第16話 おぅーのぉー!やってしまいましたわ!!

あれから(魔法の訓練をし始めて)、1年の歳月が過ぎたわ・・・。


そして、ついに、この時が来たのよ!!エレノアが王都にやってくる日よ!

思わず、自然と握りしめた拳天高く突き上げてしまったわ。

もう、思い出したのよ~。エレノアが王都に来た日って、ちょうど三日間続く『建国記念の日』のお祭りの初日だったのよ~。アニメーションで、彼女が馬車の中から目を輝かせて外を見ていたのよね~。


でも、大丈夫かしら?王都に来れてるかしら?希少な癒し系や聖属性の魔法が希少じゃなくなったから、王都に来る理由が無くなったのよね~。もう、心配だわ~。


でも、もし来られていたら、そろそろ噴水がある広場に通りかかるところなのよね~。王都に着くのが少し遅くなって、遅いお昼はお祭りの屋台で食べようと、一緒に来た父親と町を歩くのよ~。

なので、来ちゃったわ!その広場によ!!

ちょうど良く、隠れられる屋台があって良かったわ~。ここからなら噴水が丸見えだし、あちらからは分からないはずだもの。


ヨイショッ。


「・・・お嬢ちゃん、そこで蹲って何やってるんだい?」


「しーっ!!」


もう、これから来るエレノアに、気付かれたらどうするのよ。折角、攻略対象者のヒューゴ・リッチーと出会う場面なのよ!そう、大手商会の息子の彼は、将来父親の商会を次ぐための勉強に、王都のいろんなお店や屋台を巡るの。そこで、町を見物して歩いていたエレノアと、ちょうどこの噴水の前でぶつかって出会うのよ・・・それで仲良くなった二人は、父親が見守るなか、一緒にお店や屋台を回ることになるのよ。


ふふふ~。じゅるりぃ、おっと!ヨダレが!


「いやいやいや、お嬢ちゃん。こんな屋台と屋台の間に挟まっていたら、邪魔でしょうがないんだよ」


何か煩いなと思っていたら、いつの間にか、ハンフレイパパより10か20くらい年が上そうなおじ様が、困ったように私を見下ろしていたわ。


「そんな迷惑そうな顔をしても、こっちの方が迷惑なんだけどな~」


これから良いとこなのに、話しかけないでという顔をしていたら、そんな事を言われたわ。


「しーっ!!」


「いや、しー!!じゃなくて・・・」


「おじさん、こんにちは。今日の客足はどうですか?」


私たちのやり取りに気付かないのか、5才くらいの男の子が屋台のおじ様に声をかけてきたわ。


「お、リッチー商会のぼっちゃん。『ふぃーるどわーく』ってヤツかい?偉いね~オレの息子に見習わせたいよ。客足か~、まだ初日だから何とも言えないな~。ま、ぼちぼちってところかな」


リッチー商会ですって?それに、淡い色合いの茶髪と淡い色合いのホリゾンブルーの瞳は、もしかして・・・。


「はい、そのフィールドワークです」


「流石、難しい言葉知ってるね~」


「そんな事をないですよ。それにしてもおじさん、いつも思っているのですが、筋肉が凄いですよね。僕も筋肉が付けば良いのですが、付きにくいみたいなんです」


「大手の商会のぼっちゃんが、何言っているんだか。オレら屋台の奴らは、鍛えていないと揉め事に巻き込まれるから、しょうがないんだよ。護衛を雇える金があるんだから、それに金を回した方が良いぞ。そしたらその護衛が、オレの所で商品を買ってくれるかもしれないからな」


「ふふふ、そうですね」


私の存在を忘れニヤリとそう言うおじ様に、男の子はにこやかに返したわ。二人は、ただの顔見知りではないように感じるわね・・・いや、それは置いておいて。髪と瞳の色、この穏やかで柔らかい雰囲気と言葉使い、それにリッチー商会の息子というおじ様が発した言葉・・・ということは、この男の子は絶対にヒューゴ・リッチーね。


あぁ、なんということなの~。たくさんの屋台があるなか、訪れたのが何故ここの屋台なのかしら・・・噴水の前でエレノアと遭遇をする、その姿を初めに目にしたかったわ・・・ガクリッよ。


「それでこの娘は、何故こんな所にいるのですか?」


「いや、こっちも困ってるんだよ。さっきからずっとここに居て、邪魔でしょうがないんだからな」


あう~。見逃してくれないのね・・・ふっ例え気付いていても、こんなレディの姿を、男なら見て見ぬふりするのが紳士ジェントルマンってものよ。


ヨイショッと・・・。


そんな二人の話を、私の耳に入ってきていないわというように、優雅に何事もなく立ち上がった私を二人は黙って見ている・・・その隙をついて噴水に向かってダッシュだわ!!


逃げ切るわっ!と思ってちょっと身体強化をしていたのが悪かったのよね・・・そしたら、誰かとぶつかり、コロンっと後ろに転がったのよ。本来の自分の力では速く走れないと思ったの。私の不注意でぶつかった人、ごめんなさい!

でも、コロコロと転がらなかったわ。あのスピードだったら、もっと飛ばされるはずなのにね。私の体を誰かが支えてくれたのかしら?本当、頭をガツンとやらなくて良かったわ。

・・・あ、支えてくれたの先ほどのおじ様でしたのね。


「・・・ありがとうございます」


「お嬢ちゃん、周りを見ないで突然走り出したら危ないだろう。気を付けような」


「はい、ごめんなさい・・・」


「謝るのはオレじゃなくて、ぶつかった相手にな」


「あ!そうです!!」


キョロキョロとぶつかった相手を探すと、5才くらいの女の子が、父親らしき人とヒューゴに抱き起こされていた。


「ごめんなさい!!」


なんと!!ぶつかった相手は幼い女の子だったなんてっ!思わず、スライディング土下座をしましたわ。


「大丈夫よ。わたし、回復魔法が使えるから。あなたこそ、大丈夫だった?」


女神よ・・・ここに女神がいるわ・・・。


そう思って顔を上げると、そこにエレノアが居たの。何回もアニメーションでエレノアの幼い頃を見ていたから、間違えるはずがないわ・・・輝くピンクベージュ色の髪、可愛らしいピンクの瞳なんて他には居ないはずだわ。

驚きすぎて、パカッと口を開けてしまったわ。


おぅーのぉー!!なんということでしょう!自分でエレノアとヒューゴの出会いを潰してしまったわー!!


恐る恐る、上げた顔をゆっくりと戻して、忍び泣いたわ。握りしめた両手で地面に八つ当たりをしながら・・・。


「どうしたの?どこか痛いところがあるの?」


そんな様子がおかしくなった私を心配して、エレノアが声をかけてくれるけど、今はその優しさが傷に沁みるように、自己嫌悪と罪悪感で心に沁みるわ・・・。


「だ、だいじょうぶですわ・・・」


項垂れたまま、声を絞り出すように、なんとかやっとそう彼女に言えたわ。


この状況、魔法で無かったことに出来ないかしら・・・。

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