第172話 OLサツキの中級編初日の春祭り散策
人の流れに逆らう形で中央広場から遠ざかるサツキとラムの目に飛び込んできたのは、大道芸人達の芸をする姿だった。魔法をうまく取り入れているのだろう、仮面をつけたさながらピエロの様な男が、浮いた大きなボールの上でラッパを吹く。詰まったのか焦りを見せると、大袈裟に吹いてラッパから飛び出してきた物は、光で出来た妖精達だった。
これは一体どんな魔法なのだろうか。サツキが目を奪われて見ていると、ラムの手に力が籠もる。ラムを見下ろすと、夢中になって見ていた。その様子があまりにも可愛くて、サツキはラムを抱き上げた。
「ラムちゃん、高い方がよく見えるよ」
ラムの顔にぱあっと笑顔が咲く。だけど胸に手を乗せるのは止めて欲しい。スライムだけあって、にゅるんとしたものが谷間に入り込んできた。
「ちょっちょっラムちゃんっ胸触ってるから!」
あ、という表情をして、ラムが胸の上から手をどけ、首に抱きついた。うん、こちらの方が安定する。痴漢に一瞬触られたことはあっても、こんなにじっくりと触れられたことは今まで一度もない。こんな小さなしかも女の子だというのに、ゾワッとしてしまって我ながら恥ずかしかった。
よく世の中の皆は素っ裸になってあれこれ出来るものだ。サツキにはもう絶対無理そうだった。一緒に女湯に入るのだって恥ずかしいのに。
空で舞い踊る妖精達が煌めく花火となって散って、ショーは終了した。サツキはラムを降ろす。
「ラムちゃん、ちょっとお腹空いちゃった。食べ物を見に行っていい?」
ラムがこくこくと頷いてくれたので、サツキは早速食べ物を探しに先へと進む。時折、グラスを片手にしている人々とすれ違った。先程着付けをしてくれた貸衣装屋の女性から、このお祭りに解禁となるラーメニアという花のエキスが入った薬酒を炭酸で割ったものが有名で、地域の発展の為無料で振る舞われていると聞いた。それでも飲んでいるのだろうか。皆揃って同じグラスを持っている。
ラーメニアがどんな花なのか分からず聞きたかったが、着付け中に怒涛の勢いで喋られ、頷くに留まってしまった。飲みすぎ注意、一杯にしないとね、うふふと笑っていたので相当キツイお酒なのかもしれない。
美味しそうな香りが漂ってきた。スルメイカの様な場違いな匂いがして、ここは本当に神社の祭りじゃないのかと笑ってしまった。どこからその匂いがするんだろう、そう思って匂いを辿ると、球体の大きな水槽の中に、タコの口がない様な生き物が泳いでいる店があった。魔法の水槽なのか、穴は何処にもなく、張り付いた足の中心には恐ろしげな牙が覗いていた。
「き、気持ちわる……」
だが匂いの元はここだ。つまりこれを焼いているのだ。
「ら、ラムちゃん、別のにしよう」
まだバルバイト団子の叫びの方がましだった。
サツキは辺りをキョロキョロと見回す。折角ならまだ食べたことのないものにチャレンジしてみたい。どんどんと奥の方へと進んでいった。
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