第73話 魔術師リアム、ちょっと困る

 初めて観た映画は、文句なしに面白かった。特にあの黒眼鏡の大佐の場面。よくあの距離から銃なる代物であんな器用に当てられるものである。天晴れのひと言だった。


 黒眼鏡の大佐が目を押さえる場面は、固唾を呑んで見守った。


「祐介! あの男はどうな……」


 興奮気味に隣の祐介を見ると、何と目を閉じて船を漕いでいるではないか。


「祐介? お前、よくあの場面で寝れるものだな」


 話しかけるが目を開ける様子はない。そして話はいよいよ終盤と思われる場面へと展開していっている。気になる。リアムは画面に視線を戻す。すると、ぐらぐらと頭を揺らしていた祐介の頭が、リアムの肩の上にボン! と乗った。


「お……これは一体どうすればいいのだ……」


 でも画面も気になる。おお、合流したか! 良かった、良かったな! と頷いていると、祐介の頭が振動でずれたのか、ずるずる、とリアムの胸の上に乗り、納まった。


「お……」


 でも画面が気になる。すう、すう、と気持ちよさそうな寝息が聞こえた。


「一応、うら若き乙女の胸の上なのだがな……」


 まあ中身はリアムだ。段々この身体に慣れてきてしまっており若干気恥ずかしいこともないではないが、相手は祐介だ、問題はあるまい。リアムは続きを優先することにした。


 結果、最高だった。あの衛兵が最後鳥と戯れる場面でリアムの涙腺は崩壊した。


「何と素晴らしい……!」


 声を出しても、祐介は起きない。これは起こした方が、互いの為にいいのではないか。リアムが祐介の耳元で祐介の名を呼ぶ。


「祐介、こら、起きろ。どこで寝ているのだ」

「うーん……」


 むにゃむにゃ、という口の動きが胸で感じられた。うおう、何だこの感触は。ゾワッとするではないか。


「祐介、ほら」

「……すー」

「祐介!」

「あとちょっと……」


 祐介はそう言うと、リアムの腰と腹に手を回してリアムを抱き枕の様に抱えてしまった。くー、すー、と非常に気持ちのよさそうな寝息が聞こえる。そして胸の上が重い。


 どうすべきか。起こすべきなのは分かったが、よく考えれば今日は祐介は朝からリアムに説明を行ない相当疲れている筈だ。食事の用意から片付け、最後には髪も乾かしてもらった。何から何まで祐介がやってくれた。


「お前も疲れたのだな……申し訳ない」


 気持ちよさそうに寝ている頭をそっと撫でる。このままでは風邪を引いてしまうだろう、そう思い、足元の方にきちんと畳んであった毛布を足の指で挟み、ずるずると引きずり寄せた。


 祐介の腕はしっかりとリアムに回されており、ちょっとやそっとでは解けなさそうである。


「仕方ない、特別だぞ、祐介」


 リアムはそう囁くと、毛布を徐々に広げ、祐介と自分の上に掛けた。テレビの画面が始めの画面に戻っているが、さすがにどうしたらいいのか分からない。確か赤で付けたり消したりすると言っていた記憶が蘇り、祐介の足の上に置いてあるリモコンの赤いボタンを押した。


「おお、消えた」


 祐介はやはり起きない。


「全く、子供みたいだな」


 リアムはそう呟くと、自分も目を閉じた。

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