驚いた。

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