第26話:盗賊団
何者かの襲撃を、夜目のきく梟が教えてくれたという。
急いで寝ていた子供たちを起こして、敵の襲撃に備えた。
まったく補修されていないガタガタの道にも、所々野営地点がある。
複数の馬車を止められる広さと、水を確保できる場所に設けられている。
今回野営した場所の近くには、清らかな水の流れる小川があった。
井戸と違って毒を混ぜられる心配がないので、大量の水を補給した。
「大丈夫かな、俺たちで勝てるかな」
「俺たちだけで勝つ必要なんてない」
「そうだよ、シスターとバルドさんの足手まといにならないようにすればいい」
「そうか、そうだな、それでいいんだよな」
「だから絶対に馬車の囲みの外に出るなよ」
「それくらい分かっているよ」
あちらこちらで子供たちが話しをしている。
恐怖と不安を誤魔化すために、無駄口を叩いてしまうのだ。
何も話す事なく戦える人間は、戦い慣れた者だけだ。
これが公爵家の兵士なら、黙っているように注意するのだが、まだ幼い子供たちにそこまで求めるのは可哀想だと思う。
それに、話している内容が自重を求めているので、子供たちのためにもなる。
子供たちが話しているように、馬車は縦に止められているのではなく、円陣を組むように止められている。
馬車の側面を盾にして、その内側に安全地帯をつくるのだ。
その安全地帯で火を熾し煮炊きをして温かい食事をする。
長旅をする旅商人にはどうしても必要な、心身を癒す時間と空間を作るのだ。
同時に、盗賊の襲撃時には片側だけに戦力を集中させられる。
「ギャアアアアア」
寝込みを襲うような奴にかける温情などひとかけらもない。
「ギャアアアアア」
確実に殺すべく、急所を狙って矢を射る。
「ギャアアアアア」
悲鳴を上げられるのは、心臓に命中させられていないからだ。
「ギャアアアアア」
人を襲う事に慣れた敵なのだろう。
「ギャアアアアア」
全員が心臓を護る場所に厚みのある防具を装備している。
「ギャアアアアア」
だが、腹部や顔面まですべて覆うほどの防具は限られているようだ。
「ギャアアアアア」
フルボディアーマーを装備しているのは、たった一人だ。
「ギャアアアアア」
俺はそれ以外の連中を弓で皆殺しにすべく、幌場所の上を飛び回る。
「ギャアアアアア」
数日激痛に苦しみ、内臓が腐って死ぬように、肝臓や腸を傷つける場所に矢を叩き込んだ盗賊の悲鳴が耳を打つ。
「ギャアアアアア」
十人を戦闘不能にした時点で、残っているのは心臓と腹部を護る防具を装備している盗賊だけになった。
「ギャアアアアア」
だから今からは目を狙う事にした。
「ギャアアアアア」
腹部を狙うよりも顔面を狙う方が難しい。
「ギャアアアアア」
さらに眼だけを狙って命中させるのはとても難しい。
「ギャアアアアア」
だが、フォレストに厳しく鍛えられたうえに、忍者スキルを得た俺にはできる。
「隠れるんじゃねぇえ!
立って走って馬車を襲え。
襲わないと俺様の斧の餌食にしてやるぞ!」
「ギャアアアアア」
頭目であろう奴が、大きな斧を振り回して配下を叱りつけている。
「ギャアアアアア」
だが、目の前で次々と仲間を殺された盗賊たちの士気は落ちている。
「ギャアアアアア」
「いやだ、もう嫌だ、ゆるしてくれぇええええ」
俺たちを襲た盗賊を許す気はまったくない。
「ギャアアアアア」
俺がここで見逃したら、どこかで誰かが襲われることになる。
「許してくれ、おねがいだ、もう許してくれ」
「ギャアアアアア」
お前らはこれまで同じように命乞いをする被害者を許したのか。
「ギャアアアアア」
誰一人許さずに殺して奪ったのだろう。
「ギャアアアアア」
親兄弟の前で、妻や娘、姉妹を犯して嬲り者にしたのではないか。
「すてた、武器は捨てたからゆるしてくれぇええええ」
「ギャアアアアア」
同じように武器を捨てて命乞いをする被害者を殺したんじゃないのか。
「ギャアアアアア」
手に入れた女子供を散々嬲り者にして、奴隷として売ったのではないのか。
「ギャアアアアア」
今も生き地獄に落とされて苦しんでいる被害者がいるのではないのか。
「ギャアアアアア」
殺す、全員殺してやる。
「ギャアアアアア」
だが、ただでは殺さない。
「ギャアアアアア」
絶対に楽には死なせない。
「ギャアアアアア」
傷に苦しみ、数日のたうちまわって死ぬがいい。
「ギャアアアアア」
野犬や熊に内臓を喰われて、恐怖と痛みに苛まれて死ぬがいい。
「逃げろ、もうダメだ、にげろぉおおお、ギャッフ」
「逃げる奴は絶対に許さねぇね。
もう勘弁ならねえ、俺様のこの手で殺してくれる」
ようやく頭目がこちらにやってきた。
オードリーの魔術防御があれば、俺が前に出て戦っても大丈夫だとは思う。
だけど、世の中には思いがけない事がある。
油断して魔術防御が突破されるような事は、絶対にあってはならない。
だから最初は防御反撃に徹して、馬車陣地からは一歩も前に出なかった。
盗賊たちの心を折る事に成功したから、もう俺が前に出ても大丈夫だ。
「殺せるモノなら殺してみろ、ウスノロの憶病者が」
バカは挑発する方があつかいやすくなるからな。
「なんだと、そこを動くな、叩き殺してやる」
自分の力を誇示するためだろう、頭目が重く大きい斧を振り回して近づいてくる。
少しは力があるようだが、斧を振り回す速度が遅すぎる。
あんな遅い動きだと、簡単に斧をかわされて反撃を受けることになる。
その事を考えて鋼鉄製のフルボディアーマーを装備しているのだろう。
だがあの程度の鎧なら、俺の宝剣で易々と貫くことができる。
だから、速攻腹部を刺し貫いてやった。
「ぐっはっ。
いてぇえ、いてぇえ、いてぇえよぉお。
たすけてくれ、たすけてくれよ。
たすけてくれたらお宝をくれてやる。
今まで蓄えたお宝を全部くれてやる」
俺はそんな事が聞きたいわけじゃない。
突き刺した剣を捻る事ができたら、内臓を傷つけることができる。
だがそんな事をしたら、さすがに宝剣でも損傷してしまう。
なんといっても、鋼鉄製の鎧に剣を突き刺しているのだから。
その代わりと言ってはなんだが、痛覚の多い手の指を靴の踵で踏み潰してやった
「ギャアアアアア。
いてぇえ、いてぇえ、いてぇえよぉお。
いい女もいるんだ、とびっきりの女たちだ。
アンタだって女は好きだろう、女をやるから助けてくれよぉお」
最初からそう言えばいいのだ。
こういう連中だから、絶対に自分たち用の奴隷を残していると思っていた。
足手まといにはなるが、オードリーに頼まれたら仕方がない。
彼女の博愛精神を無視できるほど、俺も非情じゃない。
彼女に頼まれなかったら、オードリーと子供たちを優先するという言い訳をして、騎士道精神を抑え込んで人質を無視しただろう。
これは俺に人情がないからした判断ではない。
どう考えても助けた人質たちが幸せななれると思えなかったからだ。
こんな連中に奴隷にされた女たちなのだ。
心も身体もボロボロにされているのは間違いない。
そんな女たちを助けた後で幸せにする事ができるのか。
少なくとも俺には無理だ、幸せにしてあげる事などできない。
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