第224話 OLサツキの中級編三日目の困惑

 サツキがサツキの世界のことを思い出さない様にする、と何度か約束した後、ようやくユラとラムはサツキを解放した。

 

 改めて貸衣装屋に向かい始めたが、二人共チラチラとやたらと見てくるので非常に居心地が悪い。


「ちょっと、そう見ないでよ」


 だがラムはまだ泣きそうな顔でひし、とサツキの腕にしがみついている。本当に何があったのだろうか。訳が分からなかった。


 なので、分かっていそうなユラに尋ねてみた。


「ねえユラ、さっきは二人共どうしたの?」


 すると、ユラがじーっとサツキを見た後、首を横に振った。余計意味が分からない。


「ねえってば」

「言うとお前が怖がるから、言わない。あ、その後は滅茶苦茶怒りそう。余計言えねえな」

「いやちょっと、そっちの方が怖いんですけど」

「昨日は全然だったのに」

「ちょっと説明してってば」


 すると、ユラがあっという顔をした。


「まさか」

「なにが」

「いやでも経験がなかったというところは向こうとは違う部分みたいだし」

「経験?」


 嫌な予感がした。隣を歩くユラから少し距離を置こうとしたが、肩をガッと掴まれ前に立ち塞がられてしまった。


「な、な、何」


 顔を覗き込んでくるクールビューティーっぷりが眩し過ぎて、サツキは顔を背ける。昼間のイケメンの至近距離はやばい。爆死レベルだ。


 アイドルは遠くから見守るからいいのだ。近くで見てはいけない。尊過ぎる。


 ちら、とユラを見ると、まだじーっと見ている。一体何をそんなに熱心に見ているのか。


「あの、そろそろ離しませんか」

「ちょっと黙ってろ」

「……説明……」


 するとユラは一人納得して頷いた。そろそろ殴ってもいいだろうか。いや、メテオを降らせてもユラなら何とか自力回復するかもしれない。


「怖い顔するなよ」

「仕方ないでしょ」

「うーん、昨日はもっとくっきりだったなあ」

「説明」

「しねえってば」

「そろそろ燃や……」

「させねえよ」


 肩を思い切り抱き寄せられ、またもや口を塞がれてしまった。いやいやユラさん、それは酒の所為だったんじゃないのか。


 ぱ、と口を離すと、ユラが言った。


「今のは呪文を唱えさせない為だ」

「は……」


 あまりの理由に、サツキの開いた口が塞がらなくなった。ユラはまたじっとサツキの顔を覗き込むと、一人納得した風に頷いた。こいつはやっぱりそろそろ燃やした方がいいかもしれない。


「やっぱりこれだな」

「何が」

「いいかサツキ、これは実験だ。俺の私利私欲の為じゃない」


 非常に拙い気がして、サツキは全力で逃げようとし、勿論力でユラに勝てる訳もなく、されるがままにまたもや唇を奪われた。昨日からこいつは可笑しい、一体何考えてるのかさっぱり分からない。というかちょっと何また口の中に入れてんだ笑うなそこ!


 ぷは、とユラが顔を上げると、サツキをまたじっと見てにやっと笑った。信じられないこいつ。どれだけ好き勝手やるんだ。


 すると、ようやく前を向いたユラが偉そうに上から目線で言い放った。


「サツキ、次に元の世界のことを思い出したらこれな」

「は?」

「決定だからな」


 あまりにも勝手な言い分に、サツキは何も返すことが出来なかった。

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