第136話 OLサツキの初級編三日目の特訓、振り回され疲れ果てる

 目の前で今繰り広げられている光景は、本当に現実のものなのか。


 巨大隕石が落ちた後の惨状は、言葉に言い表せない。地面もまだ揺れてるし、足にしがみついているラムの身体だってぷるぷる震えている。これは多分地面の振動の所為かもしれない。


 でもサツキが震えているのは、その恐怖の所為だ。


 すると、先程のメテオと同様、ふ、と景色が一瞬で変わった。何なんだろうこの現象。ああいった特殊魔法っぽいものを唱えると、バトル参加メンバーだけ別の空間に飛ぶんじゃないか。でないと説明がつかない。


「おい、もう終わったぞサツキ。……サツキ?」


 ユラを掴んでいた腕から力が抜けてしまい、へた、と地面に尻もちをついてしまった。腰が抜けてしまったのだ。


 サツキは自分の手を見つめる。ガクガクいっている。足にしがみついていたラムが、足の隙間からにゅるんと出てくると、恐怖に引き攣った顔でサツキにしがみついてきた。サツキは、ラムをギュッと抱き締めた。


「怖かった……」


 涙が出てきた。どうしよう、止まらない。また馬鹿にされる。自分で唱えた呪文でびびるなんて情けないって、きっと言われる。


 すると、後ろからスタスタとこちらに近付いてくる足音がする。それがユラの後ろで止まったと思うと、ゴッチーン! という物凄い音が鳴り響いた。


「そういうところが! 駄目だっつってんでしょ!」

「くっ……このゴリラ女! 何するんだよ!」


 ウルスラがユラの頭を殴ったらしい。


「アール! ユラを確保!」

「はい!」


 アールがユラの腕を掴み、後ろに捻った。


「いってえ! 何すんだよアール!」

「悪い、俺には逆らえない」

「ユラ! サツキに謝る!」


 ビシッと指を差し、ウルスラがユラに言った。だがユラは素直に謝る様な人間ではない。


「何でだよ、勝っただろ、いいじゃないか」

「アール! もっと捻り上げて!」

「はい!」

「いててててて!! 分かった、悪かった! て何がだよ! 分かんねえよ!」


 確かに謝る理由も分かっていないのに謝ってもらったところで、お互い何の意味もない。


「泣かせたことをよ! 怖がらせたことをよ!」

「俺はただ、サツキに自信持ってほしくてっ」

「え?」


 そうだったのか? てっきりウルスラへの意趣返しに利用されたのかと思ってたのだが。


「まだ中級魔法もろくに覚えてないサツキがあんなの唱えたら、びびるでしょうが!」

「何だよ! そもそもウルスラが俺のことを心底馬鹿にしたからだろ!」


 やっぱりそれもあったか。ユラが叫ぶ。


「お前、本気で馬鹿にしてたじゃないか! アールは分かってないしさ、まともなのはサツキだけだったんだ、でもこいつも不安定だしさ!」

「不安定……?」


 確か、前も言われた。どういう意味だろう。


「あーもう! 今日は俺調子悪いんだよ! さっさと最下層のボス倒して終わりにしようぜ!」

「あの……目、ずっと擦ってるよね。目がおかしいの?」


 サツキが尋ねると、ユラがぶすっとしてそっぽを向いたまま黙ってしまった。

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