第39話 違和感と影
リールside
雰囲気自体は、優しげだが、なぜかそれだけじゃない気がする、それに、フローラという名は、どこかで聞いた事がある気がする。
リール『フローラ施設長、貴女は何者なのかしら?』
フロ「その質問に対する答えは、このピッコラフェリの施設長ですとお答えするしか出来ませんよ?」
リール『そうね、それじゃあ質問を変えるわ、貴女自身が修羅場を経験しているわね?』
違和感の正体、例えるなら隠されたナイフの様に、微量程度に死臭がする。
孤児院の施設長がそのような匂いをさせている事が何より違和感だろう。
セレス「…どういうことなの?フローラさん?」
フロ「…さすが、紅銀の鬼と言われてるだけありますね。」
観念したかのように口を開く施設長に、元同業かと当たりを付ける。俺が呼ばれていた名まで当てたのなら、いよいよ無視はできないしな。
リール『まず、私が紅銀の鬼だって言う根拠を問いただしたいけれど、貴女、殺し屋ね?』
フロ「…そうです、貴女の言う通りです。根拠については、その容姿と2つ名を照らし合わせれば、嫌でも分かりますよ、しかし、それだけではありません。」
リール『…というと?』
フロ「昔ですが、1度だけ貴女と会ったことがあるのですよ?」
そう言われて、記憶を辿っていく。
リール『…ごめんなさい、分からないわ。』
フロ「…このネックレスを見ても?」
そうして首から下げられたネックレスを手のひらに乗せ、俺に見せてきた。
十字架の真ん中あたりに、赤くて小さい宝石が装飾されている。
それには、かなり見覚えがあった。
リール『!?これは、赤十字のネックレス、確か、昔、そのネックレスをした人がいたような…。』
フロ「…あなたのようなこどもはここにいるべきじゃないわよ?」
リール『…!?』
フロ「思い出したようですね…?」
その言葉で思い出した。
リール『…あの時のお節介お姉さんは貴女だったのね。』
フロ「な!?お節介お姉さんって何ですか!貴女こそ無口の子供だったじゃないですか!」
セレス「待って、フローラさん、私は何も聞いてませんよ?」
フロ「あー、言えなかったのよ、ここの施設を守るためにやっていたとはいえね…。」
リール『フローラさん…。』
その気持ちは痛いほど分かる。
殺し屋になるヤツらはクズが多い。
殺しの何でも屋という肩書きがある手前それが当然なのかもしれないが、中には悪い事をしていないにもかかわらず、そいつを殺す奴もいる。
フロ「それにしても、大きくなりましたね。」
リール『当然よ、あれから何年経ったと思ってるの…?』
フロ「ふふ、確かに。」
リール『フローラさんこそ、口調が大分変わったわ。失礼ながら、昔はもう少し荒っぽかった気がするわ。』
フロ「そうね、成長したのかもしれないわね…。」
セレス「フローラさんはリールさんの事を結構知っているのですね。」
フロ「殺し屋としてのリールさんしか知りませんよ。」
セレス「私も知ってはいますが、全てが謎に包まれていたので、あまり分かってはいなかったのよね…。」
リール『情報規制をある程度していたから、そうなるのも当然よ。』
正式な依頼はガリスさんからの紹介制を採用していた事、俺が異常種という事もあり、下手なやっかみを無くすために情報規制は必須だった。
フロ「そういえば、何故リールさんがここに?」
リール『セレちゃんに付いてきて欲しいと言われたというのもあるのだけれど、この施設の管理者には前から興味があったのよ。』
フロ「なるほど、そういう事でしたか、という事は、リールさんも孤児院を運営されてるのですか?」
リール『えぇ、ここよりは小さいけれどね。』
フロ「そうなんですね、それでは貴女から見て、この施設はどう感じましたか?何かお役に立ちますでしょうか?」
リール『そうね、教育施設の充実に運動場完備、学びや生活において、これ程いい施設は見た事が無いわ。でも、一番良いと思ったことは、子供たちの表情ね。』
俺は子供達と遊んで思ったこと、皆が希望に満ち溢れて、心から笑っている。
孤児院の子供はその名の通り孤独を感じている子供達が多い、少なからず、陰が出来るものだ。
しかし、それが一切感じられない、皆が本当に楽しそうだ。
これが何よりも良い事だと思う。
セレス「うふふ、そうですね。とても、笑顔が溢れている事がここでは1番の自慢でしょう。ねぇ?フローラさん?」
フロ「ふふ、そうですね、いつも癒されていますよ。」
そう2人が温かな微笑みを浮かべると、子供達が少し羨ましくも感じた。
そして、もし昔の自分がスラムではなくここに居たら、どうなっていたのだろうかと、らしくもない考えが頭の中を過ぎったが、直ぐにかき消した。
セレス「リールちゃん?」
リール『あ、え?何?セレちゃん?』
セレス「いえ、何だか悲しそうな顔をしていたから…。」
リール『そう…かしら?』
表情に出ていたようだ。
フロ「…リールさん、1つお伺いしても?」
リール『えぇ、いいわよ。』
フロ「その、答えたくなければ、それでいいのですが、リールさんは孤児だったのですか?」
予想外の質問に呆気に取られる。
リール『…えぇ、そうよ、スラム街にいたわ。』
俺がそう言うと、2人の顔が驚愕に染まった後直ぐに苦虫を噛み潰したような、表情になった。
リール『でも、私は幸せだったわ。大切な人に巡り会えたのだから。勿論、今も幸せよ?』
俺は2人に笑いかけながら、心からの言葉を言い放った。
フロ「…貴女が強い理由が分かった気がします。」
セレス「えぇ、そうね。」
2人とも暖かい目でこちらを見つめてくる、それが少々くすぐったいように感じたが、不思議と悪い気はしない。
しかし、次の瞬間、俺は警戒を強める事になる。
リール『っ!?フローラさん、セレちゃんとここにいて。』
この施設に近付いてくる2つの気配を感じた。
セレス「…え?どうしたのです?」
リール『良いから、フローラさん、ここをお願い出来ますか?』
フロ「…えぇ、分かりました。」
フローラさんも気付いたようだ。
俺は部屋を出ながら、アイリへ連絡を取る。
リール『アイリ、今どこにいる?』
アイリ『あぁ、リール、今は、2つの気配を察知したから、ニーナと一緒に子供たちを連れて移動しているとこだ。』
リール『分かったわ、そのまま建物の中に避難してて頂戴、避難が終わったらそのまま護衛しててちょうだい、後は、あの3人に連絡をしておいて、良いわね?』
アイリ『了解した、リールは迎え撃つのか?』
リール『えぇ、ちょっとお灸を据えてくるわ。』
アイリ『了解、気をつけて。』
リール『えぇ、アイリも気をつけて。』
連絡が終わると、俺は走り出した。
そして、広場に着くと、大きな声で叫ぶ。
リール『そこの2人、出てきなさい、もういるのは分かってるわ。』
そう叫ぶと、仮面で顔を隠した、2人が俺の前に姿を表す。
ワン「…なんでバレてた?」
二ー「お前、只者じゃないな。」
リール『殺気を隠せてないわよ、いやでも気づくわ。』
ワン「…お前、危険、ここで殺す。」
二ー「あぁ、2対1とは言え、手加減はしない。」
そう言いながら、2人は自分の武器を取り出す。
見た所、クナイの様だ。
忍者の類か…?
リール『えぇ、かかってらっしゃい、お灸を据えてあげるわ。』
俺は素手だが、まぁ何とかなるだろ。
ワン「行く!」
最初に仕掛けてきたのは、少女の方だ。
クナイを逆手に持ち、俺に迫る。
ワン「はぁぁ!」
…速い、この少女は能力持ちか、だが。
リール『甘いわよ。』
そう言いながら、迫るクナイを全て避けていく。
そして、クナイを持った腕を掴む。
ワン「くっ、やっぱりお前強い。」
リール『あなたもなかなかのスピードを持ってるじゃない。異常種かしら?』
ワン「…だったら、なんだ?恐れるか?」
リール『恐れる事は無いわ、ただ惜しいわね。』
ワン「…何を言っている?」
そう会話をしていると。
二ー「ワン!はぁぁぁぁ!」
少年が、ワンと言われた少女を助けようと、俺にクナイを振り下ろす。
それを俺は避けずに、少女の腕を持ちながら、回し蹴りをして少年のクナイをはじき、回転を利用して、少女と少年をぶつけた。
ワン「」グハッ
二ー「」ガハッ
2人とも少し離れた所で倒れている。
リール『ふぅ、あなた達2人とも能力持ちね?』
二ー「ぐっ、だった…ら、なんなんだ…?」
リール『いえ、単なる興味よ。あなた達には聞きたいことが山ほどあるの、一緒に来て貰えないかしら?』
二ー「そんなこと…聞けるわけがないだろう。」
リール『…そう。なら、力づくしかないのだけれど?』
そう言うと、俺は2人の方に近づく。
ワン「二ーはやらせ…ない!」
少女がそう叫ぶと、少女の身体が少しずつ変化していった。
二ー「ワン!だめだ!まだ完全変化はコントロール出来ないだろ!理性を失うぞ!」
二ーと呼ばれた少年は必死に叫ぶが、少女の変身は止まらない、飛び散った砂が少女の周りを覆う。
ワン「」グガァァァァァァ
けたたましい雄叫びと共に砂が風で完全に消えると、そこにいたのは、四足歩行で、鋭い目と鋭い犬歯、虎によく似ているが、これは…。
リール『ジャガーか…。』
これは面倒なことになりそうだ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます