第10話 死より辛いもの


セグレットside



凛怜さんの処刑が決まってから5日が経った。


凛怜さんの様子は以前と変わらず、いつも通りだ。


凛怜「おー、セグレットどうした?そんな怖い顔して。」

セグ「…あなたは怖くないのですか?」


処刑される人間を数多く見てきた。

それこそもう数えるのを止めたくらいには、その中で、どんなに悪質な事をやってのけた人でさえ、最後は死を恐れ、生に固執し、気を狂わせた者がほとんどだった。

裏社会の命の価値というのは非常に軽い、それを分かっている者さえ、生に縋る。

しかし、凛怜さんからは死に対する恐れを感じられない。


セグ「あなたは死にたいのですか?」


私は今どんな顔をしているのだろうか。

自分でも分からない、この人の事は嫌いだが、今死んでいい人ではないのは確かだ。


凛怜「怖いさ、もちろん死にたくもない。」


言葉とは裏腹に穏やかな表情をする凛怜さんに、何だか矛盾した物を見るような目で見てしまう。


凛怜「思ってなさそうって顔してんなぁ。」


私の表情から思っていることを察して、私にそう言ってくる。


セグ「私は死にゆく人達を見てます。あなたはどの人にも当てはまらない。なぜ、そんなにも穏やかでいられるのですか?」

そう問うと、凛怜さんは頭を上に向けて。


凛怜「怖いに決まってる。ただ、それより怖いものがあるってだけだ。」


死よりも怖いもの?そんなものあるのでしょうか?


セグ「…何かお聞きしても?」


凛怜「期待する事を止める事だよ。」


セグ「それの何が怖いんですか?それに、普通はされるではないのですか?」

凛怜「まぁ理解して貰えるとは思ってないさ。されなくなったら辛いっていう人は多いが、俺はしなくなる方が辛いんだよ。」

セグ「いまいちピンとこないです。」

そう言うと、凛怜さんは私を一瞥し、すぐに視線を戻した後。


凛怜「俺は期待する事を諦めていたんだ。」

セグ「…それは異常種だからですか?」

凛怜さんは首を縦に振る。


凛怜「あぁ、それもあるけどな、期待ってさ、どんな人にすると思う?」

唐突な質問に、私は戸惑いながらも答える。

セグ「…やはり、信頼する人…でしょうか?」

凛怜「あぁ、家族、恋人、友人、人間関係は多岐に渡るけどな、期待する人は共通して信頼がある人だけだと俺は思ってる、だけど俺にはそれがなかった。」

セグ「…。」


この人の過去を知らない。

なので、この人の苦労を私は知る由もないし、今後も知る事はできないだろうと思う。


凛怜「期待をしないって事はその人を信頼しないのと同義だ。1人でやる事は悪いことじゃない、ただ、満たされないんだ、どこか物足りなさを感じてしまう。周りの景色が冷たく暗い空間で終わりが見えないまま、1人ずっとさまよい続けるような感覚にずっと襲われる。怖いと言おうとしても、寂しいと言おうとしても、助けを求めようとしても、期待しないから傷を無視しながら、奪い、殺し、いつの間にか、それしか出来なくなってた。」


終わりの見えない暗い場所、普通の人ならすぐに、正気を失うような、そんな思いだったのだろう。

正直、推測でしか想像はつけられないが、手を差し伸べる人は1人もいなかったのかもしれない。


凛怜「そんな俺が家族と呼べるものに出会って、期待していいと思えるようになった瞬間、黒一色だったものに彩りが出来た。付随して、俺に人を想う心が宿った。」

見たことがないような静かで綺麗な笑みにすこし見惚れてしまう。

いつものひょうきんとした笑みとは全く違う、前に見たような、月のような笑み、凛怜さんの素のものなのだろう。


セグ「もし、また期待できなくなってしまった場合、あなたはどうするんですか?」

凛怜「IFの話は、あまり好きじゃないんだが…。」

セグ「真面目な話です。」

凛怜「…そうだなぁ、迷わず死を選ぶかもしれないな。」

セグ「…そうですか。」


私の質問に答えた時の表情は、本当にやるのだと確信させるには十分すぎた。


凛怜「まぁでも、死ぬのも怖いぞ?」

セグ「その割には穏やかなので、本当にそうなのか疑ってしまいますよ。」

凛怜「今回は死なないってのも理由の1つだからな。」

セグ「なぜ、そう思うのです?」

凛怜「ファミリーの皆やセグレットがいるから。」


いつも通り勘の一言で済ませると思っていたが、そうではなく、私たちがいるからだと言う。


まったくこの人は…。


セグ「…これは、貸しですからね?」

凛怜「えー、しゃーないなぁ。」

セグ「通常はこんなこと絶対にしませんが、今回は特別でやっているんです。私もリスクを負っている以上、何か貰わないとやっていられませんよ。」

凛怜「まぁ、そりゃそうだな。ありがとなセグレット。」

セグ「お礼なら、あなたがこの危機を脱した時に言ってください、まだ気が早いというものです。」

凛怜「まぁいいじゃねえか、別に減るもんじゃないだろ?言っておいた方が得だしな。」

セグ「そういう問題ではありません、あなたは警戒心をもっと持つべきです。」

凛怜「あはは、面目ねえな。」

セグ「本当に、締まらない人ですね…。」


凛怜「ふふ、まぁセグレット、してるぞ。」

セグ「えぇ、期待しててください。」


期待されているならば、その期待に応えてあげましょう。

私の全てを賭けて…ね。

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