第17話 協力者
俺たちは、目立つことを避けて別行動をとることにした。2人ずつに分かれる。俺は楓と協力者が支配人をしているホテルに向かうことになった。
このホテルの支配人は、香川警備保障襲撃の時の依頼人を匿うなど、何度か協力してもらっている。過度な地上げで苦しんでいるときに依頼を受け、それからの付き合いだ。電話で連絡すると、快く引き受けてくれた。
俺たちの潜伏先がバレてしまうことよりも、ホテル側に迷惑をかけたくない。だから、ホテルを特定されてしまうことを避けなければならなかった。単独行動も考えたが、ルーシーは道がわからない。ダンゴムシとルーシー、ミントとロイホのペアにしてしまうと、もし襲撃されたらミント・ロイホペアの方は明らかに戦闘能力が低い。ということで、ミントはルーシー、ロイホはダンゴムシとペアになり、協力者のホテルで落ち合うこととなった。
店を出ると、それぞれバラバラの方向へ歩いた。店の外に怪しい人間がいないか注意を払う。停車している車もなく、ドラマのようにわかりやすく張り込みをしている人間もいなそうだ。必要以上の電車やバスの乗り換え、ペアになった楓と落ち合う場所を決めて別方向に歩いたり、と尾行されないように注意した。途中で、そこまでしなくても、という安易な考えの楓に、念には念を入れないと、と諭し、通常の3倍以上の時間を使ってホテルに到着した。
支配人は俺の腫れた顔を見てギョッとした顔をしたが、一瞬でホテルマンの顔に戻した。スタッフ専用のエレベーターに誘導され、用意されたセミスウィートルームに案内された。
「遅えよ」
先に着いていたのは、ダンゴムシとロイホのペア。
「1時間以上も待ったぞ」
ダンゴムシは、ニコチン、タール0の電子タバコを咥えていた。禁煙のホテル内ではタバコが吸えないと、来る途中で買ったらしい。勝手気ままなダンゴムシでも、協力者には気を遣うくらいよ常識は持ち合わせているようだ。
「疲れたよぅ。シンちゃんがさぁ、尾行されてないって言ってるのに、電車反対方向に乗ったり、また同じ駅に戻って同じ人がいないか確認したり、もう大変」
楓がそうボヤいて、冷蔵庫からミネラルウォーターを出して一口飲んだ。
「本当に2人くらい、怪しい奴いたんだって。楓は危機感が足りないんだよ」
俺は反論すると、楓の顔色を伺った。プイッとそっぽを向く仕草に、少し言いすぎたかとヘコむ。それを眺めていたロイホは感心したように頷いている。
「そうですよね。もっと危機感を持たないと。俺もね、ダンゴムシさんに言ったんですけど、ダンゴムシさん、真っ直ぐここへ向かってきただけなんですよ。尾行してくる奴がいたら倒せばいいとか言っちゃって。それで途中で電子タバコなんて買って。こっちがヒヤヒヤしますよ」
ロイホが挙動不審で、キョロキョロしながらダンゴムシの後をついていっている姿が想像つく。
「バカ、そんなもん堂々としてりゃいいんだよ。変な動きをしてる方が、かえって目立つからな」
反省の色もないダンゴムシの口から、もうもうとニコチンタール0の水蒸気が吐き出された。
「似合わないですね」
俺の率直な感想は、うるせえよ、の一言で片付けられた。
そうこうしているうちに、ミントとルーシーがやってきた。女子高生のようにキャッキャ言いながら、楽しそうに談笑しながら入ってきた。ミントはデパ地下の紙袋を下げている。こちらのペアも途中で買い物を楽しんできたらしい。
「驚イタヨ。日本ノ、スイーツハ、ドレモ美味シイネ」
どうやら買い物だけではなくて、何か食ってきたらしい。
「あそこは、いつも1時間以上は並ぶんだけど、すぐに入れてラッキーだったね。これはみなさんにお土産です」
そう言ってチーズケーキを冷蔵庫に仕舞った。
「遅えよ。どこ行ってたんだよ」
イラついてダンゴムシが聞くと、ケーキバイキング、と超呑気な返答が返ってきた。ダンゴムシが溜息を吐くと、キョトンとした顔のミント。
「だって、こちらが常盤麗子が警察関係者だって気付いない態を作らなきゃダメですよ。女子2人でケーキバイキングしてたら、もし偵察してる人が見ても、こちらの動きに油断するでしょ」
「ソレニ、モシ怪シイ奴イタラ、倒セバイイカラネ」
呑気なミントに、攻撃的なルーシー。ルーシーとダンゴムシはやっぱり夫婦だ。
キーボードの音がカタカタする。気づくとロイホはパソコンを開いて、いつの間にやら冷蔵庫から出したチーズケーキを食べていた。
「警視庁のNシステムにハッキングしました。警察関係者の車両ナンバーは、どうやらこのホテルの付近にはいないようです。まあ、徒歩で尾行されてたらわかんないですけど。あと支配人には、宿泊客以外で怪しい人がいたら連絡してくれるように言ってあります。現在報告されてるのは、2階のロビーに4名。外資系の中古車販売会社と代理店が商談をしているようです。会社と社員を調べたところ、一致したので警察関係者ではないと確認取れました」
無駄のない流暢な報告ぶりで、ロイホもむかしの勘を取り戻してきたようだった。
「じゃあ、まず、これからどうするかだな」
部屋の真ん中にある丸テーブルと囲み、みんなが座ったところダンゴムシが切り出した。
「この不知火依里の目的が何かだ。それを知らなきゃ始められない。とりあえず、この女の目的を探る」
「探るって、どうやって?」
楓が聞いた。
「この女を、拉致する」
ダンゴムシ以外全員が、唖然とした顔をした。警察関係者を拉致するなんて、そんな危険なことできるのだろうか。
「この女は、お前らに顔を見られてるから、それ以降は大っぴらにできずにいるはずだ。警察にも出勤してないはず。多少の護衛はあるかもしれないが、本人が警察官なら単独行動してる可能性だってある。ともかく、こいつは潜伏してるに決まってる」
「じゃあ、どうやって見つけるのよ」
楓はテーブルに身を乗り出して聞いている。ルーシーは、でかいサバイバルナイフにヤスリをかけて、窓から入る日光に照らし、輝きを確かめている。俺の顔のすぐそばでサバイバルナイフを持ち上げたりするので、俺は少し椅子をずらしてルーシーと距離をとった。
パンッと、キーボードの音。このちょっと大きい単発の音は、ロイホがエンターキーを押した音だ。
「不知火依里の居場所、わかりました。不知火の私用の車両ナンバーから検索しました。静岡県にいますね」
全員に緊張が走る。
今、澤村の乗っているタクシーは、里穂と慶太を乗せて静岡に向かっている。
楓は急いで澤村に電話をかけた。
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