ドラゴンに殺られそうになって(電車にはねられそうになって)気が付いたらOLになっていた(気が付いたら魔術師になっていた)件
ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中
序章 転移
第1話 魔術師リアムの場合
仲間達とはぐれてどれ位の時が過ぎただろうか。
闇深いダンジョンで、リアムは僅かに残された魔力を振り絞って、辛うじて足元が照らせる程度の光を杖から出していた。
大したことはない、とアール達が軽くいなしたゴブリンが、まさかあそこまで増殖するとは誰が予想し得ただろうか。
リアムは咄嗟に勇者達を守ろうと膨大な魔力を使用して地面に力を叩きつけた。そのお陰で、ゴブリン達の群れはほぼ、リアムが作った奈落の底へと落ちていった筈だ。
だがまさかその穴に自分も落ちてしまうとは、予想だにしない大失態だった。
「若い頃はすぐに反応出来たものだが……」
今回のドラゴン退治の任務で、もう引退しようと考えていたところだった。冒険に明け暮れ、気付けば周りは皆妻帯者ばかり。稼いだ金を元手に店でも始めたら、四十路越えのリアムでもまだ家族を作ることが出来るのではないか。
そう思い、今回参加したのが失敗だったのだ。
今回組んだパーティーは即席のパーティーで、ギルド、つまり冒険者組合で仲間がいない者同士が寄せ集められて作られたパーティーだ。
剣士のアール、魔術師のリアム、僧侶のユラに見習い勇者のウルスラ。何だ見習い勇者って、と思ったが口には出さなかった。いずれもまだ年若きこれからの者達ばかりだった。
だから咄嗟に助けてしまった。今思えば馬鹿なことをしたものだ。結果魔力はほぼ底をつき、今こうして一人ダンジョンの地下深くを彷徨う羽目に陥った。
ドラゴンの住処まで辿り着けば、彼らと合流出来る筈。そう信じて、ドラゴンがいる筈の最下層に向かっているが、その前に魔力が底をつきそうだった。
「せめて日の光の元死にたい……」
縁起でもない台詞が口を突いて出た。
いけない、これはどうも気弱になっている所為に違いない。もっと気分が上がることを考えよう。そう、例えばドラゴンを倒して外に出てから貰う賞金で何の店を開くか、とかだ。
脳裏に、あの見習い勇者のウルスラの優しそうな顔がポンと浮かんだ。
彼女は、もう少しあちこち回らずとも旅の道具が揃えられたらと言っていた。成程、冒険者専用の旅支度初級セットがある道具屋などもいいかもしれない。
杖の先の光が薄れていく。いよいよ魔力が尽きたか? 一瞬そう考えたが、違った。
進行方向から、光が差し込んできているのだ。
「……着いたか?」
重い足を半ば引きずる様にして運び、辿り着いたその空間にいた物。
今回のターゲットのドラゴンだった。
ドラゴンの口がぱかりと開く。リアムの心を、諦めが占めた。
「……ここまでか?」
すると、遠くの方からウルスラの叫び声が聞こえた。
「リアム!! 逃げてえええ!!」
途端復活する生きたいという気持ち。
リアムは出せうる限りの魔力を杖の先端に向け、ドラゴンが放った圧倒的なまでの炎に向けて氷の魔法を放った。
まだ、死にたくない。
だがその気持ちも虚しく、襲いかかる炎の波にリアムの身体は包まれたのだった。
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