ロビンソンと植民地

 文化的表象と社会構造の間には密接な関わりがあると言われています。

 西洋史においてこのことは負の側面……植民地主義や帝国主義の観点から語られることが多いです。


 ここでは有名な例を取り上げましょう。

 ダニエル・デフォー著『ロビンソン・クルーソー』。無人島でのサバイバル大冒険物語です。

 イギリス小説の祖とも呼ばれるこの作品は、イギリスが植民地主義に突入していた頃に書かれました(1719年)。そのため、植民地の支配者側の感覚がゴリゴリに描き出されているというのが、近年の定説です。


 もちろん、『ロビンソン・クルーソー』は文学的な価値が高い作品です。時代背景を理由にこの作品の魅力を否定することは、ナンセンスだといえるでしょう。しかし、だからといって負の側面から目を背けてしまうことは、真実を無視することに繋がりますから、これもまたナンセンスです。

 一つの作品と向き合うに当たっては、複数の視点を持つことが重要なのです。


 このことを踏まえた上で、『ロビンソン・クルーソー』を読み解いていきましょう。


 この話のあらすじは、見知らぬ島に漂着した主人公が、自分の知識を用いて生き残って地位を築き上げ、周囲から感謝と称賛を受ける、というものです。


 では、負の側面とはどんなものでしょうか。

 まず、ロビンソンが遭難して打ち上げられたカリブ海の無人島には、野蛮な食人種が訪れて来る、という設定があります。

 ここには、未開の地の原住民に対する恐怖や無理解や侮蔑が表れている、といわれています。


 また、ロビンソンは、いけにえとして食われそうになっていた食人種を助けてフライデーと名付け、彼に英国文化の素晴らしさを教えます。フライデーはロビンソンに心酔し、これまでの習慣を捨てることにして、ロビンソンに服従を誓います。

 このエピソードには、野蛮な人種に文明国のやり方を教えるのが正義だという思い込みや、野蛮人はそれに感謝して文明人を敬うべきだという観念などが、含まれているといえるでしょう。


 そして最終的に英国に帰ったロビンソンは、その無人島の支配者に任命されます。

 これはもうダイレクトに植民地主義を表していますね。


 『ロビンソン・クルーソー』を的確に評価するためには、こういった側面を念頭に入れる必要があります。

 ある作品に取り入れられた時代背景はどんなものなのか、またその作品がその時代にもたらした影響はどんなものだったのか。そういった視点を持つことは、歴史学的にも意義があることです。

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