第16話 断罪


美桜side


ひ、久しぶりに、凛怜の殺気を受けたわ。

この時の凛怜の怒り方は、なんというか、恐怖を植え付けるものじゃない、冷や汗はかくけど、例えるなら、親が子に叱るようなものだ。


凛怜の怒りは2種類ある。

相手が家族や友人、仲間だった場合は、表情があり、相手が敵だった場合は、表情がない。

何を言っているんだと言われるかもしれないけど、表情がない時の凛怜は、冷酷で冷淡、目の前の人間を人間として見ていない。

昔のように、恐怖をこの世にいる限り、いや死んだ後も忘れさせないよう、心の芯にまで植え付ける。

運良く生き残った者もいたらしいが、その恐怖が忘れられず、トラウマになり、発狂するようになった。

普段は滅多なことじゃないと怒らないが、そういう人に限って怒らせると怖いというのは本当なんだろう。


私達も1回見たことがある、みんなは分からないけど、私は少なくとも綺麗だと思った。

思えばその時には惚れていたのかもしれない。


…話が逸れたわね。


グラ「まぁまぁ、凛怜君、落ち着いて…ね?」


宥めるグラレスに対して凛怜は頭を下げた。


凛怜「うちの連中が、失礼した。後で言い聞かせておきますので、どうかご容赦を。」ペコッ


謝罪の言葉を丁寧な口調で言う凛怜に。


グラ「そう思いつめないでくれないかい?それに、丁寧な口調の凛怜君はなんというか気持ち悪い。」

レギ「確かに、違和感があるね。」

凛怜「おい、え?なに?しばかれたいの?」

グラ「待っておくれよ、僕はまだ死にたくないからね。」

レギ「それは僕もだなぁ。」

凛怜「俺が殺すなんてへまをするわけないだろ、やるとしたらお尻ペンペン(超手加減)くらいだ。」


グラ+幹部「うっ…。」


お尻ペンペンというワードに皆、それぞれのお尻をさする。

あれを食らった人には分かる。あのお尻ペンペンの絶妙な痛さを。


レギ「あー、あのとんでもない音がなる奴だね、とても痛そうだよね。」アハハ


痛そう?痛いわよ!あんなの食らったら、意識飛ぶわよ!でも意識を飛ばさない、ギリギリの所まで加減をするから、より痛さが際立つのよ!

というか、グラレス長官も、食らってたのね…。


レギ「まぁ、無駄話はここまでにして。」

グラ「そうですね。」


2人とも、副長官に顔を向けた表情はそのままだがどこか冷たいものを感じさせるような笑顔だ。


レギ「誤逮捕でも問題だと言うのに、あろう事か、凛怜君を隷属させようなんて、君はふざけているようだね?」

グラ「副長官殿、君の行為は目に余りすぎているよ?」

どうやら、2人も音声を聞いて、激怒していたようだ。

副長官「い、いや、こいつは我らの戦力として使おうとしただけであって、あれは言葉の綾というか…。」

グラ「こいつ?使う?僕の友人を物みたいに言うのはやめて頂きたいね。」

レギ「グラレス君、僕らだよ。副長官、君は、それ相応の罰を受けてもらうよ?」

副長官「わ、ワシは何もしていない!そ、そうだこれは全て長官の命令でやった事だ!」


支離滅裂とはこの事を言うのだろうか。


美桜「…はぁ、なにそれ。」

副長官「ほ、本当だ、信じてくれ!」

レギ「それは、本当なのかい?グラレス長官。」

グラ「いえ、そんな許可を出した事は一切ないですね。逮捕の許可も出した覚えもありませんよ。」

副長官「そいつは嘘つきだ!ワシが本当のことを言っているのが分からんか!」


こうも醜いと逆に哀れに思えてくるわね…。


美桜「あなたの嘘はここにいる全員が分かってるわよ。」ピッ


私は、独房にいた凛怜と副長官の会話の音声を再生した。


凛怜『ところで、副長官殿、この決定はあなたの独断かもしれないなんていう噂を耳にしたが。どうなんだ?』

副長官『それを知ってどうなるというんだ?』

凛怜『どうせ俺は死ぬんだろ?冥土の土産に教えてくれよ。』


副長官『しょうがないな、話してやろう。今回の決定はワシが直々に出したものだ。長官の耳にも入れる必要などない、ワシにはその権限があるからだ。貴様を殺すことで、ワシが作るMIOは磐石の地位を築く事が出来る、そして誰もワシには逆らえなくなるのだ。どうだ、すばらしいだろう?』


再生終了


副長官「な?!き、貴様そんなものまで…!」ギリッ

副長官は、悔しそうに表情を歪める


副長官「これこそ、合成だ!貴様ら、ワシを嵌めて楽しいか!」


セグ「いい加減にしてください。私も調べてきましたが、あなたの行動は目に余る。あろう事か、長官を罪人に仕立て上げ、私のを操り人形のようにし、辱めようとする?取り締まる側の人間のはずが、罪人を擁護し、自らの罪も認めない、そんなあなたにお似合いなのは牢屋だけです!

私は公私混同せずに全てを平等に判断しますが、この時ばかりは私情を入れさせていただきます。たっぷりとその身で償いなさい!」


真面目でクールなセグレットが副長官を怒鳴りつけた。

その様子にその場にいた全員が呆気にとられている。

もちろん私も、そうだ。

あのセグレットが私情を持ち込むと宣言したのだ、これが驚かずしてなんという?


セグ「」ハッ

セグレットはハッとなり、レギンス総督に向き直り。


セグ「この男を連行します、かまいませんか?」

レギ「あ、うん、よろしくね。」


セグ「では、誰かいますか。」

「はい。」

そういうと、看守が数名入ってきた。

セグ「この男を牢屋に入れておいてください。また詳しい話を聞きますので。」

「承知しました。いくぞ!」

副長官「わ、ワシは悪くない!悪くないんじゃ!」

「うるさい!ササッと歩け!」


まだなにか叫んでいるが、そんなもの誰も聞いちゃいない、ただ、沈黙だけがその空間を支配しているだけだった。

その沈黙を破ったのが。


一葉「失礼するよ。」

入ってきた、一葉だった。

凛怜「一葉、おっす。」

一葉「凛を通して、聞いていたけど、相変わらず軽いねぇ。」

凛怜「これが俺だからな。」

一葉「はは、そうだね。それで終わったの?」

凛怜「あぁ、見ての通りだ。」

一葉「…それで、この状況は何?」


不思議な顔をして、周りの見渡す一葉に凛怜は答える。

凛怜「んー、なんて言うべきなんだろうな。」



そう言うと、その顔はニヤニヤとしながらも、セグレットに向き直り。


凛怜「なぁ、セグレット。」ニヤニヤ

セグ「その顔なんだかムカつきますね…なんですか?」

凛怜「ひでえなぁ、まぁいいや、お前、俺の事友人だって思ってくれてたんだな。」ニヤニヤ

セグ「…そうですが、何か?」

凛怜「え?いや、うん。」

セグ「なんですか?急にどもって気持ち悪いです。」

凛怜「いや、なんかうん、素直になられると逆に困るというかなんというか…。」

グラ「あはは、あまり凛怜君をいじめちゃダメだよ、セグレット君。」

セグ「いえ、そんなつもりはありませんよ、長官殿。」

レギ「凛怜君は人気者だねぇ。それより妹さん達は良いのかい?」

凛怜「あぁ。」

レギンス総督がそういうと、凛怜は私達に向き直り。


凛怜「紅葉。」

紅葉「…なに?」


凛怜「瑠衣。」

瑠衣「なんだい?」


凛怜「愛凛。」

愛凛「なんだ?」


凛怜「美桜。」

美桜「なに?」


凛怜「一葉。」

一葉「んー?なんだい?」


凛怜「凛。」

凛「なにー?」


凛怜「怜。」

怜「…なに?」


凛怜「俺の為に色々してくれて、ありがとうな!」


紅葉「当然じゃない。凛怜は私がいないとダメなんだもの。」

瑠衣「僕達…でしょ?すぐ危険なところにいくんだもの。」

愛凛「まったくだ、本当に心臓がいくつあっても足らんよ。」

美桜「世話のかかる人の方がやりがいはあるけどね?」

一葉「まぁ、悪い気はしないね。」

凛「よがっだ、凛怜に゛ぃぃぃ!」

怜「本当に良かった…。」


凛怜「ふふ、やっぱり全員揃うといいな。」


この時の凛怜の表情はとても綺麗に、心の底から嬉しそうに笑っていた。

そんな表情を見た私達も、凛怜と同様、笑顔で溢れていた。


凛怜「さぁ、帰るか!」

幹部全員「了解、ボス!」


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