第115話 魔術師リアム、初級編三日目の予定

 祐介が煎れてくれたお茶をずず、と飲む。身体に染みる旨さだった。


 ベッドはソファーに直され、二人はそこに並び座っている。祐介もお茶を啜ると、湯呑みをテーブルに置いた。


「まず、今日の予定ね」

「うむ」


 リアムも湯呑みを一旦テーブルに置き、膝に手を置き話を聞く体勢になった。


「午前中は、会社にどんな人がいるのか、何の商売をしているのか、サツキちゃんが何やってるのか、会社に着ていく服とか諸々説明します」

「うむ」

「その『うむ』も会社では禁止。その場合は『はい』ね」

「……はい」


 祐介が笑顔で頷いた。


「多分午後になると思うけど、さっき僕が電話してた僕の姉の一人が来ます」

「おお、祐介は姉がいるのか」

「うん、二人ね。今日来るのは下の方ね。――で、サツキちゃんにお化粧の仕方を教えてもらいます」

「化粧……やはり必要か」


 うまく出来る自信は全くない。


「サツキちゃん可愛いし必要ないと思うんだけど、一応ね、会社には最低限していかないと、社長とかうるさいんだよそういうの。女性の身だしなみっていうの? それに眉毛とかムダ毛処理とか色々あるみたいだけど、正直僕はよく分かんないし、助けを呼びました」


 リアムは素直に弱音を吐いた。


「祐介、出来る気がしない」


 祐介が笑顔で固まった。何かを考えている様だ。小さく頷いた。


「……うん、一緒に覚えよう。僕も覚えるから」

「済まぬな、祐介。こればかりは少々な……」

「うん、何となく分かってた」

「頼りにしているぞ」

「サツキちゃんもちゃんと覚えてね。お化粧苦手な子って説明してあるから」

「わ、分かった」


 コホン、と祐介が咳払いをする。


「で、昨日サツキちゃんが僕にしたことをこれから説明します」

「うむ……じゃない、はい」


 祐介がグラスを持つジェスチャーをする。


「僕が僕のお酒を飲んでました」

「はい」

「サツキちゃんが寄越せと僕の上に乗りました」


 そう言うと、サツキを引っ張って祐介の上に乗せてしまった。


「ゆっ」

「僕がグラスを遠ざけると、僕の腕にしがみついて、こうぐいっとね、飲みました」

「祐介、胸が当たっていると思うのだが」

「昨日もだよ」

「う……」


 今度はリアムを祐介にもたれかからせる。


「ここでも飲んでました」

「祐介、済まぬ……」

「で、ここで寝ました。僕の腕にしがみついたままです」


 そう言うと、祐介はリアムに片腕を回した。


「朝までです」


 見事にやらかしてしまった様だ。まさかこんなに酔ってしまうなど、思ってもみなかったのだ。


「僕は耐えました」

「す、済まない、本当に済まない……」


 祐介の笑顔が怖い。さすがにこれは怒っているのがリアムにもはっきりと分かった。


「次はないです」

「さ、酒は一杯までにする」

「当然です。出来なかったら、次は誘われたものだと理解して遠慮しません」


 はっきりと言われた。あと、と祐介が続ける。


「絶対、他の人とはお酒飲んじゃ駄目。絶対。絶対ね」

「や、約束する」


 こくこくとリアムは頷いた。

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