第15話:バディとなるために

 オードリーたちを助けてから五日、俺たちは一緒に暮らしている。

 オードリーのスキルはとても便利だった。

 生活魔術が使えるので、水がなくても身体を清潔にできる。

 いんきんやたむしの心配をしなくてもよくなった。

 汗臭く男臭い悪臭を放ちながら子供たちに接しなくてもいい。

 気になる事と言えば、オードリーと子供たちが身ぎれいな事だ。


 五十一人もの人間に生活魔術をかけ続け、狩りまでしていた。

 それに必要な魔力は相当な量だと思う。

 それを楽々とできるという事は、オードリーのスキルは強力だ。

 どんな魔術を使えるのか知っておく必要がある。

 オードリーたちを護るためにも、自分の力にするためにも。

 オードリーに戦友だと思ってもらえたら、その力を借りることができる。


 まあ、バディスキルがどれくらい役に立つのかは検証中だ。

 前回の戦いの感じでは、バディの力で十割のスキルが借りられような気がする。

 後はどれくらいの時間、いや期間借り続けられるかだ。

 今の所、以前の戦いで借りてから、ずっと借り続けられている。

 最低でも五日間はスキルを借りられるという事になる。

 こんな長時間借りられるのなら、とても使い勝手がいい。

 

 次の問題は、一度借りてからどれくらいのインターバルが必要かだ。

 借りたスキルが消滅した後、どれくらい間を空ける必要があるかだ。

 その期間が長ければ長いほど、スキルのない期間がある。

 今までスキルなしでやってきたが、一度スキルを使ったら、もうスキルなしでは怖いと思ってしまう。


 それとこれも早急に確認しなければいけないのだが、どのような条件でバディとして認定されるかだ。

 パスカルは幼い頃から学友として一緒に学び鍛錬してきた。

 実戦訓練として、一緒にダンジョンや魔境に挑んだ事もある。

 そんなパスカルと同じくらい濃密な関係を築かないと、バディとして認定されないのなら、そうそう簡単にバディを作る事はできない。


「バルドさん、先に食事にしませんか」


 オードリーが話しかけてきた。

 子供たちを連れた狩りから帰って来て、生活魔術で身体を清める前に、食事を済ませようという事だ。

 食事をするとどうしても発汗するから、先に身体を洗浄すると二度手間になる。

 食べる前に身体をきれいにして汗をかいてから眠るのか、それとも汗をかいたまま食事をして、身を清めてから眠るかだだ。


「俺はどちらでも構わないが、子供たちは先に洗浄した方がいいと思う。

 ラットやコックローチの返り血を浴びているから、それを口に入れると危険だ。

 解体を手伝ってくれた子の中には、内臓や糞に触れた子もいる。

 最悪疫病になるかもしれないし、軽い症状でもお腹を壊すかもしれない。

 食事の前には洗浄をした方がいいが、オードリーの魔力量を圧迫したら、腐れ外道が襲ってきた時に困る。

 全てはオードリーの魔力量を相談だな」


「私の魔力量は大丈夫です。

 子供たちがお腹を壊したり疫病になってはいけませんね。

 食事の準備をする前に洗浄の魔術を使います」


「せっかく魔術を使って身体をきれいにするのだから、食事をするまでに手を汚さないように伝えてくれないか」


「分かりました、バルド様。

 子供たちにはちゃんと言い聞かせます」


 孤児たちが俺と一緒に狩りに行くまで四日間の時間が必要だった。

 孤児たちはもちろん、オードリーの信用も勝ち取る必要があった。

 俺は貞操と誇りを守った恩人ではあるが、完全に信用するのは危険なのだ。

 野営地で一緒に過ごすのなら、いつでも俺から孤児たちを助けられるが、目の届かない狩りの場所では、俺が孤児にどのような非道な真似をしても助けられない。


 孤児たちから見ても、初めて会った俺を全面的に信用などできない。

 母親代わりのオードリーが表面的には信用しているのだ。

 母親を取られたような気になって、警戒する気持ちもあるだろう。

 特に年かさに男の子たちは、オードリーが初恋相手になる子も多い。

 母親代わりの初恋相手が気を許す男。

 男の子たちが警戒心と敵意を剥き出しにするのも当然だ。


「オードリーを護れる男になりたいのなら、もっと強くなるんだ。

 お前たちが強ければ、この前のような事にはならない。

 だが、いきなりあんな連中に勝てるようになれとは言わない。

 あんな連中から逃げられるくらいの素早さを身につけろ。

 それができるようになったら、人質にされないように、抵抗できるくらいなれ。

 最初の一撃二撃に耐えて、オードリーが防御魔術を展開できる時間稼ぎをしろ。

 そのためには日々の訓練、実戦経験が大切だ。

 俺と一緒に狩りに来る覚悟のある者はいるか」


「行く、俺はシスターを護れるくらい強くなるんだ」

「俺もだ、俺も一緒に狩りに行く」

「「「「「俺も行く」」」」」

「私も行くわ、私もシスターの足手まといになりたくないわ」

「「「「「私も」」」」」


 俺の挑発に乗った孤児たちと一緒に狩りに行くことになった。

 本当ならもっと時間をかけて孤児たちとの信頼関係を築くべきだろう。

 だが俺たちには、そんな余裕はないのだ。

 前回と同じような冒険者たちに襲われる可能性もある。

 身勝手な貴族が皇国軍をダンジョンに突入させて来る可能性もある。

 その時に、俺の忍者スキルが切れていたら、全員死ぬしかないのだ。


 最悪の状況を回避しようと思えば、孤児たちに実力をつけさせるしかない。

 急に戦闘力をつけさせられるなんて思っていない。

 危機を感じる事のできる経験を積み重ねさせたい。

 なにより俺の命令に従う事を覚えさせたい。

 俺が逃げろと言った時に疑うことなく逃げてくれれば、生き残る確率が高くなる。

 なにより、この前のようにオードリーを危険にさらすことがなくなる。


 そう言う意味では、今日の狩りは成功だった。

 パスカルから借りている忍者スキルは絶大で、孤児たちの度肝を抜く事ができた。

 前回は緊急事態だったし、子供たちも人質に取られいた。

 周りを見る余裕などなく、自分たちの事で精一杯だった。

 俺の活躍など見ている余裕はなかった。

 だが一緒に狩りに出かければ、嫌でも俺の実力を思い知ることになる。


「さあ、ご飯にしましょうね」


 オードリーがそう言いながら、三つの大鍋から肉の煮込みを取り分けている。

 俺が狩ったラットの肉と子供たちが集めたキノコをたっぷりの水で煮込んでいる。

 大量の水はオードリーが魔術で創り出したものだし、煮込むための火もオードリーが魔術で創り出したものだ。

 洗浄に使った魔力も考えれば、信じられないくらいの魔力量だ。


 魔力量もそうだが、使っている魔術もとても多彩だ。

 これだけの多彩な魔術を使えるスキルを俺は知らない。

 オードリーの魔術が何なのか知りたいが、助けた事を恩に着せて聞き出すのは嫌だから、オードリーから話すように仕向けたい。

 孤児たちを護るためには、お互いの実力をよく知らなければいけないように仕向ける方法があるが、そうなると俺も自分のスキルを話す必要がある……

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