第60話 OLサツキ、初級編小休止出来ず
何故、ダンジョンの始めの階段を降りてすぐにひっくり返ったのか。サツキは混乱していた。
「サツキ! ちょっと大丈夫!?」
「俺に任せろ!」
アールが飛び出して行った。
綺麗に組まれた石壁の通路には規則的に明かりが灯されており、視界は明るい。蝋燭ではない様なので、魔法的な何かなのだろう。
サツキは、足に絡まっている伸びる黄色い液体が繋がっている先を目でゆっくりと追った。
今アールが勇ましく戦っているのは、黄色いぶにょぶにょな物体。目、鼻、口がその中心に確認出来るが、その柔らかさの所為か、皺の様に垂れており、人相は恐ろしく悪い。そしてとにかく気持ち悪い。
まさかとは思うが、あれは。
「いいいいっやったー! 一発目に会えるなんて! 今夜は黄色いスライムの白ワイン割り決定ね!」
やっぱりあれがスライムか。想像していたあの可愛らしいフォルムのつぶらな瞳のあれとは全く違っていた。刷り込みとは恐ろしいものだ。
何かに似てるな、足に絡んでいるねばねばな触手を指で摘んで解きつつ、サツキは考える。
思い出した。時折テレビでやっていたあの古臭い映画だ。おっさん三人がゴーストを背中に背負った自作の機械で吸い取るというなんとも滅茶苦茶なストーリー展開のあれ。
あの中に出てくるピーマンのお化けが子供だったサツキの目には恐ろしく映り、それまで食べられたピーマンが食べられなくなった。あのゴーストに似ている。
「え、あれを飲むの?」
「あったり前じゃない! スライムは飲み物よ!」
断言されてしまった。
ウルスラが、鞄を漁ると瓶を取り出した。
「アール! ここに詰めてね!」
「おう!」
「アールが詰め終わったら私がぶった斬って終わりにするわ!」
ウルスラは明らかに高揚している。実に楽しそうだ。それは戦いの所為か、それともスライムという食材が手に入ったからか。
アールがスライムの上から剣をぶっ刺し、地面に固定する。反対の手を、瓶ごとスライムの体に突っ込んだ。
「うえっ」
スライムの、あの恐怖に満ちた表情。それを悠然と見下ろしつつ笑みを浮かべるアール。捕食者と食われる側の心境の違いを如実に表す絵だった。
瓶の中に液体が詰まったことを確認したアールが、手をキュポン! と引っこ抜き、次いで剣も抜き一歩下がる。
「ウルスラ!」
「任せて!」
スライムが絶望の表情でウルスラを見上げる中、ウルスラの剣が音もなくスライムの体を上下真っ二つに裂いた。
切り口からでろ、と黄色い体液が流れ出る。スライムは、そっと目を閉じた。
やがて足元に残されたのはスライムの皮一枚。
「無垢な魂となりて、安らかに眠れ」
ユラが、取ってつけた様に言った。十字をわざとらしく切っている。まさかキリスト教ではないだろうし、一体どんな意味があるんだろうか。
サツキの口は開きっぱなしのまま、初回の戦闘が終了したのだった。
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