第2話 偶然って纏まって来るのものなのね

 あれから大パニックだったの。それもそうよね、誰も魔法をかけていないのに、解呪の魔法が発動してマリアンヌママが助かったのだから。でもそれは、哀れに想われた神様が助けてくれた、という方向に落ち着いたみたいなの。その後に来た解呪が出来る人たちと、かなり揉めたらしいけど・・・。

 来るの早いわと思ったら、ここカントリーハウスじゃなくて、タウンハウスだったのね。それだったら、私が解呪するのじゃなくて、来るの待ってた方が良かったわ!

 でも、まぁ、赤ちゃんの私がやったってことは、誰も分からないわよね~。

 それと、今回の原因ミス・スラグホーンは、法の裁きを受けるために警備隊の手によって、法務局に連れていかれたわ。ゾロゾロ沢山の人が来て、物々しい雰囲気だったわ。

 彼女は子爵令嬢だったけど成人してからも婚姻の話が纏まらず、親の伝でどこかの上流貴族の屋敷でレディズ・コンパニオンとして暮らしていたらしいの。

 でも、その元雇い主の女性の婚姻を期に暇を出され、その元雇い主の紹介でガヴァネスとしてウチに来たらしいわ。

 それを何を勘違いをしたのか、ミス・スラグホーンは愛人として呼ばれ、近い未来は正妻になれると思っていたみたいなのよ。いつまで経っても手を出してこないは、妻の目があり自分に気を使っているのだろうと都合よく解釈していたみたいだけど、年齢のことを考えると焦りを覚えたらしく、今回の正妻を死に追いやるという事に及んだらしいわ。凄い思考しているわよね・・・彼女の頭の中ってどんなことになっているのかしら?

 ハンフレイパパが留守の間、屋敷のことを頼んでいたランド・スチュワードのケビンは、地下室の一室に魔法封じをされ閉じ込められていたの。そんなこと、彼女一人で出来たのかしらと疑問に思ったの。そしたら、ミス・スラグホーンは自分が正妻になった暁には、ランド・スチュワードに昇格させると誘惑して、ハンフレイパパが屋敷に戻ってきてマリアンヌママを探していた時に対応していた、あの三十代のハウス・スチュワードの男と結託していたようなの。人望がなく人を見下す傲慢でプライドが高そうな彼女には、自分ではやらずに他人にやらすんだろうな思っていたけど、やっぱり餌を使って他の人にやらせていたのね~。ホント、彼女って嫌な性格だわ~。

 その後、殺風景な私の部屋を見て、ハンフレイパパは激怒していたわ。それもミス・スラグホーンの指示だったらしいのよ。スペアにお金をかけられないと言ってたらしいわ。スペアって、彼女は何様なのかしら。弱い者のみを攻撃して虚勢を張ることしか出来ないなんて、有る意味哀れで可哀想よね。それに、元々私の部屋に有った家具や装飾品の全ては、ミス・スラグホーンの部屋から出てきたみたいなのだけど、それは縁起が悪いと処分して、新たに揃えて豪華な一室となったのよ。別に良いのに、勿体ないと思うのだけど。

 あと、マリアンヌママは直ぐに回復したけど、ハンフレイパパが心配してなかなかベッドから出されなかったの。更に仕事をセーブして暫くの間は付きっきりになっていたわ。愛だわ~。

 私は、自分の部屋からマリアンヌママの所に移動したのよ。マリアンヌママが私と会えないのは辛いっていうことでね。でも、そこって両親の寝室なのよね~。カーティスも毎日マリアンヌママの所に通って、会えなかった時の時間を取り戻そうとしているみたいだったわ。健気よね~。で、それならと、カーティスも一緒に、夜は家族4人で並んで寝ることになったのよ。

 なんか私、とても良い家族の所に転生させてもらったわ~。ありがとう神様!っていう感じよ。




 そして、こそこそと魔法を使いつつ成長して、あれから半年たったわ。あと5ヶ月で1才になるの。今から誕生日パーティーの準備ですって!忙しい限りだわ・・・もちろん両親と使用人たちがよ。あとね、後から分かったのだけど、カーティスってまだ2才になったばかりなの。誕生日パーティーも盛大だったわ・・・私が1ヶ月の時は、1才半くらいだったらしいの・・・でも、あの時しっかり歩いてたから、もう少し上だと思っていたのよ!この世界の人って成長が早いのかしら?

 それで今日は、カーティスのお友達が来るらしいの。そのお友達は、数日前にカーティスがマリアンヌママと一緒に行ったお茶会で、知り合ったみたいなの。王妃様が主催のお茶会だから、王子様のお友達や側近を作るための交流会ね。その時に私の話が出たらしくて、是非会いたいと言ってくれたみたいなのよ。でも、本来だと相手の方が家柄が上だから、こちらから伺うはずなのだけど、まだ私が赤ちゃんだから連れていけないというで、こちらに来ることになったらしいわ。


「ちっちゃいねぇ」


「ホント、ちっちゃいなー」


「ぼくのやしきにも、にてるのいる」


 応接間に置いたベビーベッドに群がる、カーティスと同じくらいの男の子たちが目の前にいるわ。もちろん、ベビーベッドの中には、私が寝ているわ。最初に声を出したのは、光りが当たっていないのに、髪も瞳もキラキラ金色に輝いていて、絶世の美男子になるのは確実だと思われる顔が整いすぎている男の子よ。次に声を出したのは、赤に近い太陽のようなオレンジ色した髪に、南の海のようなエメラルドグリーンの瞳をした、先ほど男の子ほどではないが、顔が整った活発そうな男の子だわ。そして、最後に声を出したのは、月の光のようなプラチナブロンドの髪に、晴れた夏の空のようなスカイブルーの瞳をした、キリッとしたクールそうなこれまた顔が整った男の子なのよ。もちろん、カーティスも居るわ。

 先の二人は目をキラキラさせてこちらを見ているけど、後の一人は観察するように見ているわ。そして、カーティスは、私を見て可愛いとふにゃりと笑っているわ。

 もう首が座ったので、顔を横に向けることが出来るようになったのよ。なので、ここから少し離れたソファーでお茶をしている三人の女性の方に、顔を向けるわ。


「ボールドウィン侯爵夫人は、男のお子様がお二人でしたわよね?」


 マリアンヌママと同じ年くらいの、プラチナブロンドの髪にラベンダー色の瞳を持つ、クールな印象のとても美しい女性が、彼女とはまた違った美しさの、赤みがかった金髪にエメラルドグリーンの瞳をした、マリアンヌママより年が少し上くらいの、明るそうな感じがする女性に声をかけたわ。


「そうですわ。ベネディクト公爵夫人も、フォーサイス伯爵令嬢と、同じくらいのお子様がいらっしゃるのですわよね?」


 ボールドウィン侯爵夫人と呼ばれた女性が、ベネディクト公爵夫人と呼ばれた女性に、にこやかに話しかけるわ。


「えぇ、そうですわ。女の子でジュリアンナと言いますの。しかし、同じ女の子でもフォーサイス伯爵令嬢とは違い、泣いてばかりで困っておりますの。フォーサイス伯爵夫人は、どのように接しておられるのかしら?」


 彼女は、屋敷に置いてきた子供を想うのか、クールな感じが抑えられ穏やかな表情を浮かべるわ。


「アリアルーナで構いませんわ。そうなのですか?アリアルーナは、あまり泣いて主張くれなくて、逆に寂しく感じますの。うちのカーティスは、アリアルーナを世話をしよう手を出しますので、それでも泣かないのはありがたいのですが・・・ベネディクト卿は御世話をしようといたしますのでしょうか?」


 マリアンヌママも困ると言いながら、表情は穏やかで全く困った様子ではないわ。


「こちらも、エドワードで構いませんわ。それは羨ましいですわ。エドワードは、遠目で睨むだけで、面倒みるどころか寄り付きもいたしませんの。それを注意いたしますが、直りませんの。困ったものです」


 ベネディクト公爵夫人が、今度は本当に困ったようにため息を吐いたわ。


「それは、母親を取られたとお思いなのではないでしょうか。うちもそうでしたから」


 ボールドウィン侯爵夫人が、懐かしそうに顔をほころばせたわ。


「ボールドウィン侯爵夫人では、上に男のお子様がいらっしゃるのでしたわよね?」


「えぇ、アンドリューが産まれた時は、酷いものでしたわ。椅子に座って抱っこしていると、無理やり間に入ろうといたしますし、寝ている様子を見ていると、ドレスを引っ張って気を引こうといたしますし、大変でしたわ」


「まぁ。では、うちはまだ良い方ですのね・・・」


 ベネディクト公爵夫人は、その話の内容に目を丸くするが、直ぐに胸を撫で下ろしたようだわ。


「このような時は戒めるのではなく、ベネディクト公爵令嬢を使用人に任せ、エドワード様を優先させるのですわ。そして、赤子は弱くて守らなくてはならないと、教えて差し上げれば自ずとして対抗意識が無くなっていくはずですわ」


「ジュリアンナでよろしいですわ。そうなのですね。今度、実践してみますわ」


「ボールドウィン侯爵夫人のお話は、勉強になりますわ」


 私って伯爵令嬢だったのね~と思いながら、そんなやり取りを遠目で見ていた私は、わちゃわちゃと赤ちゃんの私を触ろうとして使用人に止められる、という攻防戦を繰り広げている男の子たちを見回したわ。


 あら?・・・ベネディクト公爵?エドワード?ボールドウィン侯爵?アンドリュー?って言ったわよね。どこかで聞いたことある名前だわ・・・エドワード・ベネディクトとアンドリュー・ボールドウィン・・・って、私がやり込んでいた乙女ゲームの攻略対象者の二人の名前と全く同じだわ!彼らの髪の色も瞳の色も雰囲気も同じだわ。目の前に居る金髪金目の男の子も、攻略対象者の王太子にそっくりだけれども・・・いや、まさかよね、偶々よ、あり得ないわよ。本当、偶然って纏まって来るものなのね~不思議なことだわ~。

 そんなふうに、理解出来ない情報が一気に来て、私は考えることを手放したわ。

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