第198話 OLサツキの中級編二日目、春祭りに見かけた人
再び魔法を解除して今度は動く鯛焼きの様な物にビチビチ抵抗されつつ食べていると、今日もあの聞き慣れた声が聞こえてきた。
「母さん、これだろ? 食べたがってたやつ!」
声がした方を見ると、アールがアカイロタコモドキの水槽の前にいた。今日も両親と祭りを回っている様だ。
「サツキ、行こう」
ユラがサツキの肩を抱き、急ぎ回れ右をする。
「挨拶しなくていいの?」
好きな相手なら、ちょっと挨拶位したくないのかな、と思ったのだが、ユラの表情は苦虫を噛み潰した様なものになっていた。
「お前といるだろ」
「? まあ、いいならいいけど」
正直サツキもアールにはこの格好では会いたくない。
二人はそそくさと家屋の壁際に移動する。移動しつつ、ああ、と思った。アールにサツキといるところを見られて誤解されたくないのだろう。恋する男は難儀なものだな、と少し微笑ましく思った。
「何にやけてんの」
「別に」
ユラが後ろの方にいるアールをちら、と確認すると、「げ」と言った。急ぎ抱いていたラムを降ろすと、サツキに抱かせる。
「いいかサツキ、
「え!? あ、ブラインド!」
とりあえず言われるがままに呪文を唱えると、さすがはリアム、アールがかけた魔法とは違い、ほぼ足しか見えなくなった。アールのは顔だけだったので、やはり適性があるなしでここまで違うらしい。
「いいか、絶対動くなよ。ラムも見えない様に絶対降ろすな」
ユラが言ったその直後、向こうからアールが手を振って非常に爽やかな笑顔で駆け寄ってきた。
「ユラ―! おーいお前何やってんだよ! 祭りには参加しないって言ってたじゃないか!」
「……アール、今日も無駄に元気そうだな」
「法衣も着ないでどうしたんだよー! 俺もうずっと親と一緒でさー疲れちゃった、あははっ」
「見て分かるだろ、飯食ってんだよ」
ユラは手の中で踊る半身になった鯛焼きを見せた。
「なんだ、てっきり女目的かと!」
「俺はギラギラしてる女は嫌なんだよ、知ってるだろ」
「前に言ってたな! 追いかけて追い詰めて逃さないようにするんだろ、知ってるってー!」
アールがユラの恐ろしい事実をぺらっと喋った。まさか自分が追い詰められようとしていることにアールは気付いておらず、少し憐れみを覚えた。
「ほら、さっさと戻れよ」
「えーちょっと位話しようぜ、もう飽きちゃって……て、あれ?」
アールがこちらに足を向けた。しまった、ばれたのか。面倒臭いのは嫌だ、ユラ、何とかして欲しい。
「……誰?」
「誰でもいいだろ」
「あ、祭りに参加しないって言ってたのって、彼女と過ごしたいが為の嘘だったのか!?」
「いいから、ほら、あっち行けって」
「何で隠すんだよー見せてくれよー」
「うっせえな」
「けちっ」
アールがべ、と舌を出した。まるで子供だ。次いで笑いながら手を上げた。
「ま、紹介する気になったら紹介してくれよな! じゃあごゆっくり!」
そして嵐の様に立ち去っていったのだった。
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