闇光の双星

サンサソー

第1話 考えてみて

 光と闇。


 この世にはその2つが存在し、それはあまねく全ての存在にとって切っては切れない関係にある。


 なに、要は捉えようということさね。


 例えてみるかい。


 光ならば何を連想する?


 正義かい?希望かい?純粋さかい?

 はたまたもっと身近なもの、炎や電球といった発光物かね?


 そもそも、なぜ明るいものは『光』を発していると言える?なぜ、それは『光』と呼ばれる?


 わしらが勝手にそう読んで、勝手にそう定義して、勝手に活用しているだけじゃないのかね?


 ははは……別に傲慢だと言うつもりじゃあないよ。


 だが、常に気をつけることさ。


 自分を取り巻く状況、当然、常識なんてものを何も考えず受け入れてはいけないよ。


 面倒でも、無駄でも、疑うことを忘れてはいけない。そうやって定義して使っているのだから、それ相応の責任が付きまとうものさ。


 やることなすこと、それらには大なり小なり責任がつく。そして何かしらの結果を生み出すものさ。


 それを無意識に取りこぼしてしまえば、自由なんてものは永久にやってこない。


 自由なんてもの、ハナからないのかもしれないけどね。


 だが、幻想に過ぎなくても求めてしまう。


 それが人間ってものさ。


 さて、長々と話したが、この話はこの先に待つ物語とは何の関係もない。そこまで難しい物語でもない。


 無駄話さ。それでも一考の余地はあると思うがね。


 もし何かを感じた、気づいた、考えたなら、それを大事にしなさい。


 無意識という布に隠された忘れ物を掬い出せば、何かしらの変化は起こるのだからね。


 少なくとも、この無駄話を長々と聞いたって結果ぐらいはね。







 魔物の治める大陸、通称「闇の大地」。広大な魔族領の中心地に魔王城がある。


 数多の罠が張り巡らされ、数多の魔物が守りを固めている無敵の堅城。


 その最上階には2つの人影があった。


 方や、黒い髪を風になびかせ、白いバトルドレスを着た人間の少女。


 もう方や、白い髪から鋭いツノと眼光を覗かせ、豪勢な玉座に腰掛けている妖魔の男。


 この男こそ、魔族領を治める支配者、闇の魔王ダスターである。


「待ちわびたぞ、我が妻よ。まったくいつまでオレ様を待たせるつもりだ」

「…………」


 魔王の言葉が、窓どころか壁や天井すらも無い最上階に響いた。


 その声には絶大な魔力が込められており、常人では体はたちまち動けなくなってしまうほどの圧が場を支配した。


 が、妻と呼ばれた少女は眉のひとつも動かさず、返事もせずに腰に差した双剣を抜いた。


 切っ先が魔王へと向けられるも、より笑みを深め笑うばかり。


 その様子に、とうとう少女は口を開き、鈴のような凛とした声を発した。


「私はあなたの妻などではありません。敵です。何度言えばわかってくれるのでしょうか」

「ククク、お前はまだ認めようとしないか。いい加減に素直になったらどうだ、光の勇者よ!」


 そう、魔王が妻と呼ぶ少女は敵の最大戦力。


 魔王の自慢の配下を倒し、罠もことごとく踏破し、いざ討ち取らんと眼前に現れたこの者こそ、人類の希望、魔王を打ち倒し人間を導く光の勇者シラホシであった。



「フハハハハッ!!照れなくても良いのだぞ。そんなにオレ様の妻だと言うのが恥ずかしいのか!」

「ええ、照れるよりも別段の照れの恥ずかしさがありますね」

「フハハハハッ!そうかそうか、照れるを超えた照れか!愛いやつめ!」


 シラホシの言葉をそのまま受け取るダスター。それが皮肉であることにも気づかないオツムの弱さに勇者はため息をついた。


 こんなものが自分が人生全てをかけて倒そうとしていた魔王とは、と少々落胆している……のではない。


「さて……お前が城に攻め込み、オレ様の前にいる。挨拶も済ませた。ならば後は…」


 ダスターの身体から闇のオーラが立ち上る。玉座と下階への階段が消え、晴天であった空は紫や緑などが混ざった暗く禍々しい色へと変わっていった。


 そう、シラホシがため息をついたのは落胆ではなく呆れ。いくら頭が弱かろうとその実力は本物。闇の魔王を名乗るにふさわしいものなのだ。


「充分な強さレベルになったか?充分な技術スキルを得たか?愚問だな、このオレ様の前に立つとはそういうことだ。そして、それは今生の終わりを意味する」

「……ええ。本当に、ここで終わりにしたいものです。あなたとの戦いも、私の使命とも」

「ありえない。ありえないのだ光の勇者。であれば、一緒になるのは当然の帰結であろう?」

「それができないから私はここにいるのです。あなたは力を振るうのです。いい加減に理解するのはあなたの方ですよ、魔王」

「フハハハハッ!オレ様に何を言おうとも無駄だ!誰であろうとオレ様の考えを曲げることはできん!」


 2人の力が大気を震わせる。塵が舞い、欠片が浮かび上がっていく。


 世界の命運を決める決戦の時だ。


「魔王ダスター様が、キサマを倒してやろう。そして全ての生物は思い知るのだ。この世界は全て闇に覆われオレ様のものになると」

「勇者シラホシが、あなたを打ち倒しましょう。そして全ての生物は安堵するでしょう。この世界は全て光に溢れ平和が訪れると」

「全てはオレ様のもの……光さえも。そう、キサマさえもだ」

「光は全てを癒し救う……闇さえも。そう、あなたさえもです」

「「これが最後の決戦だ」」




 古い言い伝えがある。

『世界が闇に覆われんとした時、光の勇者現れ巨悪を祓わん。勇者死し後、魔王は隠れ、いつしか再び覇を唱える。使命は輪廻を介し集うだろう』


 今生では3度目、全生では6億7942万1028度目。


 闇は世界を覆い、光は世界に満ち満ちる。どちらが消えてもすぐさま新たな生誕が起こる。


 逃れられない。


 闇が世界を我がものとせんとする限り、光が世界を平和にせんとする限り、戦い続ける運命だ。

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