第173話 魔術師リアムの中級編初日の昼はまだ列に並ぶ
そっちではない。祐介はそう言ったが、ではどっちだ。リアムは首を傾げる。
「はて」
「分からないならいいってば」
「いや、でも尋ねたのは私だからな、きちんと理解を」
「あーもおおおっ」
祐介が周囲を見渡した後、リアムの耳元で小声で言った。
「サツキちゃんが、木佐さんに惚れちゃうんじゃないかって心配になって、面白くなくなって、それで怒りました! それで怒った自分にびっくりしたんです! これでいい?」
「木佐ちゃん殿に私が惚れる? まあ美人で聡明な方だとは思うが……」
「もうすでに褒めまくってるじゃないの。僕にはそんなのしない癖に」
祐介がぶすっと膨れている。それでリアムは得心がいった。
「祐介、お前は木佐ちゃん殿ばかりが褒められて悔しかったのだな? やきもちなどと言うものだから驚いたぞ。ははは」
「……伝わってねえ……」
確かに祐介は出会ってからというもの、ずっとリアムにこちらの世界のことを事細かに声が枯れるまで説明してくれていたのに、今日会ったばかりの木佐ちゃんのことを目の前で褒められては努力が報われないと思ったのだろう。
現に今正に、祐介は不貞腐れた顔をしてそれを隠そうともしていない。
「よしよし、そう不貞腐れるな」
そう言うと、リアムは祐介の頭を撫でてやった。丁度前で待っていた客も中に入っていったところなので、多少子供扱いされても誰に見られることもない。祐介の矜持も守られるだろう。
「私はちゃんと祐介に感謝しているし、祐介といて楽しいぞ? これからも一番頼りにしているから、もう怒らないで欲しい」
すると、撫でていた手を祐介が握って降ろした。さすがに子供扱いし過ぎたか。祐介の顔を見ると、またあの艶っぽい目でこちらを見ている。何故そんな目になる、どうした祐介よ。
「じゃあもう怒らないから、僕の扱いを雑にしないでね」
「雑になどしていないぞ」
「いや……結構……」
「それにしても待つな。頭が暑くなってきたぞ。せめて日陰があればいいのだが」
「じゃあ僕の出番だね」
「へ?」
祐介がリアムの背後に回ると、後ろから抱きすくめた。
「ゆ、祐介、何をしている」
「何って、日陰作ってるんだけど」
「いや……暑いのだが……」
「だってくっつかないと日が真上にあるもんね。影出来ないでしょ」
「それはそうだが、でも」
道行く人々の視線が気になって仕方ない。
「……午後はさ、頑張って機嫌直すから」
「……うむ」
「だから、落ち着かせて」
そう言われてしまうともう何も言い返せない。どうも祐介はシャンプーの香りに異常な程落ち着きを感じるらしいので、これで心の平穏を得ようとしているのだろう。
「あーいい匂い」
祐介が言った。
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