第3話:バディというスキル

「私が与えられたスキルは、いったいどういうスキルなのですか?」


 俺は思わず聞いてしまっていた。

 内心では嫌っている、金に汚いロビン枢機卿にすがりつきそうだった。

 何とか理性を総動員して、つかみかかるような恥はさらさなかった。

 でも視線と言葉はロビン枢機卿にすがってしまっていた。

 転生しても情けない本性は変わっていなかったのだ。


「ご両親の前で話した方がいいでしょう」


 俺はロビン枢機卿の言葉と態度で、何とか冷静さを取り戻すことができた。

 前世から他人の表情から内心を読むのは得意だった。

 取り繕い隠そうとしていたが、ロビン枢機卿も動揺していたのだ。

 これはどう考えてもおかしい事だった。

 単に悪いスキルなら、それを秘密にしたり言い回しを変えたりする事を条件に、通常以上の寄付金を手に入れようとするはずだ。


「分かりました、では家族のいるところに戻ります」


 何とか平常心を保って、ロビン枢機卿が動揺した理由を考えようとした。

 教会内の権力闘争に勝ち抜いた百戦錬磨のロビン枢機卿ともあろう者が、どのような事が理由で動揺したのだろうか。

 もしかして俺は、教会を改革するようなスキルを手に入れていたのだろうか?

 いや、そのようなスキルだったら、俺は神授の間で殺されていたはずだ。

 それとも、一旦公爵家に帰してから刺客を送るつもりなのだろうか。


 色んな理由が頭を駆け回り心をかき乱した。

 悪い想像はしない方がいいと思いながらも、どうしても考えてしまう。

 不意に思い浮かんだのは、周りの者に不幸を与えるスキルだった。

 そんなスキルなど聞いた事もないのだが、新たに神が創る可能性も皆無じゃない。

 それでなくても俺は運がない男なのだ。

 長い廊下を戻るあいだ、ずっと悪い予想ばかりが思う浮かんでしまった。


「おお、枢機卿殿、バルド、どうであった。

 神様からどのようなスキルを授かったのだ」


 俺と枢機卿の姿を見るなり、父上が声をかけてきた。

 父上も心配してくれていたのだろう。

 父上の弟妹の中には、外れスキルを授かった人もいた。

 公爵家に生まれたのに、外れスキルのせいで貴族家の当主や令嬢と結婚できず、公爵家に仕える士族と結婚された叔父上や叔母上がおられるのだ。

 まあ、公爵家の体面を守るために、実の親や兄弟に追放されたり闇に葬られたりしないだけ、幸せだと思う。


「おっほん、バルド殿は私が知る限り大陸で初めてのスキルを授かられた」


「「「そんな!」」」


 父上と母上、それにゲイリーが同時に答えた。

 オテニオは両親や俺、ロビン枢機卿の顔を順番に見ている。


「それで、そのスキルはどのような能力なのですか」


 父上が続けざまに確認された。

 確かにどのようなスキルか分からなければ対応のしようがない。

 これまで通り公爵家の嫡孫として育ててもいいのか。

 それとも士族家に養子や婿に出すことを前提に、教育を変えるべきなのか。

 俺を大切に思ってくれているからこそ、確認しなければいけないのだろう。


「残念ですが、それは分かりません。

 私ですら聞いた事のない、バディというスキルなので、分からないのです。

 ただ、ステータスに魔力が全くなかったので、魔術系のスキルではないでしょう。

 公爵家の戻られてから、あらゆることを試されて、以前よりも能力があがっているモノがないか、確かめられてください」


 長い廊下を戻る間に父上に対する言葉を考えていたのだろう。

 ロビン枢機卿は冷静な態度と言葉遣いで、突き放すように返事した。

 俺にはロビン枢機卿の考えている事など簡単に分かる。

 ステータスが読めない事を教会の恥や自分の無能とする事なく、俺のスキルをどうしても知りたい両親の弱みに付け込んで、金儲けにつなげようとしているのだ。


「ロビン枢機卿の言われる通りです、父上、母上。

 直ぐに屋敷に戻って、傅役や教育係たちと一緒に確認しましょう。

 それに、別にスキルの詳細がわからなくてもいいではありませんか。

 もし私のスキル能力が不明な事で、公爵を継げなくなるような事になっても、私は公爵家の分家として暮らせればそれで十分幸せです」


 父上は俺の言外の言葉、ロビン枢機卿に法外な大金を積んで、大陸中からバディスキルの詳細な内容を調べる必要などない、という想いに気がついてくれた。


「そうか、バルドがそう言うのならそれでよかろう」


「あなた!」


 母上はどれほど大金かかろうとも、スキルの詳細を教会の情報網で調べてもらうべきだと考えているようだけど、俺は無駄だと思う。

 莫大な金を積もうとも、分からないスキルは教えようがない。

 ロビン枢機卿ともあろう者が、俺がいるのに思わず声を出してしまったのだ。

 本当に知らないスキルか、伝えられないスキルかのどちらかだ。

 莫大な金を使って調べてもらっても、結局分かりませんでしたと言われるだけだ。


「大丈夫ですよ、母上。

 御爺様がノルベルト公爵家の力を使って調べてくださいます」


 俺の調べた範囲では、ノルベルト公爵家は代々名君が跡を継いできた。

 教会に頼りっぱなしの神授の儀式にも危機感を持っていた。

 だから独自に神授の儀式が行えるように準備しているし、神授の儀式で与えられる、スキルの種類と詳細も長年記録してある。

 公爵家の記録にないようなスキルでも、国内の王侯貴族はもちろん、親交のある国外の王侯貴族に問い合わせれば、何か分かるかもしれない。


「……バルドがそこまで言うのなら、しかたありませんね」


 母上も冷静になってくれたようだ。

 ロビン枢機卿がほんの一瞬見せた、腹立たしそうな表情に気が付いたのかもしれないし、俺の言外の言葉に気がついてくれたのかもしれない。

 それに、冷静になれた今の俺には、何となくスキルの内容が予測できた。

 俺の単なる思い込みかもしれないが、確かめる方法がないわけではない。

 そのためにも、できるだけ早く屋敷に戻りたかったのだ。

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