第116話 OLサツキ、初級編三日目開始

 昨夜採ってきた果物の内、紫色の林檎は林檎ではなく、何と中身は酒だった。食べてもいいだろうということでユラに手渡され一口齧った時の違和感。中に入っていたのはいうなればウィスキーの様な濃い味のアルコールきつめの酒で、口に入れた瞬間むせてしまった。


 ユラは人を指差し笑い転げていた。人のことを目障りだと言った後だというのに、何でもなかったかの様に振る舞う。全く理解出来ず、もう理解したいとも思えなかった。


 もう一つのどピンクの小玉スイカは、こちらはちゃんと果物だった。ドラゴンフルーツの様な味で、美味しかった。


 バリアーラの呪文は、外にアールがいたら全く意味をなさないことが分かったので止めた。それにサツキは男の身体だ、何がどうなることもあるまいと、ようやく冷静になった頭で考え結論付けた。それに正直、ウルスラと寝るのはもう勘弁だった。また不用意に触られたら溜まったものではない。


 温泉と強い酒の効果もあってか、ベッドに横になると即座に寝てしまった。


 朝、目が覚めると辺りは静かだった。サツキはベッドから出ると、誰か起きていないか確認をする。ベッドの前にはそれぞれの靴が並べられており、まだ皆が寝ているのがそれで分かった。


 実は、昨日のウルスラの言葉が気になっていたのだ。女湯は広い、確かにそう言っていた。恐らく男湯も広いのだろうが、万が一アールやユラが入ってきてしまうとさすがに気まずい。


 であれば。


 男の姿で女湯に入ろうとすると雷魔法が発動する、と聞いたので、サツキは本来の自分の姿を思い浮かべ、呪文を唱えた。


「イルミナ!」


 杖の先端が光り、背が縮み胸が膨らむ。よし、レッツ女湯だ。いそいそとタオルを取り出し風呂へ向かおうと振り向くと。


 目の前にユラが立っていた。


「うわっ!」


 ユラは目を擦っては怪訝そうにサツキを見ている。


「……何?」

「あれ、その声。本物か」


 ぶつぶつと呟いている。独り言みたいだ。サツキは構わないことにした。


「お風呂入るから、じゃ」


 ユラの横を通り過ぎようとすると、目で追われているのが分かった。何なのこの人。リアムの中身がサツキだって分かってから、何か態度がガラリと変わって不愉快だ。


 リアムの中身がサツキでもいいと、ユラだって言っていたのに。


 サツキは急いで女湯に入った。当然のことながらあの視線はもう感じられなくなり、サツキはほっとしてしゃがみ込みそうになる。


「あ、駄目よ! 一時間しかないんだから!」


 一時間以内に出ないと、リアムの姿に戻ってしまう。出るのが間に合わずに明日までここに閉じ込められでもしたら溜まったものではないし、もしかしたら男に戻った瞬間雷でピシャン、なんて可能性だってあるかもしれない。


 服を脱ぎ女湯を見渡す。昨日入った貸し切り風呂と同じ作りだが、遥かに広い。


 サツキは、思う存分女湯を堪能することにしたのだった。

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