第27話 先に言ってほしかった
「ありがとうございます」
「調理師ギルドからこれを受け取ってきたってことは、その前にも誰かから何かを頼まれたのかしらん?」
サブさんがニケさんからの手紙を小指を立てて読みながら私にたずねた。
私は顎を指先にのせて、これまで受けたクエストを思い出す。
「ええ、そうですね。錬金術師、裁縫師、革細工師、木工師、鍛冶師、彫金師の各ギルドでおつかいを頼まれました」
「あら、それはたいへんだったわね。だったらついでにひとつお願いを聞いてくれないかしら?」
「え、なんでしょう?」
既に8つもおつかいをさせられているんだから、ここまで来たらついでに済ませてしまう方がいいんじゃないかな。この生産ギルドの建物から出ていくようなおつかいであったとしても、職業ギルドに行ってレベル20の職業クエストを受けたりしないといけないからね。
「そんなに構えなくて大丈夫よん。簡単なことだもの。ただ、この荷物を神殿に持って行ってほしいだけなの」
「中身はなんですか?」
「簡単に言うと、神様へのお供え物ね。詳しくは神殿にいる神官にたずねるといいわよん」
《サブクエスト「努力の結晶」が発生したのです。クエストを受けるのですか?》
クエスト番号:028
クエスト種別:サブクエスト
クエスト名:努力の結晶
発注者:サブ
報告先:ヨハン
内 容:職人たちから次々に頼まれたおつかいを済ませると、
最後に神殿にお届け物をして欲しいと頼まれた。
神殿のヨハンのところに持って行き、指示に従おう。
報 酬:経験値27,000×2 貨幣30,000リーネ ????????
報酬も大きいし、何やら伏字になってるアイテムが貰えるところをみると、これがチェーンクエストの締めくくりといったところなのかな。
絶対に受けないといけないやつだね。
「はあ、わかりました。早速行ってきます」
作業台の上に置かれたお供え物は黒い布を被せられていて、中身が何かを確認することができない。ただ、形状的には直径50㎝ていど、高さ1ⅿほどの円錐形をしているものだというのがわかる。
「壊れやすいものだから丁寧に運んでちょうだいね」
「はい、気をつけます」
といっても、私のインベントリに一時的に格納するだけ。そうすれば私が転倒しても中身がひっくり返るということはないから、壊れるなんてこともない。
インベントリにお供え物を収納すると、私は魔道具ギルドをあとにした。
生産ギルドの2階で発生したチェーンクエストは神殿へとお供え物を運ぶ形になっているのでこのまま2階に残る理由はないよね。
生産ギルドの1階という意味では、まだ報告が終ってないからそれを済ませてから他のクエストを進めることにしましょう。
私は勇んで1階へと下りた。
生産ギルド2階も人が増えていたけれど、1階はその倍以上に人がいた。
アルステラは全世界から1つのサーバに接続する仕組み。だけど、すべてのプレイヤーを描画するというのは無理があるわけで、私の視界に映っているのは60人ほど。でも、実際には数万のプレイヤーがここにいるんだろうね。
私は最初に採集家ギルドへと進んだ。今までで最もクエストが進んでいなかったギルドだから、優先して済ませていきたいからね。
「こんにちは、コリーナさん」
「あら、こんにちは。えっと、アオイさんだったわね。最近、急に人が増えたものだから覚えるのも、思い出すのも大変なの」
「ああ、そうでしょうね」
ギルドルームの中はコリーナさんと私しかいない。これは、他のプレイヤーに私とNPCの間で交わされる会話が聞こえないようにするためだよね。
「それで、お願いしていた薬草は集まったのかしら?」
「はい、10束ですよね」
私はダンジョン第2層で採集した薬草を10束取り出し、コリーナさんに手渡した。
コリーナさんは一束ずつ確かめるように薬草を確認し、私に返却した。
どうやら薬草10束というのは課題として出しただけで、ギルドとして納品させるというものではないらしい。
「確かに薬草10束ね。たまにニセヤクソウを摘んでくる人がいて困るのだけど、あなたは優秀ね」
《採集家クエスト「薬草は基本です」を達成したのです。
経験値の上昇を確認しました。
レベルが上がったのです。
採集家レベルが5になったのです。
ビギナーギャザラーマントを入手したのです。
1,000リーネを入手したのです》
ニセヤクソウだって!?
インベントリの中に入っている薬草が全部本物か心配になってくるね。鑑定して採集していたから違うものを採ってきたりはしていないはずだけど。
それにしても、ようやく手に入れたビギナーギャザラーマントなんだけど、マントなのかな。肩を隠すていどしか長さがないんだけど、実際は
「次はレベルが5になったら来るといいわ」
「あ、もうレベルは5になっています」
実は既にレベル9なんだけどね。
「あら、たくさん薬草を取ってきたりしてくれたからかな。じゃあ、次は毒消し草を採ってきてほしいの。錬金術師ギルドから頼まれているのよ」
《採集家クエスト「急募!毒消し草」が発生したのです。クエストを受けるのです?》
クエスト番号:LG-002
クエスト種別:職業クエスト(採集家)
クエスト名:急募!毒消し草
発注者:コリーナ
報告先:コリーナ
内 容:錬金術師ギルドで毒消し草が不足している。
毒消し草を5束、手に入れてきて欲しい。
報 酬:経験値500×2 貨幣3000リーネ
ビギナーギャザラーベルト
ラッキーだね。急募という割には数が少ない気がするけれど、私は毒消し草なら既に十分な数を持っている。自分で採集してきたものと、タイニーエイプのドロップ品があるから結構な数があるからね。
「はい、わかりました」
《採集家クエスト「急募! 毒消し草」を受注したのです。毒消し草を5束手に入れてコリーナに届けるのですよ》
「これでいいですか?」
私はすぐにインベントリから毒消し草を取り出すと、コリーナに手渡した。
「あら、もう手に入れてたのね。ふうん……大丈夫ね、毒消せ草という似た植物があるんだけど、本物ばかりだね」
何それ、なんとなく毒を消せそうな感じのする草ってこと!?
これも鑑定してから採集しているから間違いはないけど、ちょっと心配になってくるよ。これからも面倒だけど鑑定をかけてから採集するようにしないとね。
とりあえず、その毒消せ草で毒が消えるのかどうか、すっごく気になる。
《採集家クエスト「急募! 毒消し草」を達成したのです。
経験値の上昇を確認しました。
レベルが上がったのです。
採集家レベルが12になったのです。
ビギナーギャザラーベルトを入手したのです。
3,000リーネを入手したのです》
うわっ、レベルが4つも上がっちゃった。農家のクエストですごくレベルが上がりやすいことは知っていたけど、4つも上がるとは思いもしなかった。
「次はレベル10になったら来るといいよ」
「あ、もうレベル10になっています」
「よほど採集が楽しかったのね。あっという間にレベル10を超えて中級採集家の仲間入りとは恐れ入ったわ」
「いや、それほどでも……」
ほとんど冒険者のピアスとクエストのおかげなのでそんなに頑張ってはいないと思う……たぶん。
「じゃあ、グラーノ森林地帯にあるグレイトビーの巣に燻し草を使って蜂蜜を採ってきて欲しいの。燻し草に火を着けて巣の近くに置けば、グレイトビーは襲ってこない。でも、気をつけてね」
《採集家クエスト「蜂に刺されないように」が発生したのです。クエストを受けるのです?》
クエスト番号:LG-003
クエスト種別:職業クエスト(採集家)
クエスト名:蜂に刺されないように
発注者:コリーナ
報告先:コリーナ
内 容:レベル10になって採集ギルドに行くと、コリーナから
燻し草を使ってグレートビーの蜂蜜を採集するように
言われた。刺されないように気をつけて採集しよう。
報 酬:経験値1500×2 貨幣8000リーネ
中級採集セット
燻し草を使えばグレートビーに刺されることはないみたいだけど、その燻し草はどこで入手すればいいんだろう。
「燻し草はどうやって入手すればいいんですか?」
「グラーノ森林地帯とグラーノ農業地帯の境目あたりに生えているわ。そこまで行けばわかるわよ」
「わかりました、受けます」
《採集家クエスト「蜂に刺されないように」を受注したのです。グレートビーの蜂蜜を手に入れてコリーナに届けるのですよ》
「では、早速行ってきます!」
「そうかい。じゃあ気をつけていってくるんだよ。ヒーズベアという熊の好物がグレートビーの蜂蜜だから、出くわさないように気をつけるんだよ」
ええっ!? そんな危険な話は先にして欲しかったよ。
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