第51話 魔術師リアム、方針について定める

 祐介の言葉は分からないことが多過ぎる。リアムが思わず眉間に皺を寄せると、祐介が手を伸ばしてきてその皺を人差し指同士で広げた。


「あまりそう険しい顔ばかりしてると皺になるよ」


 リアムはふとミラージュの魔法でちょいちょい確認していた自分の顔を思い出した。そういえば、渋いと思い眉間に皺をよく寄せていたかもしれない。その所為かどうかは分からないが、確かに長年繰り返していたから眉間には溝が出来ていた。このサツキの眉間にはまだ皺はない。サツキの為にも、確かに止めた方がいいかもしれなかった。


 リアムは頷いた。


「善処する」

「うん」


 にっこりと祐介が笑う。こいつもよく分からない男だ。怒ったかと思うと笑い、笑ったかと思うとぶつぶつと独り言をいい。恋人でもないサツキを気遣って会社に残る様な男だ、気苦労で少し疲れているのかもしれない。


「お前も大変だな」


 リアムが同情顔で言うと、ひく、と頬を引き攣らせた。


「……誰の所為だと……」

「それですとーかーとは何だ」

「ですよね」

「ほら早く」

「……ストーカーっていうのは、好きになった相手をこっそり跡をつけてみたり、メール……えーと大量の恋文を送りつけたり、家に盗聴器……ああもう、えーと話し声を盗み聞きしたり、今日みたいに勝手に人んちに来たり、要は嫌がっている相手に好意を押し付ける行為のこと」

「成程、迷惑行為だな」

「……そういう概念はあるんだね」

「私もそれなりに名を馳せた魔術師だからな、髪の毛が編み込まれた手編みの服とか、明らかに血文字だろうと思われる恋文をもらったりした経験はある」


 祐介が真顔で聞いてきた。


「まじ?」

「本当だ。怖くなり即座に燃やしたが、愛の呪いの魔法が掛けられていてな、叫び声が一週間背中に張り付いたりしたことも」

「壮絶……」

「私はもてたのだ」

「そんなのならもてたくないな、僕」

「同感だ」


 ははは、と二人で笑い合う。と、祐介が急に真顔に戻った。


「そうじゃないよ、問題はあいつが同じ会社にいて、今もサツキちゃんを狙ってるってことだよ」


 リアムが腕を組んで考え込む。


「ふむ……。確かにこの身体はどうも筋力が足りない様でな、襲われたら抵抗出来るとも思えん」

「冷静に怖いこと言わないでよ」

「だが事実だ」

「……そうしたらさ、サツキちゃん」


 祐介が考え込んだ後、真顔で提案してきた。


「どうせあいつ休み明けには職場で喋りまくると思うし、僕と付き合ってることにしようか。そしたら堂々と行き帰り一緒に移動出来るし」

「私は別に構わないぞ、だがお前は意中の人は」

「いないっつってんでしょ」

「……お前がいいならいいが」


 祐介が首を捻る。


「問題はサツキちゃんの先輩の木佐さんなんだよなー」

「先程もその名前が出ていたな。何だか祐介に興味がある者の様だが」


 祐介がサツキに向き直ると、説明を始めた。 

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