第29話 毒消し草と毒消せ草

(ナビちゃん、どのギャザラー職も最初からビギナーギャザラー装備になるようにしてくれる?)

《もちろんなのです!!》


 どこか嬉しそうにくるくると回り、ナビちゃんが返事をする。

 定期的に仕事を与えていれば、ナビちゃんは機嫌がよくなるみたいだね。


 さて、次は何をしようかな。確か受注しているものの進んでいないクエストがいくつかあったはず。


(ナビちゃん、受注しているクエストを教えて)

《はいなのです》


  No.  クエスト名        状態    報告先

  014  グラーノの地図更新    未達成   ジオ

  015  風に舞った手紙      未達成   ボルタ―

  016  やっぱり肉でしょう    未達成   アンガー

  018  料理の材料集め      未達成   カタリナ


(グラーノで受注していないサブクエストってわかる?)

《No.020 大事な商売道具までに受注していないのは012と013、017番なのです》

(ありがとう。まあ、地図更新のクエストとかやっていたら見つかるでしょう)

《生産ギルドにいるのに、クラフター職はしないのです?》

(うーん、今は人が多いからね。それに、神殿にお届けものをしないといけないからさ)

《神殿の場所はわかるのです?》

(そういえば神殿はまだ行ってないね。どこにあるの?)

《地図をみせるのです》


 北湖に行くときにナビちゃんが見せてくれた地図が視界の中央に現れた。

 町の北側には領主の城があるが、その南側に大きな建物がある。


(この大きな建物が神殿かな?)

《そのとおりなのです》


 町の人たちや領主たちも使えるような場所にあると思ったからね。一発で正解した。

 北湖に向かうときは西側の生産ギルドから回り込むようにして向かったから前を通ることもなかったし、帰りはブランチポートを使ったからね。


(職業ギルドはどこにあるの?)

《ナツィオの町と違って、グラーノは町が大きいから職業ごとに建物があるのです。例えば神殿は僧侶のギルドを兼ねているのです》

(じゃあ、スカウターギルドの場所は?)

《グラーノの町の場合、職業ギルドは基本的に冒険者ギルドの近くにあるのです。スカウターギルドは冒険者ギルドの北にある通りを西に向かったところにあるのです》

(ありがとう)


 神殿という場所が必要な僧侶は別として、多くが冒険者でもある職業ギルドは冒険者ギルドの近くにつくる。考えてみると至極普通のことだったね。


(えっと、スカウターのレベルは22だからクエストがあるはずだよね。それに確かお手紙を届けるのがあった気がする)

《神官のラース、ファイターギルドのゲオルグへの配達がまだなのです》

(じゃあ、神殿へのお届けものもあるし、神官ギルドから行こう!)


 たくさんクエストがありすぎて混乱しかけていたけど、ナビちゃんが冷静に対応してくれるから助かるね。


 採掘ギルドを出ると、そこにはまたたくさんのプレイヤーがいた。

 相変わらず認識阻害(弱)がいい仕事をしてくれているようで、誰も私に気付く様子がないので何事もなく生産ギルドの外に出た。


 町に出てみると、生産ギルドの中と変わらないくらいたくさんのプレイヤーがいた。これ、本当に接触できないからいいけど、人と接触できる仕様だとしたら大変なことになるだろうね。

 あちこちでプレイヤー同士でぶつかって喧嘩が起こるんじゃないかな。


(このお店はまだ入ってないよね)

《入っていないのです》


 ジオさんから預かった白地図を手に歩き出すと、すぐに住んでいる人が不明な店があった。


「ごめんください」


 声をかけて中に入ると、そこには様々な薬品らしき瓶が戸棚の中に並び、部屋の梁には乾燥した草や何かの尻尾のようなものがぶら下がっていた。


「いらっしゃい、冒険者さんかい?」


 私の声が聞こえたのか、店の奥から30歳くらいの女性が出てきた。


「はい、Dランク冒険者のアオイといいます。実はジオさんから町の地図に居住者の名前を書き込んできて欲しいと頼まれているんです。よろしければお名前を教えていただいてもいいですか?」

「そうかい、私はハリナ。ここで冒険者向けの治療薬や回復薬を売っている錬金術師さ。ちょうどいい、あんた冒険者なら毒消し草を持ってないかい?」

「いくつか持っていますけど、どうしたんですか?」

「ちょうど解毒薬をつくっていたところなのさ。でも、そこらのEランク冒険者が採ってくるものにはが混じっていてね。3本ほど足りないんだ。持っていたら譲ってくれないかい?」


《サブクエスト「毒消し草がないっ!」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》


  クエスト番号:012

  クエスト種別:サブクエスト

  クエスト名:毒消し草がないっ!

  発注者:ハリナ

  報告先:ハリナ

  内 容:町のEランク冒険者から毒消し草を買ったら、いくつか

      毒消せ草が混ざっていて材料が足りなくなった。

      毒消し草を3本持っていたら譲ってほしい。

  報 酬:経験値2,500×2 貨幣2,500リーネ 初級魔力回復薬×1


「お、はい。いいですよ」


《クエスト「毒消し草がないっ!」を受注したのです。ハリナに毒消し草を3本渡すのです》


「いや、本当に助かるよ。できるだけ早く採ってきておくれ」

「いえ、今あるのでお渡しします」


 私はインベントリから毒消し草を取り出し、ハリナさんに手渡した。

 では駄目ということは、消せそうな見た目だけどやはり駄目だってことなんだね。

 ハリナさんは受け取った毒消し草を矯めつ眇めつしてから、満面の笑みを浮かべた。


「これは鮮度のいい毒消し草だね。ちょっと色をつけておくからこれからもよろしく頼むよ」


《クエスト「毒消し草がないっ!」を達成したのです。

 レベルが上がったのです。

 レベルが23になったのです。

 初級魔力回復薬×1を入手したのです。

 2,500リーネを入手したのです》


「はい、ありがとうございます!」


 毒消し草を3つ渡すだけでレベルが上がったように思ってしまうけど、その前にチェーンクエストをしていたんだった。

 グラーノの町に来るまでもかなりレベルが上がりにくくなってきていたから、それを考えての設定なんだと思う。でも、毒消し草を3つで2,500リーネは貰いすぎな気がするなあ。

 とはいえ、多すぎるって言ったところで返せるものでもないんだよね。


 ハリナの店を出て、他にもいくつかの店に入っては名前を地図に書き込み、神殿の方向へと向かって私は進んで行った。


 地図を埋めながら20分ほどかけて歩いていると、中央に一際大きな塔があり、6本の搭がそれを囲うようにして立っている建物が見えた。実際は更にその周囲にも小さな搭がいくつも立っている。


《あれが神殿なのです》

(へえ、なんか……荘厳さには欠けるような気がする)

《このグランディア王国の人々は創造神アルスを中心とした多神教を信仰しているのです。それぞれの神様にお祈りをする場所を作るとあんな形になるのです》

(1つの搭につき、1柱が祀られているってことかな?)

《神様にも階位があり、最高位は創造神アルスなのです。周囲の6柱はそれぞれ火、水、大地、時空、光、闇の神を祀っているのです……》


 ナビちゃんの解説を聞きながら歩いていると、10分ほどで神殿に到着した。

 実際に正面に立ってみると、とても荘厳な雰囲気があることに気がつく。

 大理石でつくられた壁に、よこしまな何かを近づけぬようにらみをきかせた様々な彫刻がそこかしこに設置されている。また、装飾に拘った門は見事で、見ているだけでも飽きないほど微細で躍動感やくどうかんにあふれた彫刻がなされていた。


「ようこそ、グラーノ大神殿へ」


 偶然、奥にある礼拝堂らしき場所から現れた女性に声を掛けられた。


御祈祷ごきとうをご希望される方ですか?」

「いえ、私はDランク冒険者のアオイと言います。魔道具ギルドのサブさんから依頼されて、こちらのお供えものをお持ちしました」


 私はインベントリからお供え物として預かった大きな荷物を出してみせた。






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