第33話 盗賊との戦闘

さあ、ダンジョン都市へ向けて再出発だ!

昨日、影の中でゴロゴロしながら冷静になって盗賊対策を考えてみた。

そして盗賊を見たら全力で逃げる!と結論づけた。

魔物は見れば大体強さが分かる。事前にギルドの資料室である程度情報を仕入れているからだ。しかし、盗賊は見た目では強さが分からない。相手が高レベルのスキル持ちだったら俺は手も足も出ないだろう。そもそも圧倒的な人数差も不利だ。俺が轢いてしまった盗賊の人も多分かなり強い人だったのではないかと考えている。結構な速度が出ていたスピーダー一号機を顔面で受けて生きていたのだ。それどころか意識を失っている様子もなかった。おそらく高レベルの頑強スキル持ちだった可能性がある。やはり逃げて正解だったのだ。俺はまだまだ弱い。訓練場の模擬戦でも冒険者の人たちに結構負けているし。強さの分からない人間とは戦うべきではないのだ。


途中の村に立ち寄って宿屋を覗いてみたが、あまり綺麗な宿屋ではなかった。宿泊はやめてこの日は影空間で過ごすことにした。影の中は真っ暗だが快適だ。暗視スキルがあれば不便もないし。シュバルツの恩恵はこの影空間が広くなったことが一番大きいな。のんびり夜を明かそう。


更に旅を続けていると十字路に出た。ダンジョン都市を示す看板もある。ここまで来ればダンジョン都市までもう一息だ。スピーダー一号機の速度なら今日中には到着できるだろう。


少し進んだところで前方に馬車が見えたので、スピーダー一号機を止めた。馬車の周囲には護衛と思われる人もいる。うーん、どうしようか。追い越したいけどここは左側は林、右側は斜面になっている。後ろをついていくと不審者だと思われそうだし、何より馬車は遅い。俺が走った方がよっぽど速い。ということでスピーダー一号機は影にしまって上空を走って追い越すことにした。警戒させてしまうと良くないと思うので、少し高めの高度を進むことにした。走って旅をするのも良い訓練になったのかもしれないな、と考えながら馬車の方を上空から見下ろすと馬車は三台いた。俺がさっき見ていたのは後ろの大きい荷馬車だ。それがもう一台一番前を走っている。その間を走っているのは小さい馬車だ。おそらく荷馬車ではなく、乗車専用の馬車だろう。遠目ではっきりと分からないが装飾のされた馬車のようだ。金持ちか貴族の馬車かな、面倒事の匂いがする。早く追い越してしまおう。

ここまで来れば降りても大丈夫だろうというところで、高度を下げることにした。そこで見えてしまった。また盗賊と思われる10人以上の集団が林の中にいる。いくら治安が悪いと言っても、この地域は盗賊遭遇率が高すぎないか?こんな地域で商人の人たちは仕事ができるのだろうか。逆に魔物の遭遇率は低い。これは盗賊の人たちが魔物を討伐しているということか?だとしたら盗賊の人たちが高いスキルレベルを保有している可能性がまた高まってしまった。

あの貴族一行と思われる集団はこのまま進むと襲われるだろう。関わりたくないが、一応教えてあげるべきか。


俺は貴族一行と思われる馬車の少し前に降りた。空から人が歩いてきたら当然警戒するだろう。護衛の兵士らしき人が槍を向けてきて叫んできた。

「止まれ!何者だ!」

「止めてしまって申し訳ございません。私は旅をしている者なのですが、この先の林の中に盗賊と思われる集団が見えました。お知らせするべきと思ってお声を掛けさせて頂きました。」

疑わしそうな目でこちらを見て、兵士の人たちで何か相談をしている。

「賊は何人くらいだったか分かるか?」

「上空からだとはっきりした数は分かりませんでしたが、最低でも10人以上はいたと思います。」

「多いな・・・分かった。情報感謝する。しかし、お前が賊の仲間でこちらを罠にかけようとしている可能性も捨てきれない。この場にしばらく残ってもらう」

「分かりました。」

兵士の人は馬車の護衛と盗賊を追い払う部隊の二つに分けるようだ。追いかけて討伐まではする気はなさそうだ。まあ護衛途中でそんなことはしないか。正直なところ、盗賊と兵士の戦闘を見てみたかった。大体の盗賊の実力を把握しておく必要があると思っているからだ。

盗賊を追い払う部隊の人たちが林の中に入っていった。逆に奇襲を狙うつもりだろう。うまくいくと良いが。

しばらくすると戦闘が始まったような声が上がった。


うーん、追い払うだけにしては時間がかかり過ぎている気がする。まだ戦闘していると思われる音は聞こえている。叫び声や金属音が響く音もかすかに聞こえる。すると、兵士の一人が慌てたような様子で戻ってきた。

「盗賊の増援がきた!すぐに馬車を出せ!全力で駆け抜けろ!」

ここは馬車を方向転換させることができないので、進むしかないようだ。兵士や御者の人たちが慌ただしく動き出した。俺も逃げていいかな。

「あの、私は逃げても良いでしょうか?」

「お前も付いてこい!」

ええ~、俺まだ疑われてんの?分かったよ、分かりましたよ。ついて行きますよ。はぁ~無視して進めば良かったな。

護衛の兵士の人たちが先行する。街道を何とか死守するつもりのようだ。その後ろを馬車が続く。その隣を俺も続く。林の中はかなり激しい戦闘になっているようだ。双方の被害がどれくらいなのかも分からない。いよいよ戦場を通り抜けるというところで、矢が何本も飛んできた。俺は最後尾の荷馬車の陰に隠れながら進んでいる。不幸中の幸いなのは林側だけにしか盗賊はいないことだろう。向かいの斜面の方は気配を感じない。挟撃されてたらもう絶望的だったね。しかし、飛んでくる矢が止まる気配がない。街道を死守するための兵士の人たちも防戦一方だ。前方の方で何か騒ぎが起きているようだ。一番前を走っている荷馬車の御者の人に矢が当たったらしい。チャールズさんだったらこんなことにはならないのに。この御者の人たちはどうやら凡人のようだ。しかし、馬に矢が当たらなかったのは奇跡だな。

戦場を抜けきったようだが、一番前の荷馬車は暴走している。そして横転した。上手い具合に後ろの馬車二台はその横を通り過ぎることができた。街道を死守していた兵士の方々が殿を務めて追いかけてくる。

結局、荷馬車一台と多数の兵士の方々が犠牲になったものの戦場を抜けきれたようだ。


俺は小さい馬車の隣を走っていた兵士のリーダーと思われる人の元へ向かった。

「あの、私はもう失礼してもよろしいでしょうか?」

「・・・ああ、そうだな。引き止めて悪かった。」

「では、失礼します。」


俺は街道脇に移動してスピーダー一号機を取り出して乗った。

兵士長の隣を通り過ぎるときに軽く会釈しておいた。


いやあ、一時はどうなることかと思ったが、全滅という最悪の結果は免れた。兵士の人たちはたくさん亡くなられただろうけど、あれは盗賊の増援というイレギュラーがあったのだから仕方がない。あの貴族と思われる人は本当に運が良い人だ。馬に矢が当たらなかったんだからな。

どう考えても襲う盗賊側の方が有利なのだ。馬に一本でも矢を当てればもう盗賊側の勝利は確定したようなものだろう。今回はこちらから奇襲をかけたから罠なども無く、向かいの斜面からの挟撃もなかった。それでもこちらは圧倒的に不利だった。兵士の人たちは馬車を守らないといけないから攻めきれず防戦一方。対して盗賊側は林の中から隠れて弓矢で攻撃してれば良いだけだ。

冒険者の依頼にも護衛依頼があったのは見たけど、こんなのどうやって護衛するのだろうか。盗賊に出会ったが最後、積荷が助かる見込みはほぼゼロだろう。盗賊に出会ったら馬や積荷を捨てて、さっさと逃げるか思い切って攻撃を仕掛けるかしかないな。きっとローレンス商会の人たちなら後者を選択するだろう。いやあの人たちは馬を守る手段も何か用意していたとしても不思議ではないか。チャールズさん一人で全てを解決してしまいそうな気がする。

今回の件で盗賊の恐ろしさがよく分かった。俺は盗賊を舐めていたようだ。最初はちょっと知恵の回るゴブリンくらいに考えていた。それが高いスキルレベルを保有している可能性に加えて、圧倒的に有利な襲うという立場。早くこんな物騒な地域から離れなければならない。俺がこの地域に足を踏み入れるのは早かったのだ。目的の買い物を済ませてさっさと帰ろう。

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