第20話 雑草を抜こう
私が泳げないのは、XRDを装着しているから。とはいえ、XRD自体は水中、海中でも使用できるように防水機能があるんだよね。
じゃあ、なんで泳げないかっていうと、水の中に入ることで使用者である私に不快なことが多いから。
幼いころから常にXRDを装着しているせいか、日常生活では全然違和感を感じない。でも、水中だとXRDと皮膚の間に水が入りこんでくるから、そのこと自体に不快感を感じるし、水から出たあとにXRDを外して溜まった水を抜いたり、顔を拭いたりしないといけない。まあ、お風呂に入って髪を洗うにも同じことをしないといけないんだけどさ。あと、XRDを外すと視界に何も映らなかった時代に逆戻りしてしまう。それは私にとって恐怖でしかなかったりするんだよね。
視界というものを手に入れてしまうと、それを失うことがものすごく怖い――XRDで視界を手に入れた人たち皆が言うこと。
でも、寝る時は逆に外さないとずっと視界に映像が出たままになって眠れなくなるから外すんだけどね。
アルステラの中ではXRDを顔に装着しているわけではないし、ゲームの中で水に浸かる感覚がどこまで再現されているかということも大切だよね。たとえば、現実なら息を止めないといけないけれど……。
(ナビちゃん、水中に潜るとき、息はどうするの?)
《水中では実際に呼吸を止める必要はないのです。酸素ゲージが視界の中に表示され、その酸素ゲージの値がゼロになるまでに水面に戻れば、再び潜れるようになるのです》
(ふむふむ、息を止めなくていいのね。まあ、本当に止まったらすぐに心拍数が上がって、セーフティが働くよね……)
《そうなのです。移動速度、行動速度は地上にいるときの20%に制限されるのです》
(濡れた服と、水の抵抗ってやつね)
《裁縫師になれば、水着をつくれるのです。水着なら40%ていどになるのですよ》
へえ、確かに水着なら身体に張り付く感じも減るし、動きやすくなるんだろうね。私としては、裁縫師も興味あるんだよね。
ナビちゃんと会話をしながら漁師ギルドを後にして進んで行くと、左手側に2つめの扉――農家ギルドの入口があった。
ミッドレンジギャザラーシリーズを揃えるには、農家レベルを20にしないといけないんだっけ。
たしか、最初に農家ギルドに入るとあまりにもレベルが上がるのが早いものだから、慌てて問い合わせをかけてから他のギルドを回るようになったんだよね。だから、農家レベルは11だったような。
「ヤンさん、こんにちは」
「やあ、確かアオイ君だったか。レベルは10になったかい?」
「はい、レベル10になりました!」
実際はレベル11なんだけどね。
「そうか、じゃあ次の訓練だ。アオイが蒔いた種が芽を出し、すくすくと育ち始めている。だが、よく見てみるといい。あちこちに雑草が生えているだろう?」
「ほんとだ……」
小麦畑には小麦の苗が青々とした葉を伸ばしているけど、それ以外にもいろんな形をした葉っぱが見える。これら一つひとつが雑草なんだろうね。
「本来、小麦が吸収して育つはずの栄養が、雑草に吸い取られてしまっているわけだ。畑の雑草は駆除しないと小麦の成長に影響がでるからね。すべて抜き去って欲しい」
《農家クエスト「雑草を抜こう」が発生したのです。クエストを受けるのです?》
クエスト番号:FM-003
クエスト種別:職業クエスト(農家)
クエスト名:雑草を抜こう
発注者:ヤン
報告先:ヤン
内 容:芽吹いた小麦を守るため、自分で種を蒔いた畑の雑草を
抜き去ろう
報 酬:経験値1000×2 貨幣8000リーネ
中級農家セット
「わかりました」
《農家クエスト「雑草を抜こう」を受注したのです。小麦畑に生えた雑草を抜いて、ヤンに報告するのですよ》
「中には小麦とよく似た雑草もある。鑑定ができるなら、鑑定を使うといい」
「わかりました」
初めて農家ギルドにきたときに種を蒔いた畑にくると、私は装備をビギナーギャザラーセットに変更し、腰をかがめて雑草を抜き始める。
<鑑定>
名前:雑草(A)
説明:小麦や稲と同じイネ科の植物。
背が高くなるので、小麦や稲の減収につながることがある。
<鑑定>
名前:雑草(C)
説明:マメ科の植物で、
対生の葉の先端に花が咲き、実ができる。
結実直後は食べられるが、黒く熟すと硬くて食べられない。
名もなき雑草がいくつか生えていて、それを私は根っこからガンガン引っこ抜いていく。抜いた雑草はその場でポリゴンになって消えていった。
鑑定自体はスキルなので、特にMPを消費することもなくできるので難しくもなんともない。
《畑×1面分の雑草除去ができたのです》
《畑×1面分の雑草除去ができたのです》
《畑×1面分の雑草除去ができたのです。
レベルが上がったのです。
レベル12になったのです》
《畑×1面分の雑草除去ができたのです。
農家クエスト「雑草を抜こう」が進んだのです。ヤンに報告に行くのですよ》
雑草を1つ抜いたから経験値がもらえるんじゃなくて、畑単位ってことなんだね。そういえば、畑を耕すときも、種を蒔く時も畑単位で経験値が貰えていたっけ。
私は腰を上げると、雑草を抜き去ったばかりの畑を見た。
畑の小麦もどこか元気が良さそうで、青々とした葉を広げ立っている。現実の小麦畑なら麦踏みをすると聞いたことがあるんだけど、しないのかな。
とりあえず、作業は終ったからヤンに報告しないとね。
「ヤンさん、畑の雑草抜きが終りました」
「ほう、確かに雑草はすべて抜き去られているようだな。これは報酬だ、受け取ってくれたまえ」
《農家クエスト「雑草を抜こう」を達成したのです。
経験値の上昇を確認しました。
レベルが上がったのです。
レベルが16になったのです。
中級農家セットを入手したのです。
1,000リーネを入手したのです》
「ありがとうございます。ところで、麦踏みはしなくていいんですか?」
「麦踏みか。秋蒔きの小麦は麦踏みが必要だが、グラーノの町は通年で気候が大きく変わることもないので必要ないんだ」
「へえ、そうなんだ」
秋に蒔くなら麦踏みが必要、なんて知らなかった。
グラーノ農業地帯は黄金色に輝く畑が続いていたから秋のような気候の場所なのかなと思っていたんだけど、今は秋じゃないってことなんだね。
「質問は以上かな。次はレベルが15になったら来るといい」
「あ、レベル15になりましたよ」
さっきのクエスト達成でレベル16になってるからね。次のクエストも受けてミッドレンジギャザラーシリーズの帽子を手に入れちゃいましょう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます