第152話 OLサツキの初級編三日目、終わりかけ

 ウルスラと一緒にリアムの家まで帰り、二人は別れた。


「じゃあサツキ、また明日ね」


 ウルスラが笑顔で手を振る。サツキは笑顔で玄関でウルスラを見送った。少し寂しかったが、これからはラムがいるからきっと大丈夫だ。


「さて、と」


 ラムはソファーででろんとなっている。モンスターも疲れるのだろう、今日はそっとしてあげた方がいいかもしれなかった。


 サツキは書斎へと向かった。持って行っていた魔術書『初めてのダンジョン攻略・魔術編〜これであなたも冒険者に!〜』を元々あった場所に戻すと、その隣にある同じ色の本を取り出した。『これであなたも中堅に!ダンジョンでも使える中級魔法』と書いてある。


「イルミナ、イルミナ……あった!」


 イルミナについて書いてあるページをじっくりと読む。イルミナよりも効力が長い呪文のヒント、せめて名前だけでも書いてないだろうか。


「あ」


 ページの下の方に、『その他の変身魔法については、著書『これであなたも変幻自在! 目指せ変化マスター!』を参考のこと』と書いてある。


 この著者はどうも題名の付け方がおかしい様に感じる。ワンポイントアドバイスも何だかずれているし。背表紙を見る。著者はマグノリア・カッセとあった。ユラなら誰か知っているかもしれない。明日にでも聞いてみよう。


 本棚をじっくりと探す。


「これであなたも、これであなたも……あった!」


 これまた似たような色味の本を探し出し、サツキは今度は始めのページから読み始めた。普通に分厚い本なのでそんなに変化の呪文は種類があるのかと思ったら、なんと前半は殆どが著者紹介だった。生い立ちから始まり、初めてのダンジョンで覚えてよかったことが書いてあるのを読んだ後、これ以上読む必要はないと判断しページをめくっていった。せめてあとがきに半生でも綴ってくれればいいものを、と思ったが、そうしたら確実に読まれないだろうことはサツキにも容易に想像が出来た。マグノリアさんなりの読まれる知恵なのかもしれなかった。


 本のかなり後半部分にそれはあった。


『メタモラ。イルミナの上位魔法。外見のみを変化させる。効果は一日。一日の使用制限はないが、最後に変化した者の姿をその後一日解除出来なくなるので注意が必要』


 成程。一日に何度でも変身出来るけど、最後の姿で二十四時間過ごさないといけないということか。ちょっと使いづらそうだ。


『アルテラ。上級の変化魔法。記憶も全てその変化対象と同一となる為、傍に予めアルテラ・フィンを唱えられる人物を用意しておく必要がある。リュス王国国王入れ替え事件の後、現在は禁忌魔法とされる。絶対に使用しないこと』


 じゃあ載せちゃ駄目じゃないか、そう思ったが、してはいけないことを敢えて表に出すということももしかしたら大事なのかもしれない、と思い直した。しかし国王入れ替え事件て。詳細が気になった。


 すると、実際使えるのはメタモラだけだ。


「あ、最後にリアムになれば問題ないんじゃ?」


 それはいい考えだ、とサツキは自分の考えにうんうんと頷いた。

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