第53話 魔術師リアム、宣戦布告する
木佐ちゃん、というのは四十路手前の未婚女性とのことだった。お局様という意味が分からないと言うと、祐介は「日本の歴史……いや、また今度」と後回しにすることに決めた様だった。
「つまりは、職場で働いてる年数が長いんだけど、後から入ってきた若い女性に対し周りの男性の反応が自分に対しているものとの差を感じ、その苛立ちを若い女性にぶつけている状態が、今のサツキちゃんと木佐さん」
「うむ……妙齢の女性は取り扱いが難しいからな」
よかれと思って口にした言葉が相手の逆鱗に触れたことは、幾度か経験したことがある。少しばかりふくよかだった妙齢の女性に、褒め言葉のつもりでスライムの様だと褒めたところ、スライムのぷっくりとしたフォルムを連想したのか平手を食らった記憶が蘇った。あれは艶々な肌の意味だったのだが。
「で、その木佐さんが、僕のことを気に入ってまして」
えへへ、と裕介が照れた様に笑うと頭を掻いた。むかっとした。
「腹が立つ」
「……え? それってどういう……」
何故何となく嬉しそうなのか。
「何故祐介なのだ!」
「え、サツキちゃん、まさかとは思うけど嫉妬……」
祐介の頬が緩んでいるのが気に食わない。リアムはビシッと祐介に向かって指差し、宣言した。
「お前のその立場! 本来は後輩である私の立ち位置だろう!」
「えーと……はい?」
祐介の笑顔が凍った。よし。
すっくと立ち上がると、リアムは祐介を悠然と見下ろし宣戦布告をする。
「そのお気に入り! 私が奪い返してやる!」
祐介は、何も言い返さなかった。何度か口がぱくぱくと動いたが、それだけだった。
「いいか祐介、私と勝負だ」
ニヤリと笑うと、祐介は脱力し。
そして笑った。
「あはははは! サツキちゃん、堪んねえ!」
「いや、祐介、ここは笑うところではなく、互いを好敵手と認めだな、握手をする場面なのだが」
「あーはいはい、握手ね」
祐介は目の端に涙を浮かべて笑いながら、非常に軽い握手をした。何だか腹立たしい。
ひと通り笑い尽くし落ち着いた頃、祐介が言った。まだ時折頬をひくひくさせながら。
「僕、そういうのいいと思うよ。大好き」
「そうか、祐介も正々堂々と戦うつもりなのだな」
「……僕、別に木佐さんはどうでも……」
「どうかしたか?」
「いえ、何でもないです」
さて、と裕介が立ち上がり、リアムを振り返るとにっこりと笑った。
「じゃあ洗濯物を干したら、さっさと残りの家電製品の説明を済ませようか」
「そうだ、洗濯物があったな」
訳の分からない下着がある。干し方の伝授はしてもらいたかった。
「お昼食べたら、午後は日本で生きていく上の常識の説明ね」
「うむ、宜しく頼むぞ」
この親切な男がいれば何とかなりそうだ、と少し胸を撫で下ろしたリアムだった。
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