第15話 洞窟を抜けると

 ダンジョン第2層の洞窟を歩いていると、定期的にゴブリンリーダー率いる小隊がやってくる。それを難なく倒しながら進んでいると通路が2つに分岐していた。


 今度も左かな。


 実はここに来るまでずっと左手を壁につけて歩いてきたのだけど、必ず行き止まりだったんだよね。こうなると、今度こそ左が正解と思う気持ちと、次も右なんじゃないかと思ってしまう気持ちが私の中でせめぎ合いを始める。とはいえ、行き止まりだとしてもそんなに歩くわけではないから気にならないんだよね。


 結局、私は今までどおり左を選んで奥へと進んだ。


 クネクネと50ⅿほど進んだ先は突き当りになっていた。でも、壁面がキラキラと光っていて、そこで何かが採掘できると直感した。


(ナビちゃん、このあたりだけ壁面が違う感じなんだけど何故かわかる?)

《ここは採掘ポイントなのです。錫鉱石が採れるのですよ》

(へえ、じゃあ採掘家装備に変えて採掘だね)

《はいなのです》


 返事をするや否や、装備が採掘用に変更された。

 壁面へと視線を向けるといくつもの採掘ポイントが光っているので、私は手近なところからピックを振り下ろしていった。


《錫鉱石を入手したのです。

 採掘経験値10×2を獲得したのです。

 採掘手帳No.9「錫鉱石」が解放されたのです。

 錫鉱石を入手したのです。

 採掘経験値10×2を獲得したのです。

 錫鉱石を入手したのです。

 採掘経験値10×2を獲得したのです。

 錫鉱石を入手したのです。

 採掘経験値10×2を獲得したのです。

 錫鉱石を入手したのです。

 採掘経験値10×2を獲得したのです。

 採掘家レベルが10になったのです》


「あ、レベルが上がった」


 思ったよりも速いペースでレベルが上がったので声がでてしまった。

 ただでさえピックの音でゴブリン小隊がやってくるんだから、気をつけないといけないよね。


 採掘手帳の番号を見る限り、他にもいろいろとありそうな予感がする。このダンジョン第1層や第2層に他の何かが採掘できると効率的でいいんだけどなあ。


 それにしても、冒険者のピアスがあるから採掘も楽にレベルが上がるのは本当にありがたいね。


 その後、他の採掘スポットでも採掘をしてみると、4個しか錫鉱石が採れなかった。それでも全部で9つの錫鉱石を手に入れた私は、やってきた通路を戻って分岐を左に向かった。


 分岐の途中で広くなった場所に出たので確認すると、今度は亜鉛鉱石の採掘スポットを発見した。ピックを振るって8個の亜鉛鉱石を採掘できたのだけど、残念ながらレベルは上がらなかった。


 その後、スカウター装備に戻ってやってくるゴブリン小隊を倒しながら広場の先にあった通路を進んで行くと、通路の先に出口らしき光を見つけた。


(ナビちゃん、あの先は外に出る感じなのかな?)

《行けばわかるのですよ》


 ゲームの進行的になんでも答えるわけにいかないのはわかるんだけど、行けばわかるといわれると返す言葉もないよね。

 このあたりはAI的にまだ学習の余地があるって感じなのかな。


(亜鉛鉱石と錫鉱石は何個ずつ採掘すればいいんだっけ?)

《共に3個なのです。銅鉱石から黄銅や青銅を作る際につかうのです》

(へえ、そうなんだ)


 そういえば、古い時代は金属製品っていえば青銅製だったんだっけ。鍛冶師や彫金師になったら初級レベルの材料になりそうだね。

 数はまあまあ集まっているし、なんとかなるかな。


 洞窟が緩やかにカーブしているせいか、出口までの距離はたいしたことはなく、200ⅿほど進んだところで出口の近くに着いた。


「これは……」


 鬱蒼と生い茂った草木が覆っていて、森林特有の湿った香りが漂っている。


《北湖ダンジョン第2層、迷いの森なのです》

(え、迷っちゃうの?)

《アオイはスカウターだからマッピングできるので大丈夫なのです。他の職業では対策なしでは迷ってしまうのですよ》


 洞窟の出口は崖の下にぽっかりと口をあけているだけ。周囲に生い茂る木々は高さ20ⅿから30ⅿほどある広葉樹だからね。同じような木が生えている中を方向感覚を狂わせずに進むのは難しそう。


「じゃあ、まずは木の上に登って全体を見渡してみますか」


 言うと同時、私は近くに生えた木を蹴って高く跳びあがり、枝から枝へと渡りながら梢へと登った。


「これはすごいねえ」


 辺りで最も高い木の上にまで移動して見渡すと、先ずはどこまでも続く森の広さに圧倒された。数十㎞先まで見えるはずなのに、ずっと森が続いている。洞窟の出口があった崖は、切り立った山になっていて、その背後には雪を頂くほどの高い山脈が連なっている。


「ナビちゃん、私はこの見える範囲の中で第3層に繋がる出口を探さないといけないの?」

《安心するのです。プレイヤーが活動できる範囲は限られているのです》

「ふうん……」


 確かに他のゲームでも倒木があったり、崖があったりして通れなくなっていることがよくあるから、そういう障害物なんかで通れなくなっているのだろうね。


《木の上を通っていくのです?》

「え、そのつもりだけど」

《薬草などの採集物があるかも知れないのです。地面を歩く方が良いのですよ》

「あ、そうだね。うっかりしてたよ」


 確かにそのとおりだよね。まだ採集家クエストで指定されている薬草を採集できていない。確かに木の上を歩いていても採集できるはずがないよ。

 慌てて枝を使って地面に下りると、既に森の中に入っていた。オートマッピングで地図ができているし、困ったら木の上に登ればいいので問題ないけど、既に崖下にあった洞窟の出口はわからない。


 森の中は原始林。人の手が入っておらず、高い木々が作る上の森と、苔やシダ類、落ちてきた実から芽吹いて力強く若木が育つ下の森で構成される幻想的な世界。でも、似たような木と、似たような草や苔、似たような若木が生えているばかりで、自分が今どこにいるのかもわからなくなってくる。


「ゴギャッ!」


 そんな状況でもゴブリン小隊たちはやってくる。

 認識阻害(弱)の効果を信じ、私は大きな木の幹で姿を隠してゴブリン小隊へと視界を向ける。

 剣を持ったゴブリンリーダーと棍棒を持つゴブリン。加えて、今回は弓を持ったゴブリンもいた。


《あれはゴブリンアーチャーなのです》

(ちょっと面倒だね)


 私は近接と中衛の距離を得意とするスカウターだから、遠距離から攻撃してくる弓使いや魔法使いは相手にしたくない。だから、真っ先に倒す必要があるんだよね。

 いつもなら適当に近づいて、首を刎ねたり、突いたりしながら倒してしまうけれど、今回はゴブリンアーチャーから倒すのが正解。だから、一旦はゴブリン小隊が通り過ぎるのを待つ。


 ゴギャゴギャと会話らしきことをしているゴブリンたちが完全に私に背後をみせたところで、一気に駆け寄ってゴブリンアーチャーの首筋に戦狼の牙刀を突き刺す。


〝Critical!!〟


 文字が浮かんで消えると同時、続けて背後から心臓のあたりにスチールダガーを突き刺した。

 声を出す暇もなくゴブリンアーチャーがポリゴンとなって消えた。


 ゴブリンリーダーとゴブリンは、アーチャーが倒されたことにまだ気が付いていない。


(ナビちゃん、ゴブリンに<スパーク>)

《はいなのです》


 閃光が迸り、ゴブリンに直撃する。


「ゴギャアッ」


 体表を覆うものが腰蓑しかないせいか、悲鳴のような汚い声を上げながら感電してスタン状態になった。

 同時に私はゴブリンリーダーの背後から襲い掛かり、戦狼の牙刀で首を刎ね飛ばし、その勢いでスタンしたままのゴブリンにスチールダガーを突き刺す。

 顎の下から頭にスチールダガーが突き抜けると、ゴブリン、ゴブリンリーダーが共にポリゴンとなって消えた。


《ゴブリンリーダー等を倒したのです。

 冒険者手帳「北湖ダンジョン」ゴブリンアーチャー討伐数(1/5)になったのです。

 ゴブリンの魔石×2を入手したのです。

 ゴブリンリーダーの魔石×1を入手したのです。

 ボロボロの銅剣×1を入手したのです。

 ゴブリンの棍棒×1を入手したのです。

 ゴブリンの腰蓑×2を入手したのですよ》


 あれ、普通のゴブリンとアーチャーで魔石の区別はないんだね。まあ、見た目は武器が変わっただけにしか見えなかったからそんなものなのかもしれないけど。





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