第111話 魔術師リアム、初級編三日目はもうすぐ開始

 微睡まどろみの中、誰かと共にいるのが分かった。リアムを守ってくれようとする、優しい手だ。リアムが嫌だと思うことはしない。リアムが自由に楽しめる様にしてくれている。


 何でだろうか。サツキのこの身体だからだろうか。でも、それでもいい。こんなに安心に思うのは、いつぶりだろう。


 リアムからすれば、あいつは若造なのに。なのに、寄りかかる自分がいる。


「……祐介」

「……はい」


 右耳から、祐介の声の振動が聞こえてきた。これは夢の続きだろうか。一人気を張り生きていくのに疲れていたリアムに見せる、夢の続きだろうか。

 

 目を開けると、祐介の胸元が目に入った。ずり落ちない様にだろうか、祐介の腕が身体に回されている。


 安心した。だからまた目を閉じた。


 そしてまた夢の中へと行く。いる筈もないのに、一緒のパーティーで祐介がリアムを応援する、そんな夢だ。リアムは男になったり女になったり、場面場面で性別が切り替わっていく。


 モンスターを倒すと、祐介が頭を撫でて褒めてくれた。偉いよ、頑張ったねと、にこにこしてくれた。


 リアムが欲しかったものはこれだ。夢の中で、強烈にそれを認識した。


「……祐介」

「聞いてるよ」


 ただひたすらに優しい声が降ってくる。その声色に安心して、また微睡まどろむ。


「私は頑張ってるか……?」

「滅茶苦茶頑張ってるよ」

「ふふ……嬉しいな」


 夢の中ででも、褒められるのは嬉しかった。夢の中で、リアムは今度は小さな子供になる。父と母と別れ、右も左も分からず師に手を引かれて歩いたあの日、あの時のリアムに。


 リアムには魔力があった、だからまだよかった。でなければ、今頃どこへ辿り着いていたかなど予想もつかない。


 その師も、リアムが魔術師として独り立ちして暫くの後、ダンジョンを攻略し帰ってくると、帰らぬ人となっていた。


 大分年寄りだった。家族はおらず、偏屈で有名だった師は友人もろくにおらず、だからリアムにそれを教えてやることが出来なかった、と苦笑いしていた日を思い出した。


 思い出しながら弔った。だから誓った。家族も友もいらない、ずっと師だけがいればよかった、だけど師がそれを望んでいたなら、いつか必ずや手に入れると。


 温かい手が、リアムの頬を拭った。何だろう、そう思って、目の奥が熱いのに気が付いた。


 泣いていたのだ。


 自分を抱き抱える腕に更にすっぽりと収まったリアムは、その繭の中の様な心地よさに安堵する。


「……祐介」

「もうちょっと寝てなさいな」

「……うん」


 頭に触れているのは、祐介の顎の下だろうか。


 男と密着するなど、とも思ったが、リアムはそんなことよりも、この安心感を味わうことにしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る