第59話 魔術師リアム、初級編小休止
二人が昼飯に入った店は、商店街の中ほどにあるインドカレー屋だった。
リアムは、目を輝かせていた。
「何とも言えない香ばしいこの香りに程よい辛味。堪らなく食欲を唆った、大満足だぞ!」
「気に入った? よかった」
祐介が向かいの席でにこにこしながらリアムを見ている。笑顔のリアムだったが、不意に表情が曇った。
「どうしたの? 歯に詰まった?」
「なあ祐介」
「ん?」
この気持ちをうまく伝えることが出来るだろうか。
「私ばかりがこんないい目を見ていていいのだろうか?」
「……どういうこと?」
祐介がテーブルに身を乗り出してきた。表情は心配顔だ。
「言っただろう? 私はドラゴンに焼かれたと。サツキがあの電車という代物と接触しそうになり、死を覚悟したか何らかの現象が私とサツキの身に同時に発生した、その所為で入れ替わったのだと私は思う」
「つまり、サツキちゃんの中身はリアム本体の方にってこと?」
リアムは頷いた。
「私の場合は、祐介が助けてくれた。だがあちらではどうだろうか……。僧侶のユラはパーティーにいたが、あいつは死者蘇生の術も使ったことがないへっぽこ僧侶だったからな」
「へっぽこ僧侶」
祐介の表情は読めなかった。
「パーティーのリーダーである見習い勇者はウルスラという女性で、パーティーの参加条件がイケメンだったのだ」
「見習い勇者って何? 勇者に見習いとかある訳?」
そこでようやくリアムに笑顔が浮かんだ。
「私も同じことを思ったが、聞く勇気がなかった」
「聞けないよなーそれ」
「だろう? ……でな、討伐が成功していれば英雄扱いだ。だが果たしてどうだったのだろう。なのに私はここで呑気に祐介と旨い飯を食っている。それは許されるべきことなのだろうか」
すると、祐介がテーブルの上のリアムの手を上からそっと握った。
「考えても分からないことは、分かんないんだよ。気にし過ぎはよくないよ」
「祐介……」
「多分だけどさ、二人が入れ替わったのなら、それは必然だったんだよ」
にっこりと祐介が言う。励ましてくれようとしているのか。なんと心の広い男だろう。リアムは感動した。それに比べ、自分の狭量なことよ。
「お互い、何かそれぞれ必要なものが違う世界にあったとかかもよ?」
「必要なもの……?」
何だろう。リアムは考えた。
「うむ。確かに私はそろそろ伴侶を見つけて家族を持ちたいと思っていた」
「ぶはっ」
祐介が食後のお茶を吹いた。
「汚いぞ」
「ごめん」
リアムが自分のお手拭きを祐介に渡すと、祐介は使用済みのそれで口を拭いた。お手拭きの黄色い汚れが見えていなかったのだろうか。
「でもさ、サツキちゃん、生き辛そうだった。友達もいなかったみたいだし、もしかしたらそのウルスラって見習い勇者に会う為に入れ替わったのかもよ?」
祐介の話は詭弁かもしれない。でも。
「……ありがとう、祐介」
少し、心が楽になった気がした。
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