第151話 魔術師リアムの初級編三日目夜はもうちょっとだけ

 薬局で無事ストッキングなる代物を購入し、リアムと祐介は帰路についた。


「じゃあ僕が一回サツキちゃんの家に行って、会社に着ていく服の組み合わせとかを教えるから。それから動画見て、今日は僕は帰るよ。今日は夜の内にお風呂に入るんだよ。目覚まし時計も掛けておくから」

「祐介、それだと一つ問題がある」

「ん?」

「ドライヤーだ」


 祐介が一瞬止まり、次いで破顔した。


「そうでした。僕の大事な仕事だ」

「済まぬな……自分でもそろそろいい加減出来る様になりたいとは思うのだが」

「やる。あれは僕の仕事だから取らないで」


 忘れていた癖にそういうことを言うのはさすがというか。


「じゃあお風呂入ったら、サツキちゃんちに入って待ってるよ。それでスーツ選んでおく。サツキちゃんはゆっくり入ってるといいよ」

「分かった」


 実は湯船に浸かりたかったのだ。それに顔に塗りたくられたこの化粧も早く落としてしまいたかった。二人は家の前で別れた。祐介はやはりリアムが完全に家に入るまで外で待機している。きっと、鍵を掛けるまでいるのだろう。何から何まで申し訳ないが、その気持ちは嬉しかった。これまで、亡くなった師以外にこれ程リアムのことを気遣ってくれた人間など皆無だったから。


 風呂にお湯を溜めながらリアムは思う。本当にこの先、女として生きていく覚悟が出来るだろうか。もし、そうもしもその覚悟が本当に出来たら、その時は隣には誰がいるのだろう。


 それが祐介、という可能性は?


 考えて、リアムは首を横に振った。ある訳がない。祐介は中身がリアムだと知っている。伴侶が出来るとしても、リアムの存在は隠さねばうまくはいかないに違いない。先程あの様にからかわれたから、ついそんな馬鹿なことを考えてしまったのだ。


「グシャグシャだ……」


 どんどん横に積み上げている不可解なことが増えていく。少し落ち着いて慣れてきたら、その時はきちんと一つずつ読解していこう。


 リアムは服を脱ぐと溜まった湯船に浸かる。気持ちよかった。


「あ、着替えを忘れた」


 取りに行こうか、そう思ったが、まあまだ祐介はいない。となれば少し急いで終わらせればいいだろう。リアムは残念だが少し急ぐ。しかしこの化粧がなかなか落ちない。


「郁姉は塗りたくり過ぎなのだ……!」


 つい愚痴が溢れた。だが、祐介はとても喜んでいた。もう少し化粧にも慣れたら、その時は郁姉にやり方を聞くのもやぶさかではない、かもしれない。


「こうしている場合ではない!」


 リアムは急いでシャワーで泡を流し急いで終わらせると、身体を拭きつつ部屋へと向かう。祐介が来る前に服を着ておかねば、また正座で怒られる。あれは足が辛いから出来れば避けたかった。


 すると。


 スマホ片手に、風呂上がりなのだろう、頭を濡らし、首にタオルを掛けた状態の祐介がベッドに腰掛けていた。


 全然気付かなかった。シャワーの所為だ。拙い、後ろへ下がろう。リアムが後ろへ一歩下がると、壁に肘が当たった。


「あ」

「あ、サツキちゃんおわ……」


 祐介が顔を上げた。祐介の視線が裸の身体に注がれるのが分かった。

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