第8話 ヤバイわ、ヤバイわ、変な力って何かしら?

 なんか、やらかした予感だわっ!どうしましょう!!

 私は、言われたとおりにやっただけなのよ、何故かしら?

 もう、ジュリアンナのパーティーから帰ってきている馬車の中なのに、あれからまだ、何も言われてないし、聞かれてないの・・・。


 あ!仲良くなれたのよ!ジュリアンナと!!最初に挨拶をした時には、ツンっとしていたのに、虫を取ってからニコニコと慕ってくれるようになったの。何故か、公爵家の皆さんは驚いていたわ。まるで別人とか、態度や言葉も穏やかで明るくなったとも言っていたわね。虫を取る数分前までのジュリアンナは、まだ2才になったばかりなのに、我が儘で高飛車で卑屈で凄かったらしいわ。公爵や公爵夫人が、言い聞かせても直らなかったみたいなの。誰に似たのか、とも周りで言われてたらしいわ。そんなふうに、公爵と夫人のお二方に何故か切実に訴えられたわ。まだ2才児になっていない幼児の私に、分かると思って話しているのかしら?

 そしたら、憑き物が落ちたように良い方に人が変わり、ホッとしたのだそうよ。そして、何故か分からないけど、何度も彼らににお礼を言われたわ。虫?みたいなのを取って、潰して、消しただけなのよ、本当に。

 問題は、こっちよ!挨拶が終わってからのパーティー中も、帰りの馬車の中も、ハンフレイパパが考え込むようにずっと黙ったままだったのよ。

 そんな雰囲気に、家族の誰もが空気を読んで口を開かなかったわ。


「アリアルーナ、話があるから着替えが終わったら、書斎に来なさい」


「・・・あい」


 そして、屋敷の中に入って第一声、ハンフレイパパにそう言われたわ。


 愛称で呼ばなかったわ・・・これは真面にヤバイヤツかもしれないわ。


 私付きの使用人、ミラに連れられて自分の部屋に入ると、手早く普段着に着替えさせられハンフレイパパの書斎に向かうわ。


 ミラは、まだ十代半ばで若いの。お転婆な私を面倒見ないとならないから、タフで遠慮のない体力がある者を、と理由で決まったみたいなの。失礼よね、頑張ってご令嬢らしくやっているのに・・・。


 一歩踏み出しては立ち止まり、一歩踏み出しては立ち止まり、と書斎までの辿り着く時間を伸ばすことにしてみたの。だけど、それに痺れを切らした使用人のミラは、私をサッと抱き上げると、スタスタと書斎まで抱えて移動し扉の前に下ろしたわ。


 いつもより早く着いてしまったのよ・・・ミラったら、いくら遅くても抱き抱えて移動することないと思うわ。


 とても書斎に入りづらいので、ミラにノックするのは少し待ってほしいと頼んだわ。だが、立ちはだかる壁のようにそびえ立つ書斎の扉の前、ヨシッと覚悟をしては止め、覚悟をしては止め、を何回か繰り返していると、また痺れを切らしたミラがノックをするのよ。


 あ!ノックしちゃったわ。どうしましょう・・・べ、別に悪いことをした訳じゃないもの、怒られるとは限った訳じゃないわ・・・いや、そうじゃないわ。あの感じでは怒るとかじゃなくて、問い詰められるの感じよね!でも、大したこともしてないし、変なこともしてないはずよ。あの時のことを思い出して、考えるのよ・・・何をしたの、私!


 そんなことを考えていると、中から「入りなさい」と言うハンフレイパパの声が聞こえてきたわ。その声に、ミラが扉をサッと開けて私を中に入れるのよ。ハンフレイパパは私を中に招き入れると、ミラに話が終わったら呼ぶと言って帰したわ。そして私に、部屋の中央にあるソファーが2つ対面になっている片方に、かけるよう促すの。もちろん私は、しずしずとそれに素直に従ったわ。


「アリアルーナ、回りくどく聞くつもりはないからね」


 いつもの、穏やかで優しい感じとか、怒って叱る感じではない、困っているような悩んでいるような複雑な感じの真剣な顔を、ハンフレイパパはしていたわ。


ゴクリと私の喉がなったわ。


「アリアルーナが言っていた、虫ははっきり見えたのかい?」


「・・・あい。おにゃゆにきゅりゃいにょ、みゃっきゅにょにゃにょ」(・・・はい。おやゆびくらいの、真っ黒なの)


「親指くらいか・・・そして、真っ黒?」


「あい・・・」


「そうか、私にはそれを意識きして見ようとしない限り、見えなかった。ある程度しかだが・・・それに私より魔力が少ない公爵は、意識し目を凝らしても、うっすらやっと見えるくらいのはずだ。他の者は全く見えてないはずだよ・・・」


「???」


「私がやっと見えたソレは、黒に近いモヤのような物だった・・・」


「にゃんじぇ?ちちょににょっちぇみりゅにょきゃてゃちぃちぃぎゃうちょゆーきょちょにゃにょ?あ!きゅりょいみょや、ピャピャちょおにゃいにゃあ!」(なんで?人によって見るの形違うということなの?あ!黒いモヤ、パパと同じだわ!)


「見えかたの違いは、人が持っている能力の属性と力の差・・・その黒いモノを見る強い力を持っているかどうかということだよ。それに、私には真っ黒には見えなかったよ」


 言いかけて止めたのは、幼い子に説明するのに、言葉を選んでいるのだと思うわ。そして、私に言い聞かせるように話してくれるわ。


 最初、ハンフレイパパが何を言っているのか分からなかったわ。だって、アレが皆に見えていないということが不思議で仕方ないもの。あんなにハッキリ自分には見えていたのモノよ。だから、皆にも見えていたと思っていたわ。でも、人によって見え方に差があったり、全く見えない人もいるということが分かったわ。そして、自分はまたヤラカシてしまったのだということにね。


「にゃんちょ・・・!?」(なんと・・・!?)


 私、変な力持っているのかしら!?あんな不気味なモノを見る力があるなんて嫌だわ~。


 困っているというよりは諦めの感じで、はぁっとハンフレイがため息を吐くわ。


「その属性は、元から持っている者は極稀で、殆どの者はある所から与えていただいている。その力の差は、相性なんだよ。与えられた者に合うかどうかだ。与えられても開花しない者もいる」


「???」


 何を言っているのか、ちんぷんかんぷんだわ!!・・・とても分かりにくいわハンフレイパパ。う~ん、つまり極稀な属性の能力を私が持っていて・・・殆どの人は持っていないけど、何らかの方法で持つことが出来るわけね・・・で、その方法で持とうとしても、相性が悪いと開花されず、やり損!なわけで、相性が良いと力倍増!なのかしら?それでもって、それの力が強い私は相性抜群!っていうことかしら?ん~でも、なんの属性かしら?


「・・・アリアルーナ。急だが、明日はお前が持っている能力を調べることになるよ」


「あい・・・」


 何か深刻そうだけど、調べても私の能力って大したことないと思うのだわ。だって、モブですもの!


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