第13話 おてんば娘と猫のタマ

「ネーナちゃんね、ハリーさんが探していたわ。早く家に帰ってあげて」

「お姉ちゃん、だれ?」


 栗色の瞳が大きく開き、私を見上げている。身長はちょうど120㎝といったところかな。6歳くらいだと思うけど、そのくらいの年頃の女の子が1人で人気のない場所にいるのは危険だね。

 突然声を掛けられると子どもも不審に思うよね。


「ごめんごめん。私は冒険者のアオイ。ネーナちゃんのお父さんからあなたを探してくるようにお願いされていたの」

「じゃあ、おねがい。木の上にいるタマを下してあげて欲しいの」

「いいよ、でもどうしてこんなところに?」


 木の枝には小刻みに震えるタマがいた。何かに怯えているのは確かなんだけど、それが何に怯えているのかも大事よね。


「私がここに来たらタマがおっきなスライムに猫パンチしていたの。スライムがお口から何か吐いたら、タマが逃げて木に登っちゃったの」

「そっかあ、そのスライムはどこにいったのかな?」

「あそこにいるよ」


 ネーナちゃんが指さした先には、大きなスライムがいた。プルプルと震えているが、タマに反撃したあとに逃げたのだろう。

 先にタマの救出をするのもいいけど、タマが怯えているのが枝の高さじゃなくてスライムのせいなら困るからね。先にスライムをやっつけちゃおう。


 タマのことを私に任せて帰っていいのだろうか、といった顔をしているネーナちゃんを尻目に、「タマがスライムに怯えていると困るから、先にスライムを倒すね。それからタマを助けましょう」と、言って私はスライムのいる場所へと向かった。

 スライムは自ら攻撃することがない魔物だし、30ⅿは離れているからネーナちゃんをここに残しても問題ないよね。


 スライムの前に立つと、先ほどまで相手にしていた野兎がミニチュアに感じるほど大きい。小さめのバランスボールほどの大きさがある。

 とりあえず、簡易鑑定してみることにした。


  名前:ヒュージスライム


 成長しているから、なかなか強い感じになっている。でも、半透明なつるつるボディの中に浮かぶコアらしきものを破壊すれば倒せるはず。


 私はインベントリから投げナイフを2本取り出し、ヒュージスライムのコアに狙いをつけて投げた。

 スライムの体は完全な液体ではなく、ゼリー状になっている。完全な液体だとボウルに卵を割ったときに入った殻のように、イライラするほどコアに逃げられて大変だと思うけど、ゼリー状なら問題ない。

 スキルで補正されたスローイングナイフがゼリーの中へ音も立てずに突き刺さり、コアに掠って反対側に抜けた。

 二本目のスローイングナイフを投げると、今度はコアを完璧に砕いた。


 直前まで葛饅頭のような形を維持していたプルプルボディが崩れ、地面には壊れた核と、直径5㎝ほどのゼリーが5つほど残った。


《経験値25×2を取得したのです。

 スライムゼリー(5)を入手したのですよ》


 おおっ、結構たくさん手に入るね。レベルが5だったからかな?

 とりあえず、タマちゃんの安全確保ができたから、救出に行きますか。


 振り返り、ネーナちゃんがいる木の下に向かった。

 どうやら、タマはパニックになって、自力で下りられないくらいの高さにまで登ってしまったようね。スライムが倒された今もプルプルと震えながら地面をチラチラと見ていた。


「スライムは倒してきたよ。次はタマちゃんの救出かな?」

「うん、自分では下りられないみたいなの。お姉ちゃん、おねがい」

「はーい」


 ネーナちゃんの言葉を聞いて元気よく返事した私は、チュートリアル応用編で覚えた身体操作を思い出しながらタマがいる枝の根元へと駆け上がった。


「うわあ、お姉ちゃんすごいっ!!」

「えへへ、そんなでもないよ」


 可愛らしい少女に褒められると、悪い気はしないよね。身体操作を覚えたからこそできる技なんだけど、大きなキャラを選んだ人たちなら肩車とかして助ける感じなのかな。それだとネーナちゃんのお褒めの言葉はいただけないかもしれない。


 震えるタマを抱きかかえた私は低い木の枝に乗り移ってから、地面に飛び降りた。


「ねえねえ、どうしてお姉ちゃんはあんなに木登りが上手なの?」

「えっとね、木登りだけじゃないの。冒険者になるために頑張ったんだよ」


 主にチュートリアル応用編でだけどね。あれは楽しかったけれど、本当にきつかった……。


 ネーナちゃんはすっかり私に懐いてくれたようで、いろいろなことを話してくれた。特にお父さんであるハリーはネーナがお願いすると何でも買ってくれるらしい。私への報酬はたったの100リーネだけどね。

 もしかして、ネーナちゃんに貢ぎすぎてお金がないのかな。あと5年から6年もすれば、「お父さん、不潔っ!」なんて言われて絶望するんだろうなあ。


 なんてことを考えながらネーナちゃんとお話しつつ、代官屋敷の前に戻ってきた。

 ハリーとステラはずっとそこにいて、その場でクエストの報告を済ますことができた。


《クエスト「おてんば娘ネーナ」を達成したのです。

 100リーネを入手したのです。

 レザーグローブを入手したのです》


《クエスト「うちのタマ知りませんか」を達成したのです。

 経験値の上昇を確認したのです。

 レベルが上がったのです。

 レベルが7になったのです。

 300リーネを入手したのです。

 レザーブーツを入手したのです》


 おおっ、レベルが上がったよ。これで、残ったのはスザンネに手紙を届けることくらいじゃないかな。じゃあ、スザンネに手紙を届けて、弁当配達の報告、ペーターのところに手紙の報告に行って、テオのところに地図の報告する感じね。そのあと冒険者ギルドに行けば全部終わるはず。


《クエスト「隠れていた配達物」が進んだのです》

《クエスト「ついつい忘れるお弁当」を達成したのです。

 経験値の上昇を確認したのです。

 レベルが上がったのです。

 レベルが8になったのです。

 600リーネを入手したのです。

 魔法書(生)ウォッシュを入手したのです》


 おおっ、またレベルが上がったよ。もうレベル8ってことは、かなりのステータスになってるんじゃないかな。






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