第137話 魔術師リアム、初級編三日目午後の写真撮影会

 祐介が「笑って!」とあまりにもにこやかに言うので、リアムは仕方なく笑った。


「……やばい」


 祐介がまたドン! と心臓の辺りを叩いている。やはり何か疾患でもあるのではなかろうか。頻度が多すぎる。スマホからは、カシャシャシャ! と何だか凄い音がした。


「あ、サツキちゃんこっち向いて今度はちょっと睨んで!」


 何と郁姉までスマホを取り出してこちらに向けている。何なのだ、この姉弟は。


「はうううっ堪んねえ! さすが私! 原石を磨くこの手腕!」


 そして何か悶えている。


「あの、もう今日は勘弁して欲しい……」

「あー サツキちゃんちょっと待った!」


 祐介が箪笥の上に置いてあったサツキのガラケーを持ってくると、それを勝手に立ち上げカメラボタンと説明を受けた箇所を押す。


「回転てどれだ? あ、これか」


 そして、リアムの隣に腰掛け、肩を抱いた。顔が物凄く近い。


「祐介、何を……」


 ああ、叱りつけられないこの状況が腹立たしい!


「画面見て」


 すると、そこに映っていたのは少し気の強そうな顔をしているが美しい女と、それにぴったりとくっついている祐介。何故サツキの携帯電話に祐介が見知らぬ女と写っている絵があるのだろうか。リアムが眉間に皺を寄せると、その女も眉間に皺を寄せた。ん? ということは。


「ほらサツキちゃん笑って笑って!」


 無理やり笑顔を作ると、祐介が携帯電話のボタンを押した。カシャ、と音がする。もういいだろうか。動こうとすると、肩を抱く手に力が入った。


「僕の方も撮らせて」

「……早くしろ……じゃない、して、下さい」

「……うはあ……」

「何だ、じゃない、何?」

「……その顔で罵倒されたいかも」

「熱でもあるのか」

「ほら、笑って笑って」


 祐介のスマホの方はかなり綺麗な画像が映った。まるでミラージュの魔法の様だ。


「ほっぺくっつけちゃって! うへへ、うへへへ!」


 郁姉までまたスマホを構えている。もう嫌だった。訳が分からない。何故こんなにあれこれさせられるのか。そして何故この姉弟はこんなに楽しそうなのか。


 郁姉に言われた通り、祐介がリアムの頬に頬をくっつけた。カシャシャシャシャ! と物凄い音がする。


「祐介! 少し上から撮ると、谷間が強調されるわ!」

「えっ」

「こら祐介、それはいくら何でも……」

「祐介、もっと身体引き寄せて胸を持ち上げるのよ!」

「はい」

「はい、じゃない!」


 祐介がリアムを祐介の方にぐっと引き寄せ、上の方から写真を撮る。祐介はにっこにこだ。どうした祐介、何があった。


「うへへ!」

「サツキちゃん笑って!」

「……笑えぬ……」

「……くすぐろう」

「えっ祐介、お前一体何を……あははははは!」

「サツキちゃんいい笑顔! 祐介、胸をもっと!」

「止め……あはははは!」


 うららかな午後。サツキの家に、物悲しいリアムの笑い声と写真を撮る音が鳴り響くのだった。

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