第17話 砂浜の怪物
《ゴブリンリーダーたちを倒したのです。
冒険者手帳「北湖ダンジョン」ゴブリンアーチャー(5/5)を達成したのです。
経験値4,500を入手したのです。
冒険者手帳「北湖ダンジョン第2層」ボーナスポイント 「2種類のMOBを討伐する」を達成したのです。
経験値ボーナス4,500を入手したのです。
ゴブリンの魔石×2を入手したのです。
ゴブリンリーダーの魔石×1を入手したのです。
ボロボロの銅剣×1を入手したのです。
ゴブリンの弓×1を入手したのです。
ゴブリンの腰蓑×3を入手したのですよ》
途中で現れた新小隊を倒し、ゴブリンアーチャーの課題を終えた私は身体操作を使って樹上に登り、枝から枝へと飛び移りながら第3層への出口を探して移動した。
30分ほど移動していると、森の中に石造りの祠のような建物を見つけた。壁が
階段を100段ほど降りると、再びそこは洞窟だった。
とはいえ、洞窟の中は緩い登り坂になっている。しかも、30ⅿほど先に出口があり、森へと続いていた。
外から入ってくる光のおかげで、洞窟の中も良く見えるのでわかるけど、洞窟の中にはMOBがいない。第3層の入口すぐのところだから安全地帯になっているんだろうね。
「とにかく前に進まないとね」
出口横にあったフロアポートに交信して登録を済ませた私は、洞窟の出口に向かって歩き出した。
洞窟を出ると森は100ⅿほどで途切れ、砂地と広大な海が見えた。
「あ、海だ」
《そうなのです》
キュッキュッと鳴く砂を踏みしめながら歩いて浜辺に立ってみると、海面はとても穏やかで打ち寄せる波は小さく、透けて見える海底は膝下くらいの深さしかない。それが100ⅿ以上は続いているのが見てわかった。
「この海岸では船を浮かべるのは厳しそうね」
50㎝もない私の膝下ていどの深さだと、人を乗せた船なら竜骨が海底に当たって動けなくなってしまう。
(ナビちゃん、まさか第3層の出口は海の向こうとか?)
《ノーコメントなのです!》
幸いにも周囲に森があるから木には困らない。ちゃんと採集家のレベルを上げておくことと、木工師のレベルを上げておけば小型の船くらいは作れるようになると思うんだよね。それを前提に、海の向こう側に渡らないと第4層への出口が見つからないという仕様ならソロプレイヤーにとってはたいへんだわ。
でも、ナビちゃんはノーコメントって言ってる。
ネタバレはできないからノーコメントなのか、本当に海の向こうに出口があるからノーコメントなのか。どっちだろうね。
人間相手なら表情や顔色などで読み取ったりできるかも知れないけど、相手は機械精霊だから難しいな。
とりあえず船を作るというのはまだできないので、広い海岸を歩いてみることにしようかな。
(ナビちゃん、冒険者手帳のダンジョン第3層を開いてくれる?)
《どうぞなのです》
冒険者手帳の北湖ダンジョン第3層のページが開かれ、私の視界中央に表示される。
北湖ダンジョン第3層(0/5)
3種達成 経験値ボーナス 30,000
5種達成 経験値ボーナス 60,000
・サンドルーパー 0/5 未達成 経験値15,000
・ビーチサンドワーム 0/5 未達成 経験値18,000
・マッドクラブ 0/5 未達成 経験値20,000
・キラーフィッシュ 0/5 未達成 経験値25,000
・タイニークラーケン 0/1 未達成 経験値30,000
(思ったよりもMOBの種類が少ないのね)
《魚を釣るのは漁師の仕事なのです》
(でも、船に乗っていたら襲われたりするんじゃないの?)
《襲ってくるMOBだけが討伐手帳に掲載されているのです》
(そういうことかあ)
名前から見ると、サンドルーパーとビーチサンドワーム、マッドクラブが地上にいるMOBで、キラーフィッシュとタイニークラーケンが船なんかに乗っていると襲ってくる感じなのかな。
いや、マッドクラブだから狂気の蟹ってことなのかな。それとも、泥の方なのかな。
今のところ海に出る手段がないから、とりあえず地上のMOBという意味ではサンドルーパーとビーチサンドワーム、マッドクラブに気をつけることにしよう。
どちらに行けばいいかもわからないので、私は海岸線を左に向かって歩き始めた。
方角もわからず海岸線を歩いても、オートマッピングで地図ができるので何の問題もないのがありがたいね。ただ、突然の接敵というのはさすがに怖いので定期的に索敵を掛けながら進んでいく。
ナツィオのバートさんに言われて張った索敵は半径15ⅿていどしかできなかったけれど、今では半径30ⅿていどまで範囲が広がっている。静寂の森やグラーノ農業地帯、北湖ダンジョンの中では適宜使ってきたので熟練度が上がっているんだろうね。
10分ほど歩くと索敵に何かが引っ掛かった。
森からはずいぶんと離れてしまっているのだけれど、見通しのいい海岸線なので、MOBがいるなら目視できるはず。
だけど、周囲にはMOBらしき姿が見当たらない。
(ナビちゃん、MOBは土の中にいるのかな?)
《ビーチサンドワームなのです。砂を踏む音で獲物の場所を探り、砂の下から襲ってくるのです》
(そうなんだ、ありがとう)
ナビちゃんに返事をしたものの、足音を聞いて襲ってくるとなると気をつけないといけない。実質的に砂浜と海しかないので身を隠すところがないからね。
でも、この砂浜は所謂鳴き砂でできていて、少しでも砂を踏むとキュッと音が鳴り、それだけでビーチサンドワームに居場所を教えてしまう。
索敵でビーチサンドワームがいると察知した場所から、私のいる場所に向かって砂が大きく盛り上がって向かってきた。地中を這ってビーチサンドワームが私に狙いを定めた証拠だよね。
結構な速度で私に向かってきた砂の山は、3ⅿほど先で2ⅿほどの幅になるまで大きくなった。
――くるっ!
そう感じた私が砂浜を蹴って左へ跳んだと同時、無数の牙が生えた巨大な口が砂の中から飛び出し、直前まで私がいた場所で空を切った。
柔らかく、乾いた砂のせいで少し足を取られた私は転がるようしてビーチサンドワームから距離を取った。
<鑑定>
名前:ビーチサンドワーム
特に砂浜に住むことからこの名がついた巨大なミミズ。
巨大な口で獲物を捕らえ、丸ごと飲み込んでしまう。
直径で2ⅿ、体長は一部が砂の中でわからないけど、露出している部分だけでも5ⅿはあるんじゃないかな。
すると、ビーチサンドワームがその先頭部を持ち上げ、ゆらゆらと揺すりはじめた。
何をしているんだろう?
私は警戒しつつも、両手のナイフを構えなおす。彼我の間合いは3ⅿもないけど、音で察知されてでも背後に退いて距離をとるべきか悩ましいね。
(ナビちゃん、こいつは目は見えないの?)
《目は退化していますが、光を感じることができます》
ゆらゆらと動いていたビーチサンドワームの動きが止まると、今度は更に高く体を伸ばして直立し、私のいる方向とは逆に向かって上体を引いた。
(ヤバいっ!!)
咄嗟にバックステップで距離を取ると、同時にビーチサンドワームの上体が鞭のようにしなって地面を叩きつけた。
直前に距離を取ったおかげで、ビーチサンドワームの身体に押しつぶされずに済んだけれど、私は衝撃で飛び散った砂を大量に浴びてしまった。
ビーチサンドワームは仕留め損なったことに気付いたようで、再び頭を持ち上げてゆらゆらと動いている。
こいつの弱点って何だろうね。
見た目と名前からすると、環形動物であるミミズなんだよね。アルステラは狼の体の動きや習性まで丁寧に再現していることを考えると、ミミズの習性もしっかりと再現されている可能性があるよね。
確かミミズって、皮膚呼吸だったはず。だから大雨が降ると地上に逃げてきて、雨が止んだ後にアスファルトの上で干からびてたりする。目はナビちゃんの言うとおり退化しているけど、聴覚はないんじゃなかったっけ。そして、皮膚呼吸ってことは鼻はないね。
(まさか、全身で匂いを感じて獲物を探してるの!?)
《コメントできません》
自動で戦闘モードに切り替わっているのか、普段とは違う返事をするナビちゃん。
(だったら、こうしたらどうかな)
私はインベントリからあるものを取り出して、ビーチサンドワームに投げつけた。
*⑅୨୧┈┈┈┈┈ あとがき ┈┈┈┈┈୨୧⑅*
ナビちゃんはビーチサンドワームが「音で獲物の位置を探る」と言っていますが、ビーチサンドワームは耳がないので音は聞こえません。
正確には音ではなく、砂を踏むときに音と共に発生する微細な振動を感知しています。ただ、鳴き砂の音がするので「音で獲物の位置を探る」という言葉をナビちゃんは使っているだけです。
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