第20話 OLサツキ、頑張る

 ウルスラは、サツキの告白を聞いて固まっていた。


 サツキがそうっと視線を上げてウルスラの様子を確認すると、その表情は正に無。何一つ感情が読めなかった。


「あのー。ウルスラ?」


 目の前で「もしもーし」と手を振ってみるが、反応がない。サツキはそれを見た途端、激しく落ち込んだ。


 やってしまった。やはり、この有り得ない状況を理解してもらおうなどという甘えた考えではいけなかったのだ。


 でも、悲しくて涙が出る。


 ぽろぽろと零れ落ちる涙も、ウルスラにとっては迷惑なものだろう。サツキは顔を見せぬ様ウルスラに背を向けた。


 どうしよう。頼りになると思っていたウルスラがこれだと、後の二人は女子に囲まれて阿呆面を晒していたし、当てになんてならない。


 幸い、この先左団扇ひだりうちわで暮らせる位の賞金が手に入るらしいが、当面の生活費に問題がないとはいえ男のままであることに変わりはない。


 いくらリアムがイケメンだからといって、この先ずっとイケメンとして生きていきたい訳はない。


 サツキは深い溜息をついた。やはり、電車に撥ねられそうになった時におっさんでいいから男になりたいなんて願ったからいけなかったのだ。おっさんの中でも相当なイケメン、つまりイケオジになったのはまだ救いだが、サツキの精神は女だ。


 だが、これもその内慣れるのだろうか。


 サツキは拳をきつく握り締めた。実は、先程から尿意を感じていた。我慢していいことはない。仕事が忙し過ぎてトイレを我慢した挙句に膀胱炎となり、抗生物質を飲んだサツキは痛い程よく知っていた。


 あの残尿感。二度と味わいたくはない。


「……ウルスラ、トイレに行ってくるね」


 ウルスラに顔を見せぬままサツキは言うと、部屋の奥へと向かった。きっとトイレ位はあるだろうと思って。


 まさか共同トイレとかだったら、どうしよう。


 不安になりかけたが、幸いにもトイレはあった。所謂ボットンタイプの様だが、匂いはしない。魔法で消臭でもしているのだろうか。


 サツキはこれまで彼氏というものがいたことはない。年齢イコール彼氏いない歴の典型的なパターンである。


 従って。


「いやあああああっ無理いいいっ」


 半泣きになりながら、薄らと目を開けて頑張った。だが同時に湧き上がる解放感。


 何とか用を済ませたが、今度は手洗い場がない。いや触っちゃったし。


「ウルスラああああっ」


 心の底から、助けを呼んだ。すると、ドタドタとウルスラが走ってきた。何かを吹っ切った様な笑顔。


「どうしたの、サツキ!」


 サツキは目を見張った。今、ウルスラは自分の名前を呼ばなかったか?


 ぽろぽろと、今度こそ涙が止まらなくなった。


「ウルスラああああっ手を洗いたいのに分からないいいいっ」


 ウルスラは一瞬キョトンとした後。


 腹を抱えて笑い出したのだった。

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