第98話 OLサツキ、初級編二日目午後の特訓はいきなりのハードモード
先程アールとウルスラが二人がかりでもなかなか倒すことが出来なかったアルバ蜥蜴を、サツキ一人で倒す。
「いや! 無理! 何言ってるのアール!」
「大丈夫! リアム……じゃない、サツキなら出来る! いざとなったら俺が助けるから! それが先生の役目だ!」
「ま、まじですか……」
そうこう言っている間にも、目の前のアルバ蜥蜴の光るイボの色が段々と赤だらけになってきている。もう躊躇している時間はない。サツキは覚悟を決めた。杖をビシッと蜥蜴に向ける。
「フリーズ!」
ぴた、と点滅が止んだ。赤以外は残りあと三つだった。危ない危ない。
「そういえば、リアムって魔法失敗しないな」
アールが不思議そうに聞いてきたが、その答えをサツキは知る由もない。というか、やはり失敗ってあるんだ。そちらの方が驚きだった。後ろで胡座をかいて見物を決め込んでいるユラが、言った。
「魔術師レベル高いからな。こんな初級魔法は失敗しないだろう」
「そろそろ二つ名が貰えるかもって言ってたわよね」
「何、その二つ名って」
凄い気になる。サツキが振り返ると、アールに叱られた。
「ほらサツキ! 前を向く!」
「はい!」
手元の魔導書をパラパラとめくる。まだ呪文がなかなか覚えられない。でも、中級ダンジョンに行く前には全てを覚えたかった。今のままでは咄嗟の行動が取れない。それではただの足手まといだ。
「あ、これいいかな」
杖を構える。凍らせる魔法でまんま『アイス』というのがある。これは単体攻撃。『ワンポイント:呪文の前に詠唱を唱えると、格好よく見えます。仲間といる時は言ってみましょう』。……うん。その次のページには、物を切る魔法が載っていた。『人に向けるのは止めましょう。死にます』と書いてある。いや、というか大抵の攻撃呪文は死ぬやつではなかろうか。
よし。折角だからセットでやってみよう。
「えーと……凍りつけ! アイス!」
ちょっと詠唱っぽくしてみた。杖の先端から青白い光が発生すると、フリーズで固まったアルバ蜥蜴が瞬時に凍りつき白くなった。あれみたいだ、テレビでやっている年始の初競りのマグロ。いい感じに凍っている。
次いで、隣のページの呪文も唱えた。念の為、杖を真っ直ぐ蜥蜴に向ける。
「ええとええと、ウィルウィンディーン!」
すると。強風が杖から発生し、引きずり込まれそうになる。
「うわっ何これ!」
杖を中心に竜巻状になったそれが、風のカッターになりかまいたちの様に蜥蜴を輪切りにスライスした。
「やるわねサツキ! 凍った肉ゲット!」
「今日の晩ごはんだね」
後ろから呑気な二人の声が聞こえた。杖を持つ手が震えている。一人で倒したのだ。自分で選択した呪文で、勝利したのだ。
「サツキ! 偉いぞ! よくやった!」
アールが、頭をわしゃわしゃと撫で文句なしの笑顔で褒めた。
「あ、ありがとうアール」
サツキも笑顔になった。その笑顔にちょっとドキッとしてしまったのは、内緒だった。
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