第12話 ゴブリンファイター

 私はナビちゃんにお願いし、装備をスカウトセットSに変更。

 右手に戦狼の牙刀、左手にスチールダガーといういつもの組み合わせで構えをとると、壁際で息を殺してMOBが現れるのを待った。


 やがて、坑道の奥のほうで壁の明かりにぼんやりと照らし出された2匹のゴブリンの姿が見えてきた。とはいえ、第2層までに見かけたゴブリンリーダーやゴブリンアーチャーとは少し様子が違う。

 第2層のゴブリンたちはとても臭い腰蓑を巻いただけの格好だったけれど、ここのゴブリンたちは生意気にも革の鎧を身に着けていた。

 私は、遠く離れたところにいるゴブリンたちに簡易鑑定をかける。


  <簡易鑑定>

  名前:ゴブリンファイター


 名前だけがわかるというレベルだけれど、初めて見るMOBかどうかということだけでも判断できればいいよね。


(ナビちゃん、ゴブリンファイターの適性レベルはいくつ?)

《ゴブリンファイターの適性レベルは23なのです。アオイからみれば、格下の相手なのですよ》


 いつものようにナビちゃんに礼を言うと、私は視界の先から向かってくるゴブリンファイターの観察をはじめた。


 革の鎧といっても、甲冑のように全身を覆うような装備じゃない。

 胸元やお腹のあたりを覆うようにできているだけで、腕は保護されていないし、腋の下のあたりは腕を動かすために何も覆うものがない。

 極めつけは、首の部分。クルーネックTシャツのように丸くカットされているだけで、どうぞ切ってくださいと言っているかのように見える。

 また、頭にはどこかで見たような半球状の帽子のようなものを被っている。


(あの頭の防具って、革の帽子かな?)

《そうなのです》


 ナツィオのクエストで貰った革の帽子そのものだ。ゴブリンが革製の装備をつけている時点でおかしいと思ったけど、このあたりの装備は他にダンジョンに探索に来たプレイヤーたちの遺品という設定なんだろうね。


《北湖ダンジョン第4層に到達しているプレイヤーはアオイだけなのです。ゴブリンファイターたちの装備はプレイヤーのものではないので心配の必要はないのです》

(あ、そっかあ)


 では、第4層で散ったNPC冒険者たちの遺品ってことなのかな。

 さすがにゴブリンに皮を鞣して、それを加工するほどの知能があるようには思えないもんね。


  <鑑定>

  名前:ゴブリンファイター

  ボロボロの革の軽鎧、革の帽子、革のブーツ、革の手袋に、

  ボロボロのショートソードを装備したゴブリン。


 革の装備一式となると、それなりの重さがあるんだよね。その革装備を普通に着込んでいるってことは、中々に体力があるMOBってことじゃないかな。


 考えている間に、ゴブリンファイターが手の届きそうなところにまでやってきていた。

 私がそっと壁際に移動していたのもあると思うけど、それに加えて認識阻害(弱)も効いているようで、まだ気づかれていない。


「ゴギャッ!!」

「ゴギャギャッ!!」


 醜悪な顔を皮の帽子と鎧の間に浮かべ、2匹のゴブリンが話している。

 相変わらず何をいっているか全然わからない。


 2匹のゴブリンファイターが通りすぎたところで、私は背後からそっと忍び寄る。

 そして、左側にいたゴブリンファイターの延髄に向けて、スチールダガーを突き立てた。


 左のゴブリンファイターの頭上に”ゴブリンファイターA"という表示が出て、HPゲージが現れると同時、”Critical!!”の文字が浮かぶ。

 同時に、ゴブリンファイターAが「ゴギャッ!!」と声を上げた。


 クリティカル判定を受け、与えたダメージも少なくはないみたいだけど、左手というのが悪かったのかも知れない。確か、ナビちゃんの説明だと右手の主武器に対して75%の攻撃力に判定されるんだっけ。


 ゴブリンファイターAの脇腹に左回し蹴りを入れて、ゴブリンファイターBの方向へと飛ばし、その反動でスチールダガーを抜く。

 ゴブリンファイターBは、ゴブリンファイターAにぶつかって体勢を崩した。


「ゴォギャッ!!」


 ゴブリンファイターBは「何すんだよ」とでも言う雰囲気で、ゴブリンファイターAへと視線を送ると、ポリゴンになって消えていくゴブリンファイターAの姿にその濁った目を驚愕に染めた。


 私は消えつつあるゴブリンファイターAの身体の下に滑り込み、消えていくゴブリンファイターAの身体を盾にして戦狼の牙刀を突きあげる。


 "Critical!!”


 視界に文字が踊った。


「ゴフッ……」


 ゴブリンファイターBは目を大きく見開くと、口から赤黒い血を吐きだした。

 私はその血を浴びることがないよう、軽くステップして避けると、左手のスチールダガーをゴブリンファイターBの耳穴に突き立てた。再び、視界に"Critical”の文字が躍る。


「ヒュッ……」


 断末魔の叫びをあげようとしたのか、それとも仲間に私の存在を知らせようとしたのか……そのどちらかはわからないけど、吐きだした息は穴の開いた喉から漏れるだけで声にはならなかった。


《ゴブリンファイターAを倒したのです。

 500リーネを入手したのです。

 冒険者手帳「北湖ダンジョン第4層」ゴブリンファイター(1/5)になったのです。

 ボロボロの皮鎧×1を入手したのです。

 ゴブリンの魔石×1を入手したのです。

 ゴブリンファイターBを倒したのです。

 500リーネを入手したのです。

 冒険者手帳「北湖ダンジョン第4層」ゴブリンファイター(2/5)になったのです。

 ボロボロの皮ブーツを入手したのです。

 ゴブリンの魔石×1を入手したのです》


 やはり、ゴブリンファイターが着ているのは、冒険者の遺品という設定なんだろうな。

 私はインベントリに入った皮鎧を何気なく鑑定してみた。


  <鑑定>

  名前:ボロボロの皮鎧

  ゴブリンファイターが着ていた使い古された皮鎧。

  ゴブリンの匂いが染みこんでとても臭い。


 腰蓑じゃなくなっても臭いんだね。





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