第一章 初級編開始

第55話 魔術師リアム、初級編スタート

 洗濯機なる物は非常に便利な代物だ。


 リアムは魔術師なのでウォッシャーの魔法で洗濯は済ませていたが、水滴を切るスクイーザの魔法、更に乾かしたければウォーマラーの魔法に併せて風魔法のウィンディーンが必要だ。ずっと張り付いていなければならない為、面倒な時は洗濯屋に依頼していた。


 それが、この箱たった一つで。


「これは乾燥機機能付いてないから干さないといけないけど、いい天気だし乾くでしょ」


 この辺りはリアムの世界と同じく物干し竿とハンガー。洗濯バサミも不思議な素材ではあるが見慣れた形状だ。


 リアムがブラジャーの片側の紐を洗濯バサミに挟むと、祐介がチラチラと横目で見て、言った。


「ハンガーに両肩を掛けると、型崩れしないんだって」

「ほう。さすが詳しいな」

「な訳ないでしょ。さっき調べたの」

「いつの間に……やるな、祐介。さすがは我が好敵手だ」

「……ははは」


 ブラジャーを良く見てみると、脇の所に何やら文字が書いてある。


「これは何だ?」

「サイズ表記だね。そういえばサツキちゃん、こっちの字って読めるのかな?」

「どれどれ。……Gカップ……読める、読めるぞ!」


 リアムがブラジャーを握り締めて喜んでいると、祐介が微妙な笑みを浮かべながら言った。


「どっかの大佐みたいな台詞だね……ていうかGなんだ……凄え」

「意味が分からぬぞ。何だその大佐というのは」

「えーと、作られた話で、空に浮いてるお城を使って悪さをする大佐のこと」

「訳がわからぬ」

「でしょうね……あ」


 祐介が何かを閃いた様だ。


「夜さ、DVD借りて見ようよ。面白いよ」

「さっぱり分からんが、面白いものは好物だ」

「じゃあ決まりね。よし、さっさと片付けよう!」


 頬を少し赤らめて、レースがあしらわれたパンツなる下着を丁寧に干している祐介が、ボソッと呟く。


「……思ってたよりも際どいの着てたんだな、サツキちゃん」

「何だ?」

「いえ、何でもありません」

「祐介はあれだな、独り言が多いのは生活に潤いがないからではないか?」

「うっわー」

「やはり早々に伴侶を作り家庭をだな」


 自戒の念も込めて言った。後で遅かったと後悔してももう遅い。


「サツキちゃん、僕達一応付き合ってることになってんだけど」


 祐介がむっとした表情で言った。リアムは頷く。


「そういうことにしておく、というのは理解しているぞ。私も馬鹿ではない」

「サツキちゃんと付き合ってて、どうやって他に奥さん見つけるんだよ」

「はっ! 盲点だった! いや待て、この世界も重婚は批判されるのか?」

「少なくともこの国はね」

「成程……ならば伴侶はすぐには無理か」

「別に今すぐ結婚したくないし」


 口を尖らせている祐介に向かって、リアムは同情顔をして言った。


「なるべく早く独り立ち出来るよう努力するから」

「……別に、急がなくていいし」

「済まぬな」

「済まなくないし」

「ん?」

「何でもない」


 祐介はそう言うと顔を逸らした。

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