第27話:聖女オードリー

「もう何も心配しなくてもいいのですよ。

 何があっても私たちが貴女たちを護ります。

 なにも人の中に入って生きる必要などありません。

 私と一緒に孤児院で子供たちと暮らせばいいのです。

 だから、安心してください」


 俺たちは盗賊団の生き残りに命じて、彼らのアジトに案内させた。

 その中には、直ぐに死なないように腹部を応急処置をした頭目もいた。

 まあ、元々長く苦しむように腹部を刺したので、三日は死なないのだけどね。

 どうせ盗賊団のお宝を回収するのなら、何一つ残さない方がいい。

 頭目しか知らない隠し場所もあるだろうから、嘘偽りを言っていると判断したら、オードリーたちに分からないように拷問して、すべてを吐かせればいいだけだ。


 それに、無傷の配下に剣を向ければ、簡単になんでも話してくれる。

 配下も知らない事は、頭目の表情を読みながら、改めて拷問すればいい。

 頭目は応急処置の時に鎧をはぎ取っているから、今は下着姿になっている。

 爪をはいでその傷口に塩をぬり込む事もできれば、骨を砕く事もできる。

 尿道に無理矢理鉄棒を押し込む事だってできる。

 盗賊たちが女子供を嬲り者にしたようにな。


「うっ、あ、ああ、う」


 盗賊に囚われていた女性が何か話そうとしている。

 だが、何を訴えたいのか、俺には分からない。

 可哀想に、舌を引き抜かれたら切り取られたのだな。


「ああ、うう、えへ、えへ、えへへへへ」


 この女性は心を失ってしまっている。


「どうか、どうか、どうか優しくしてください、お願いします」


 性欲対象の女性は、男の欲望を満たす顔や胸は傷つけられていない。

 だが、指を斬り落とされた女性は多い。

 性欲の対象でなくなった女性に対しては、もっと酷い。

 片目を潰された女性もいれば、歯をすべて叩き折られた女性もいる。

 中には両乳房を切り取られた女性までいた。

 分かっていた事だが、俺の我慢は軽く限界を突破した。


「今直ぐすべての隠し財宝を言え。

 言わなければ生まれてきたことを後悔する拷問を加えてやる。

 ここの入り女性たちが受けた拷問を、全てお前に返してやる」


 俺に出せる全力の殺気を頭目叩きつけてやった。

 

「あう、あう、あう、ギャアアアアア」


 小便をちびり、上手く口を利けなくなった頭目の肘関節を、握りつぶしてやった。

 

「いいます、言いますから、許してください」


「俺はこいつらを連れて隠し財宝のある場所に行ってくる。

 オードリーは馬車を残してきた場所に戻ってくれ。

 馬車を奪われたら何にもならない」


「大丈夫ですよ、バルド様。

 軍用犬と軍馬がいてくれます。

 この辺りを縄張りにしていた盗賊団も、バルド様が壊滅させてくださいました。

 旅商人の護衛程度なら、簡単に蹴散らしてくれます」


 さすがこんな国で育っただけの事はある。

 オードリーの状況判断は完璧だ。


「でも、バルド様に心配をおおかけするわけにはいきませんね。

 この方々を癒して馬車に戻る事にします」


 オードリーはなにを言っているんだ。

 癒すだと、癒すと言っても、もうほとんどの傷は乾いているぞ。

 まあ、昨日今日に殴る蹴るされた女性の生傷を癒して、安心させる事はできるか。

 オードリーが治癒魔術の使い手だと分かったら、女たちも少しは安心するだろう。


「エリアパーフェクトヒール」


 はぁああああ、エリアパーフェクトヒールだと。

 口だけの冗談ではなく、本当に全ての傷を癒すパーフェクトヒールだと。

 それも、個人ではなく、周囲にいる女性全員を癒すだと。

 目も歯も指も腕も乳房も、全部俺の目の前で再生されている。

 今まで見せられてきた魔術ですら常識外のスキルだと言うのに、それに加えてエリアパーフェクトヒールが使えるなんて、絶対に誰にも知られるわけにはいかない。


「お前ら、この事は絶対に誰にも話すんじゃないぞ」

 俺はこいつらに案内させてから直ぐに戻る」


 俺は子供達に念を押した。


 俺が戻るまで馬車に魔術防御を展開してそこから出ない事、いいですねシスター」


 当然だが、シスターにも念を押しておいた。


「ええ、分かっていますわ。

 だから安心してゆっくりと宝物を回収してきてください。

 こうなってしまったら、たくさんお金が必要になりますから」


 シスターたちを残して盗賊団のアジト、洞窟を出た俺は容赦しなかった。

 シスターたちが見ていないのなら、遠慮する事なく拷問を加えられる。

 一国一秒でも早くシスターたちの所に戻らないといけない。

 わずかなスキが取り返しのつかない事につながるかもしれない。

 女たちの身体はシスターが完璧に癒したが、心は壊れたままだ。

 突発事態にパニックになり、魔術防御の外に出る可能性もあるのだ。


 頭目が配下に内緒で財宝を隠していた場所は三カ所もあった。

 誰も信じていないうえに、本性は臆病な頭目の性格がよく分かった。

 もう何も隠していないのは、拷問をかけた時の表情で分かっている。

 忍者スキルを使ったら、拷問もできるし自白の信憑性も判断できる。

 今更ながらパスカルが得た忍者スキルの有用性が理解できた。

 

 頭目を含めて、盗賊団の生き残りを皆殺しにした。

 シスターのエリアパーフェクトヒールを見た人間を、生かして逃がすわけにはいかないのは、シスター本人も分かってくれていた。

 子供たちの手前、直接言葉にはできなかったが、盗賊たちを皆殺しにしていいかという謎かけに対して、殺してもいいとニッコリ笑ってくれた。

 だから、宝物の回収が終わってから皆殺しにした。


 ★★★★★★


「シスターオードリー、貴女のスキルはなんなのですか」


 俺は馬車の止めてある場所に戻ってから、思い切って聞いてみた。

 子供たちには色々と役目を与えて、二人きりになれるようにした。

 子供たちも事の重大さを分かってくれていたのだろう。

 大切なシスターを俺が独り占めすると言っても、何の文句も言わなかった。

 それに、子供たちも重要な役割を与えられて張り切っていた。


 自分たちよりも可哀想な大人の女性が目の前にいる。

 そんな女性の世話を任された子は、自分がシスターに助けられた時の事を思い出しているのだろう、常に優しい言葉をかけて安心させようとしている。

 敵襲に備えて警戒をする役目を与えられた子も張り切っている。

 順番に警戒役は変わるので、当番に備えて休むように言われた子は、無理矢理にでも寝ようとしてくれている。


「私のスキルは聖女と言います。

 この乱れた国を癒すために、神から与えられた大切なスキルだと思います。

 ですが、私だけの力では、この国を救う事などできないのは分かっていました。

 それに、誰かにこの力を知られてしまったら、もっとこの国を乱すのに利用されると思い、誰にも話す事もできず、力を使う事もできませんでした。

 だから子供たちだけでも救おうとしたのです。

 でも、私たちはバルド様に出会う事ができました。

 バルド様にお任せすれば、私の力を人々のために使ってくださると分かりました。

 どうか私の力を上手く使って苦しむ人々を助けてください」


 聖女スキルだと、とんでもないスキルがあったものだな。

 他人事なら羨むだけですむが、預けるなんて言われたら重圧を感じてしまう。

 しかも、全幅の信頼とともに、弱者救済をしてくれなんて、無茶ぶりだろ。

 シスターは俺ごときに何を期待しているのだ。

 聖女スキル持ちを表に出して行動なんてしたら、とんでもない争いが起こる。

 俺が聖女スキルを隠しながら有効活用して弱者救済をしないといけないのかよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る