第14話 プレイスタイル
「ゴギャギャッ!!」
「ゴギャギャ!」
また遠くからゴブリンたちの声が聞こえてきた。
(ナビちゃん、お願い)
《はいなのです》
全てを言わなくても、戦闘職の装備へと切り替えてくれる。
ナビちゃんは本当に優秀な秘書に育ってきてる気がするなあ。
「ゴギャゴ?」
「ゴギャアゴギャッ」
会話をしているようだけど、全く理解できない。ただ、それぞれに声は異なっているので、少しゴブリンたちの声を聞いていると、何匹いるのかくらいはわかる。今回は3匹。うち2匹は先ほどのゴブリンファイターと似た感じの低めの声、1匹は高めの声だ。
私はできるだけ気配を殺し、壁際へと移動する。
認識阻害(弱)が装備にあるので、そのままでもゴブリンたちには気づかれないと思うけど、そろりそろりと足を運んでしまうし、息を殺して呼吸音や匂いを振りまいてしまわないように気をつかっちゃうんだよね。
別に悪いことをしようとしているわけでもないのに、なんか不思議。
薄暗く光るダンジョン壁のおかげで、30ⅿほど離れたところで3匹のゴブリンの姿が見えてくる。
先頭を歩くのは皮鎧を着こんだゴブリンファイターの2匹。その背後にローブらしき布を着た痩せたゴブリンがいる。ゴブリンファイターを改めてよく見ると、素肌の上に皮鎧を着こんでいる。臭いのも当然だよね。右手にはボロボロのショートソードが鈍い色を放っている。
<簡易鑑定>
名前:ゴブリンメイジ
2匹のゴブリンファイターの影に隠れるようにしてやってくるのは、ゴブリンの中でも魔法が使える個体みたいだね。
考えてみると、ダンジョン内で魔法を使う敵と戦うのは初めてな気がする。
とはいえ、黙ってみているだけではどんな魔法を使ってくるのか、威力はどのくらいなのか、なんてことは全然わからない。
やっぱり戦ってみるしかないんだろうね。
そうするにしても、手前にいるゴブリンファイターが邪魔なんだよね。
たぶん、最初にゴブリンメイジから倒すのが正解。
2匹のゴブリンファイターを相手にしているあいだに、ゴブリンメイジから魔法攻撃を受けると厄介だからね。
<鑑定>
名前:ゴブリンメイジ
ボロボロのウィザードローブと樫の杖を持ったゴブリン。
魔法攻撃に特化していて、攻撃力は高いが、防御力は低い。
鑑定ができる距離まで近づいて来たので確認すると、思ったとおり防御力は低いみたいだね。ゴブリンファイターが皮鎧で防御力を上げた前衛系のMOBだとしたら、ゴブリンメイジは攻撃力特化型の後衛職。
「ゴギャッ」
「ゴギャゴゴッ」
「ゴギャギョ」
なにかを話しながらゴブリンファイターとゴブリンメイジが私の前を通り過ぎる。明らかに汗や垢がすえた匂いに、アンモニアや腐ったタマネギのような匂いが混ざったような空気が辺りを包む。
気絶するような強い匂いにならないよう制限されているとはいえ、VR世界の中でこの匂いを再現しているのはすごい技術力だよね。
認識阻害(弱)のおかげで、ゴブリンたちが私に気づくことなく通り過ぎていく。数歩離れ、3匹全員が背中を見せると、私はそっと動き出す。
まず、ゴブリンファイター2匹の間、数歩下がったところにいるゴブリンメイジの背後に回り込み、不本意ながらも左手でその口を塞ぐと、延髄に戦狼の牙刀を突き立てた。
"Critical!!”
文字が浮かび上がると、ゴブリンメイジの頭に表示されたHPゲージが一気に減った。
突き刺さった戦狼の牙刀を私が抜くと同時、ゴブリンメイジの首からポリゴン状に視覚処理された青紫色の血が噴き出す。返り血を浴びることを厭わず、私はゴブリンメイジの口を塞いで待った。
5秒ほどで、ゴブリンメイジの頭上にあったHPゲージがゼロになり、ポリゴンへと変わっていく。
(自分のことだけどさあ……)
ゴブリンメイジが消え終わる前に、私は前方にいるゴブリンファイターへと視界を向けた。
ゴブリンファイターA、ゴブリンファイターBと頭上に表示されているが、まだ私の存在には気がついていないらしい。
(なんだか忍者だとか、アサシンみたいになってきたかも)
《どちらもレベル30になれば、転職できます》
ナビちゃんが戦闘モードで返事をした。
スカウターから上位の斥候職に進むのもいいと思うけど、現時点で誰ともパーティを組まずにプレイしているんだから、あまり意味がない気がする。
となると、忍者かアサシンかな。
考えながら、私はゴブリンファイターAの背後に迫り、再び左手でその口を塞ぐ。
頭の部分は皮の帽子と同じなので、革装備で身を固めているゴブリンファイターであっても延髄や頸動脈、喉笛あたりは簡単に傷つけられる。
私はゴブリンメイジのときと同様、右手に持った戦狼の牙刀をゴブリンファイターAの延髄に突き刺し、今度は斜め前に歩を進めていたゴブリンファイターBに向けて蹴り飛ばす。
「ゴギョッ!!!」
ゴブリンファイターBは、背中にゴブリンファイターAから体当たりをされたような形になり、変な声をあげて身体を前方によろめかせた。
私はゴブリンファイターBの背中に飛び掛かる。
姿勢を崩していたゴブリンファイターBは地面に突っ伏すように倒れた。
「ゴギャギャギャッ!!」
仲間のはずのゴブリンファイターAに体当たりをされて前につんのめったところに、私に背中に飛びつかれたゴブリンファイターBは事態を飲みこめていないようだね。必死で何か喚き散らしている。
「うるさいわよ」
私は戦狼の牙刀をゴブリンファイターBの延髄へと突きたてて言った。
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