第17話 3つの原石

「お、嬢ちゃんじゃないか」


 大きなテーブルの前まで来ると、その向こう側から声を掛けられた。

 視界の中央辺りを声が聞こえる方向に合わせると、たくさんのプレイヤーに囲まれる中にアレンと書かれた青い文字が浮かび、その下に小さなドワーフのおじさんがいるのが見えた。

 一応、認識阻害(弱)が効いているはずだけど、NPCからは見えるのかな。まあ、話しかけたい相手に見えていないというのも不便だし、他のプレイヤーに気づかれなければいいよね。


「こんにちは、アレンさん。鉄鉱石、採ってきましたよ」


 テーブルの上にゴロゴロと鉄鉱石を並べ、私は返事をした。高品質なものは出していない。自分で使いたいからね。


 アレンは「ああ」と短い声を漏らし、急いで赤い帯が入った黒い石に手を伸ばす。


「にの、しの、むいたの、やいたの……」


 なんて数え方するんだろう、この人。これ、ドワーフ族の風習?


「とお、10個あるな。第4層までの道のりは遠いというのに、よくやったな。これは報酬だ、ほれ、受け取れ」

「ありがとうございます」


 私は大きなテーブルを飛び越え、アレンの隣におり立つと、報酬を受け取った。


《採掘家クエスト「鉄鉱掘ってこう」を達成したのです。

 経験値の上昇を確認しました。

 レベルが上がったのです。

 採掘家レベルが19になったのです。

 中級マイナーセットを入手したのです。

 8,000リーネを入手したのです》


 採掘家はレベル20まであと1レベルかあ。鉄鉱石のクエストってレベル10のクエストだったから、このままレベル15のクエストが受けられる感じかな。それに中級マイナーセットかあ、どんな感じなんだろう。


「なんか、今回もうれしそうだな」

「え、そうですか?」

「なんだか、目がキラキラと輝いてるぞ」


 思えば、一番最初に受け取った採掘家の道具って、ビギナーマイニングキットだったんだよね。

 マイニングキットとマイナーセット……名前の違いは、マイナーとして一人前と認められた証拠だったりするのかな。


「採掘家は力仕事だからな。それを楽しんでるのなら嬢ちゃんは将来有望な中級採掘家ってことだ。次はレベル15になったら来るといい」

「あ、もうレベル15になってます……」

「なんと!」


 アレンは私をジロジロと見つめると、大きく溜息を吐いて壁際に設置された引き出しから大きな石を3つ取り出して大きなテーブルの上に置いた。


「鍛冶師ギルドから頼まれていてな。最近、急に鍛冶師になることを希望する者が増えたらしく、砥石の材料が欲しいそうだ。左から砂岩、珪質頁岩けいしつけつがん、高品質の珪質頁岩けいしつけつがんだ。同じものを1つずつ掘り出してきてくれるか」

「ダンジョンの第4層ですね?」

「そのとおりだ。高品質の珪質頁岩は刃物などの仕上げに使う砥石になる。なかなか見つからんと思うが、嬢ちゃんなら大丈夫だろう」


《採掘家クエスト「砥石材料の依頼」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:MN-004

  クエスト種別:職業クエスト

  クエスト名:砥石材料の依頼

  発注者:アレン

  報告先:アレン

  内 容:鍛冶師見習いの急増で砥石の需要が高騰している。

      砂岩、珪質頁岩、高品質の珪質頁岩を各1個掘ってこい。

  報 酬:経験値5,000×2 貨幣12,000リーネ

      ミッドレンジギャザラーボトム


 なるほど、ここで高品質アイテムの採集というのがクエストに出てくる感じなんだね。

 でも、既に手に入れてるんだけどね。


「はい、採ってきます!」


《採掘家クエスト「砥石材料の依頼」を受注したのです。北湖ダンジョンの第4層の採掘ポイントを見つけて採掘するのです》


「ふっ、嬢ちゃんも採掘が大好きなようだな。気をつけて行ってくるんだぞ」


 アレンはどこか呆れたように言葉を漏らし、続けて私を気遣うような言葉をかけてくれた。


 確かにツルハシを振る瞬間は何も考える必要がなくて楽しいし、あっという間に時間が過ぎていくけど……それはゴブリンがいなければというお話なんだよね。


「えっと、砂岩と珪質頁岩、高品質の珪質頁岩を1個ずつですね。これでいいですか?」

「なんと!」


 アレンがテーブルの上に置いていた砂岩、珪質頁岩、高品質の珪質頁岩に対になるように私はインベントリから石を取り出して並べた。

 アレンは私が取り出した石を見て目を丸くしている。


「おおっ、この珪質頁岩は素晴らしい。高品質の中でもかなり良いほうに分類される石だ。他の2つも申し分ない。これは報酬だ」


《採掘家クエスト「砥石材料の依頼」を達成したのです。

 経験値の上昇を確認しました。

 レベルが上がったのです。

 採掘家レベルが22になったのです。

 ミッドレンジギャザラーボトムを入手したのです。

 24,000リーネを入手したのです》


 おおっ、レベル19から22まで一気に上がっちゃったよ。


「ありがとう!」

「嬢ちゃんはとても有望な採掘家になりそうだな。次はレベル20になったらここに来るといい」

「……えっと、もうレベル20になりました」

「よほど、たくさん採掘したんだろう。たまには休まんといかんぞ。とはいえ、レベル20になってから来いと言った手前、休ませるわけにもいかんか……」


 私としては適宜てきぎ休んではいるつもりなんだけどなあ。

 バイタルアラートもあるし。


「まあいい、彫金術師ギルドからの依頼でな。北湖ダンジョンの第4層で採れるダンブリ石、孔雀石、蛍石をそれぞれ1つ、採掘してきて欲しい。生憎、この3つの石だけ在庫がなかったんだ」

「は、はあ……ダンブリ石に孔雀石、蛍石ですね」

「そうだ、頼めるか?」


《採掘家クエスト「3つの原石」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:MN-005

  クエスト種別:職業クエスト

  クエスト名:3つの原石

  発注者:アレン

  報告先:アレン

  内 容:彫金師ギルドからの依頼があったのだが、ダンブリ石と

      孔雀石、蛍石が足りない。それぞれ1つ、採掘してこい。

  報 酬:経験値12,000×2 貨幣30,000リーネ

      ミッドレンジギャザラーベスト


 どうせダンジョン第5層まで行かないとメインクエストは進まないし、第4層には必ず行くことになるからね。

 受注だけしておけばいいよね。


「大丈夫です」


《採掘家クエスト「3つの原石」を受注したのです。北湖ダンジョンの第4層の採掘ポイントを見つけて採掘するのです》


「おう、気をつけて行ってくるんだぞ」

「はい、早速行ってきますね」


 笑顔でアレンに向かって手を振ると、私は採掘家ギルドを後にした。


 採掘家ギルドの隣は漁師ギルド。ついでに漁師ギルドも報告に行きますか……。






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