第11話 命名ナビちゃん
鍛冶屋のクエストを受けた私は、続けて地図づくりのクエストを続け、ひととおり地図を埋めた。
残るは冒険者ギルドと職業ギルドくらいしかないので、ログインしてから初めて町の外に出てみることにした。まだ一度もMOBと戦ったことがないんだもん。せっかくロビンさんのクエストを受けたわけだし、投げナイフも使ってみたかったからね。
ということで、町の門番――パウルさんのもとへとやってきた。
パウルさんの前には今にも泣きだしそうな少女がいて、パウルさんも扱いに困っている様子だったんだけど、私が近づくと少女はポータルコアのある広場の方に向かって走って行った。
とても残念そうに少女を見送ったパウルさんが私を見つけ、声をかけてくれる。
「お、嬢ちゃん。冒険者と職業登録、ポータルコアの登録が終ったのかい?」
「ええ、終わりました。ほらっ」
私はスカウトリングを嵌めた指で、冒険者証をパウルさんにみせると、依頼票を手渡した。
パウルさんは嬉しそうに目を細め言った。
「冒険者としての第一歩を踏み出したってわけだ。これは私からのお祝いだ」
「ありがとうございます!」と、私が礼を言うと機械精霊の声が頭の中に響いた。
《クエスト「門番パウルの初心者指導」を達成したのです。
経験値の上昇を確認したのです。
レベルが上がったのです。
レベルが5になったのです。
レザーキャップを受け取ったのです。
100リーネを受け取ったのです
<罠察知>を覚えたのです》
おおっ!
1つだけだけど、レベルが上がった!
それに、<罠察知>を覚えたから職業ギルドにも行かなきゃいけない。またやることが増えちゃったよ。
「あ、そうだ。お弁当と手紙を預かってきました。どうぞ」
「お、悪いね。忘れたのはスザンネの方なんだがね」
《クエスト「ついつい忘れるお弁当」が進んだのです》
「あと、こっちのお手紙も。どうぞ」
「手紙か、誰からかな……ふむふむ。ありがとう」
《クエスト「隠れていた配達物」が進んだのです》
「では、ちょっと町の外に行ってきます」
「おう、気をつけてな」
達成サインが入った依頼票を受け取った私は、手を振るパウルさんに背を向け、初めて町の外へと足を踏み出した。
町の外に出ると、石畳の街道が続いていた。街道の左右には草原が広がり、既に大勢のプレイヤーがコツコツと狩りを続けている。
私は<索敵>を使った。半径30メートルくらいの円柱が視界に表示され、緑に光る点と、白に光る点がたくさん表示された。
《白く光る点がプレイヤー、緑色に光る点は自分よりも格下の敵なのです。黄色は自分よりも少し格上の敵、赤色は勝てない相手だと思えばいいのです》
(うん、わかった。ありがとう)
機械精霊の解説を聞いて色の違いを理解した私は、誰とも戦っていない野兎を探した。
20ⅿほど先に2羽の野兎がいたのでそこに向かうことにし、私は軽く駆けだした。
(身体がすごく軽い!!)
現実世界ではありえないほど、自分の身体が軽く、動きが速い。
あっと言う間に野兎の前に着いた私は、インベントリからスローイングナイフを手に取った。
野兎に向けて、スローイングナイフを投げる。
「えいっ!」
狙いをつけて投げたナイフが美しい弧を描いて飛ぶ。ゆっくりと半回転した先端部は狙い過たず、野兎の首筋にドスッという音を立てて突き刺さった。野兎はピイッと断末魔の叫びを上げて倒れ、ポリゴンになって消えた。
グロテスクな表現がなくて助かる。
(ナイフを投げるのって結構難しいって聞いたことがあるのだけど?)
《職業に対応した武器を初めて使用するときに自動で武器スキルを覚えるのです。武器スキルの補正があるから狙ったとおり当たるのです。今、アオイはナイフ、スローイングの2つを覚えているのですよ》
(へえ、そうなんだ。楽でいいね)
あれもこれもとスキルという名で実装して覚えていく仕組みは、プレイヤーへの負担が大きいから、そういう仕組みにしているのだろう。
昔のゲームにはボタンひとつで武器スキルや攻撃スキルのようなものがあったらしい。でもアルステラのような完全没入型にそれを実装してしまうと、一時的でも仮想の身体が完全にゲームに乗っ取られることになる。それが人間の脳に強いストレスを与えるため、認められていない。
野兎の姿が消えると、地面には竹の皮のようなもので包まれたものがドロップしていた。
《野兎レベル1を倒したのです。
2リーネを入手したのです。
野兎の肉を入手したのです》
竹の皮に包まれていたものは自動的にインベントリに収納されたみたい。あと、お金もね。
(経験値は入ったの?)
《野兎レベル1を倒したのです。経験値4×2を入手したのです。今後も経験値のお知らせが必要なのです?》
(あ、いらないわ)
機械精霊はわざわざ入手経験値を通知しないようにしていてくれたみたいだね。確かに、数値が小さいなら聞かない方が気楽でいいからね。
その後、移動しながら野兎をスローイングナイフを使って2羽倒し、3個の肉を手に入れた。
(機械精霊さん、テレポで町に戻りたいんだけど)
《行先を指示するのです、私が起動するのですよ》
(じゃあ、ナツィオにテレポして)
《ナツィオにテレポするのです》
足下に魔法陣のようなものが現れ、瞬きすると私はナツィオの町の中にあるポータルコアの前にいた。
このゲームでは、どうやら煩わしい操作をしないで済むように機械精霊が存在するシステムっぽい。他のゲームはいくつもウィンドウが開いて、それを指でポチポチと押したりするのだけれど、結構面倒くさいのよ。
その点、普段は機械精霊として半透明になって周囲で飛び回っているだけで、話しかければ何でもやってくれる。本当にプレイヤーにとっては楽でいい。
私がログインしてから2時間ほど経っていると思うのだけど、狩りをしていた人たちも少し休憩したいのか町の中に戻ってきていた。ただ、見る限り最初にスポーンする場所からそのまま町の外へと向かう人たちが未だにたくさんいる。
(ねえ、機械精霊さん。ナビちゃんって呼んでもいい?)
《機械精霊の名前を「ナビちゃん」に変更するのです?》
(あ、はい。お願いします)
《口調、声のタイプなども変更できるのです。変更するのです?》
(とりあえず、それは今のままでお願いします)
《機械精霊の名前を「ナビちゃん」に変更したのです!》
ちょっと堅苦しいところがあるけど、AIだってちゃんと人間様の意思を確認しないといけないからね。仕方がないんだけど、私にはナビちゃんの声が嬉しそうに聞こえて、ついニヤリと笑ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます