第18話 一葉の思い
一葉side
ある朝
一葉「ふんふん♪ふん♪ふーん♪」
鼻歌交じりに廊下を歩く、向かう先は凛怜の寝室だ。
凛怜は、昨日まで捕まっていたからか、ファミリーに着いてすぐに眠りについた、美桜姉さんが布団の中に潜り込もうとしていたが、流石に阻止した。
個人的な感情はあるが、何より休んで欲しかった。
いつも飄々として、威厳が無いと言われている凛怜だが、1度として気を抜いた事はない。
プライベートの場でも、それは変わらなかった。
私達がいた時は、気を多少なりとも抜いてくれるんだけど、完全にというまでにはどうしてもいかない。
本人曰く、昔取った
そんなことを考えていると、凛怜の寝室の前に着く。
一葉「凛怜?入るよ?」コソコソ
寝ているかもしれないから、起こさないようにこっそりと入る。
しかし…。
一葉「あれ、凛怜…?」
ベッドを見ると、もぬけの殻だった。
一葉「…。」
誰もいないベッドに触れてみると温もりは感じられなかった。
こんなにも冷たいということは、随分前に起きたようだ。
部屋を見渡しても、気配すらないとなると、ここにはいないのだろう。
侵入者が攫っていったという線を一瞬考えたが、その線は直ぐに頭から消す。
ここはクローバファミリーの本部、わざわざ本部に忍び込んでボスを攫うなんて真似をする、おバカさんはいない。
まだ暗殺しに来たの方がしっくり来るが、血の匂いもしないし、荒れてる様子もない。
まぁ、凛怜がやられる訳もないんだけどね。
ここにいないということは、あそこしかないね…。
一葉「まったく、しょうがない人だね…。」
私は部屋を後にし、いるであろう所に向かうのだった…。
凛怜side
凛怜「早く目が覚めてしまったなぁ。」
まだ太陽の顔が半分も出ていない、そんな時間なのに、徐々に周りが明るくなり始め、空が夕焼けのようにオレンジ色に染まっていた。
ここはクローバファミリー本部の屋上で、俺のお気に入りの場所だ。
俺は、そのお気に入りの場所にいながら、考え事をしていた。
サラが何故MIOにいたのか、何故あんな事をするのか、何故…。
いや、こんな事を考えるだけ無駄なのかもしれない。
本来なら、サラが生きてくれていた事に喜ぶべきことなのだが、心の中の凝りが溜まっていくようで、スッキリしない。
これは、俺がやってきた事の報いなのだろうか。
俺は、スラム時代から、今まで多くの人を殺し、奪い、生きてきた。
そうじゃないと、生き残れなかったから、生きる為に、殺していく内に人が死ぬことに慣れてしまう。
人を初めて殺した感触は永遠に忘れないのに、2回目からは身体は殺す感覚に慣れようと試行錯誤し、最終的には作業になってしまっていた。
皆が恐れる、化け物という存在を自分の中で作っていた。
もう嫌だと思っても、俺がこの裏世界に片足を突っ込んだ時から、逃げられなくなっていた。
人の死とはこの手一つでいつでも失わせる事が出来る。
手だけでなく、存在から血に汚れたモノが行き着く先を俺は知ってる。
裏社会は因果応報である。
俺は多くの人に死を与えてきた、ならいつか俺が死を与えられる番になる日も来るだろう。
その時に俺は与えられた死を素直に享受する事が出来るのだろうか。
…いや、皆に怒られそうだな。
ここまで考えて、俺は家族、特に口うるさい2人を想像して、苦笑いを思わず浮かべる。
一葉「やっぱりいたね、凛怜。」
突然の声に驚き、振り返る。
凛怜「一葉?!どうしてここに?」
一葉「凛怜の寝室に行ったら、本人がいなかったから探しに来たんだよ。」
凛怜「よく分かったな、ここにいるって。」
一葉「朝からいなくなる時は、大抵ここにいるじゃないか。」
凛怜「そうだっけか?」
一葉「そうだよ。」
凛怜「そうか。」
一瞬の静寂の中、気まずさが残る。
一葉「…何かあったのかい?」
真剣な顔なのに、どこか不安そうな雰囲気をしている一葉。
凛怜「何でもないさ、ただ風に当たりたかっただけなんだ。」
そう答えると、一葉からの返答はなく、ただ時間が流れる。
けど、一葉の顔を見ると、先程の不安そうな顔からさらに深刻な顔へと変わっていた。
あぁ、そんな顔をしないでくれ…。
凛怜「一葉…?」
一葉「な…んで?」
凛怜「え?」
一葉「なんで、なんでだよ!」
凛怜「ど、どうしたんだよ?」
なんで、こんなにも取り乱しているんだ?!
凛怜「な、なんでそんなに…。」
一葉「分からない?!なんで、分からないの!」
凛怜「…。」
一葉「凛怜、あなたの目の前にいるのは誰っ?!」
凛怜「…。」
一葉「誰っ?!」
凛怜「お、俺の妹…だけど…。」
一葉「そう!妹だよ!家族だよ!それがなんでわかんないの?!」
凛怜「分かってるさ。」
一葉「何も分かってない!凛怜は何も分かってない!」
凛怜「…。」
一葉「家族は支え合うものじゃないの!?一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に怒って、一緒に下らないことをするんじゃないの?!」
凛怜「あぁ。」
一葉「ならなんで、今も独りでいようとするの!なんで独りで戦おうとするの!連れてかれた時だって、私達がどれだけ心配したと思ってるの?!殺されかけたんだよ?!私は凛怜がいなくなるって考えただけで、生きた心地なんてしなかった!なんで!なんでよ!」
涙を流しながら、一葉は俺の懐に飛び込み、俺の胸を殴り続けた。
痛くないが、心にとてつもない痛みを感じる。
一葉の本音の一つ一つが俺に刺さり、俺は何も言えなくなる。
俺はこんな事を一葉に思われていたのかと、自分が生きてきた中で、どんなものよりも痛く感じたそれを、ただ黙って受けることしかできなかった。
一葉「なんで、答えてくれないの?私がそんなにも信用出来ない?私を嫌いになったの?」
それだけは違う。
凛怜「それは違う、違うんだよ、一葉。」
俺はそう言いながら、一葉を力強く抱きしめる。
凛怜「俺はお前達を嫌ったことなんてないんだ。むしろ好きなんだよ、お前達は俺の全てなんだ。」
一葉「なら、なんで…?」
凛怜「だから弱さを見せたくなかった。お前達の為なら俺はこのいのt「それじゃダメなんだよ!」?!」
一葉「それじゃ、ダメなんだよ、凛怜…凛怜がいなくなったら意味が無いんだよ!皆だってそう思ってる!私だって…。」
凛怜「…。」
一葉「凛怜が何と戦っているのか、どんな過去があったとか知ってるよ、だけど、それを独りで背負うことはやめてよ!私達にも分けてよ…。」
凛怜「あぁ。」
一葉「私は凛怜から黒葉一葉っていう何よりも大切なものを貰った。その瞬間から凛怜にこの命を預けてる、だから、凛怜は私を頼って、どんな凛怜でも私は受け入れるし、離れることなんて絶対しないから。」
凛怜「…そうか、ありがとう。」
一葉「うん、だからもう無理はしないでね。」
凛怜「あぁ、肝に銘じとくよ。」
そう言うと、俺はまた強く抱き締めた、ごめんという意味とありがとうって言う意味を持ったその行動を身体全体で感じて、貰えるように。
一葉「安心するでしょ?」
凛怜「あぁ、安心する。」
一葉「惚れた?」
凛怜「バカ言うなと言いたい所だが、惚れそうになったよ。」
一葉「ふふ、そのまま惚れちゃっていいんだよ?」
凛怜「あはは、紅葉達に怒られそうだな。」
一葉「そうやって、話を逸らさないの。」
凛怜「そんなつもりは無いさ、ありがとう一葉。」
一葉「いいよ。」
凛怜「」フワァ
気が抜けてしまったのか、少し眠くなってくる。
一葉「寝ていいよ?膝貸しといてあげるから。」
凛怜「そうか?じゃあお言葉に甘えて。」
一葉「ふふ、この利子は高く付くよ?」
凛怜「それは…こ…わい…な。」スヤァ
目を閉じる前に、見た一葉の顔はより一層、魅力的に見えたのは内緒の話。
一葉side
凛怜が私の膝で眠ってしまった。
熟睡している彼はとても安心した様子で、私は安堵と共に、先程までの事を思い返し、悶えそうになる。
あんなに感情的になるとは思わなかった。
でも、これで良かったと思ってる、少しでも凛怜に気持ちを伝えることが出来たんだから。
ふと、凛怜の髪を撫でてみる、さらさらで太陽に反射してキラキラと銀色に輝く髪に見惚れてしまっていた。
美桜「もう寝ちゃったようね?」
一葉「やっぱり来てたんだ。」
美桜「あら、気づいてたの?」
一葉「なんとなくね、見ちゃった?」
美桜「えぇ、ばっちりと。」
一葉「それはとても恥ずかしいね…。」
いきなり現れた美桜姉さんに全部見られていたなんて…。
美桜「珍しいわね、あなたがあそこまで感情的になるなんて。」
一葉「…このお馬鹿さんのおかげかな。」
美桜「ふふ、本当に罪な人。」
一葉「これからも、支えないとね。」
美桜「当然よ、あ、次は私が膝枕する番ね?」
一葉「嫌だよ、ここは譲らないから。」
まったく、おかしなことを言う。
美桜「あなたばかりずるいわよ。」
なにか文句を言ってくるが、無視しよう。
ねえ、凛怜?好きだよあの時からずっと…。
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